女性の日常と共にある銀座の優しい映画館シネスイッチ銀座

ラジカル鈴木の味わい映画館探訪記

全景

 また残念なニュース。取材の候補だった有楽町スバル座が10月で閉館。気を取り直し銀座へ。連載で銀座は初。昼は買い物、夜は酔客でにぎわう三越、和光の交差点、銀座四丁目。地下鉄銀座駅A10番を出て徒歩1分、裏路地・ガス灯通りに、いつも女性客があふれている映画館がシネスイッチ銀座。鑑賞前に、ランチする場所はAからB級まで事欠かないし、表の銀座中央通りの山野楽器でDVDを物色したり、教文館で雑誌のバックナンバーを読んで待つのも良し。

今月の映画館「シネスイッチ銀座」

 古く見えないが築64年の建物。1955年、銀座文化劇場1・2が開館した。1987年、運営の籏興行株式会社と、配給会社ヘラルド・エース、フジテレビの出資で、2館のうち1館は名画座として洋画のクラシック作品を上映。もう1館は名前の由来となる洋画と邦画を切り替えて上映するシネスイッチ銀座に。オープニング作品『あなたがいたら/少女リンダ』(1987)は、成人したばっかりの僕には刺激的でしたネ~。

和光
銀座四丁目交差点のシンボル、銀座和光。このすぐ裏。

 この頃のペーター佐藤氏によるイラストの表紙のパンフレットが懐かしい。将来こんな仕事をしたいと思った。時はまさにミニシアターブーム。単館の興行記録1位の『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)は40週のロングランで27万人を超える観客動員、3億6,900万円の収益を上げる。お客はまだまだ来たが、ブッキングの関係でここまでとなったという。

 余談だが、かつてヘラルドの本社は、ここからほど近い晴海通り・三原橋にあって、試写室によく行った。水野晴郎さんにお会いしたり(笑)。またシネスイッチ銀座の籏興行といえば、僕の地元埼玉県大宮にハタプラザが以前あり、1970~80年代、その中の3つの映画館で、たくさん観たな~。

 1997年4月にシネスイッチ銀座1・2としてリニューアル。落ちついた照明のロビー、くつろぎの椅子、チラシが並ぶ棚。カウンターにはドリンク、お菓子、パンフレット、作品にちなんだ書籍も。場内の飲食はOK。B1のスクリーン1は、入ると今では珍しい2階席にあたり、1階席に降りるにはさらにB2へ。夜の森をイメージした茶系でまとめられ、壁は温もりを感じるコペンハーゲンの木材を使用。青系で深海をイメージしているスクリーン2はビルの3階にある。

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単館興行史に残るヒット3作で、個性確立

窓口
座席表を見ながらの券売は、1階カウンター窓口にて。

 僕が同館で観たのは『モダーンズ』(1988)、『可愛いだけじゃダメかしら』(1993)、『Love Letter』(1995)、『I SHOT ANDY WARHOL』(1996)、『ドーベルマン』(1997)など多数。

 この辺りは当時通っていた渋谷のシネセゾン渋谷と似ているが、『ニュー・シネマ・パラダイス』をはじめ、同館での興行収入2位の『ライフ・イズ・ビューティフル』(1998)、3位の『リトル・ダンサー』(2000)などから個性を発揮。

 『フリーダ』(2002)、『かもめ食堂』(2005)、『ラスト、コーション』(2007)、『蛇にピアス』(2008)、『東京島』(2010)、『ブルージャスミン』(2013)などなど、この頃になると明確に現在の傾向になった。

レディース・デー発祥の地

1への階段
スクリーン1への地下への階段。上映中の作品のディスプレイがきれい。

 同館は、レディースデー割引を最初に始めた映画館である。水曜日のところが多いが、こちらは毎週金曜日。週休二日が導入され、“花金”という言葉がはやり、都心で働くOLさんに、友人を誘って週末にゆっくり映画を観てもらうためだ。ちなみに今回鑑賞した時に、並んでいた男性は僕1人だった(笑)。

 消費税が上がり、シニア料金が100円上がったが他通常料金はすべて据え置きなのがありがたい。

 また今年の7月からインターネットでの予約を開始。「導入は遅かったですが、年輩のお客様にも好評です。ツイッターでも“遂に始まったか~!”って(笑)。スマートフォンを持ったいわゆる“アクティブシニア”の皆さんが思いのほか多く、すんなり移行できました。予約は6日前から可能です。急だと予定も変わってしまうし、ゆとりを持って計画できませんよね」と、興行部長・吉澤周子さん。

 「うちは1本の上映期間は約1か月です。シネコンは上映サイクルが2~3週間と早いですが、ある程度余裕を持ってご覧いただきたいのです。『ライフ・イズ・ビューティフル』は26週間やりましたが、当時は単館のみでの興行が当たり前の時代でした。今は状況も変わり、『ライフ・イズ・ビューティフル』の興行収入規模だと、全国300館くらいでの拡大公開になると思います」と、支配人・桑原啓さん。

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大事にしているのは、女性の視点

カウンター
カウンターには飲食物、パンフレット、関連書籍が充実。

 1997年から番組編成を担当する吉澤周子さんは、大学で映画製作を学び、以前取材した名画座・早稲田松竹で、当時の社長の秘書兼番組編成で入社。

 「引き継ぎが全くなくて、各配給会社の担当者の名字と電話番号しか書いてない紙が一枚あっただけ。あいさつに行ったら、営業部長さんとか偉い方だったり(笑)。DTPが普及し始めた頃で、会社でMacを買って2色刷りのチラシを作りました。現在でも使ってるロゴとか映写機のマーク、あれは当時から使っているものです」

 3年半務めたのち、籏興行に入社。

 「トロント、カンヌ、ベルリンの各国際映画祭は必ず行っています。大事にしているのは、女性の視点です」

 吉澤さん個人のフェイバリット作品は、「わたしは18才の大学の時からずっとこの質問をされるので、答えを3本決めています。スタンリー・キューブリック監督『シャイニング』(1980)、相米慎二監督『セーラー服と機関銃』(1981)、ヴィム・ベンダース監督の『パリ、テキサス』(1984)です。ベンダースが日本で長い間ロケをしていた『夢の涯てまでも』(1991)のお手伝いをしていたこともあります。あんまりヒットはしませんでしたが(苦笑)」

 桑原さんは、横浜松竹・セントラルを経て1999年に入社。

 「入社早々、いきなり大忙しでした。『ライフ・イズ・ビューティフル』と『運動靴と赤い金魚』(1997)が同日初日公開で大ヒットし、地下と2階を何度も行ったり来たりで(笑)」

 個人的にもミニシアター系が好きで、お気に入りの監督はケン・ローチジュゼッペ・トルナトーレだという。

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是非ここで上映してほしい

お菓子
スタンダードなお菓子たち。

 製作の段階で同館で公開を、と持ちかけられたのが、大ヒットした『かもめ食堂』(2005)。『幸せになるためのイタリア語講座』(2000)のような、どうやって生きるかがテーマの“ライフスタイルムービー”がヒットした前例があったからだ。

 「完成していない作品を予定することはリスクがありましたが、プロデューサーのお話があまりにも面白くて」と吉澤さん。ベルリン映画祭へ行く前に、フィンランドのロケ撮影現場へ訪問。

 「キッチンのお手伝いをしたんですが、撮影に使った料理は、ちゃんと日本米を炊き、フードコーディネーターの飯島奈美さんのこだわりが徹底していて、撮影後、トンカツとか、惣菜とかスタッフがつまんでましたが、本当にすごくおいしくて(笑)」

行列なう、なにこれ!?

2階席
2階席から1階席を望む。

 ネット予約導入以前、ヒット作の場合どうしても行列が晴海通りまで延びてしまった。

 ジャンヌ・モロー主演の『クロワッサンで朝食を』(2012)はシニア女性を中心に大ヒットした。猛暑の中、熟年女性の大行列になり、臨時のチケット発売所や、熱中症対策のウォーターサーバーを設置。ミニシアターでは考えられない事態がニュースに。目撃者が“行列なう、なにこれ!?”とツイートした。

 「うちの名が、ネットの世代にも拡散しました(笑)」

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アイデア勝負!さまざまな楽しいコラボレーション

座席番号
大きく表示された座席番号、遠くからも見やすい。

 『スタンリーのお弁当箱』(2011)では、前売り券に、劇中に出てくるお弁当箱を付けた。

 「インドから輸入したものですが、好評で追加、追加で結局数百個用意しました。特典の魅力で前売りが売れたケースです」

 また場内でカレー、インドのスパイスも併せて販売。2014年公開の『チョコレートドーナツ』ではカウンターでドーナツを販売した。

 昨年から上映が続いたヒット作『日日是好日』(2018)のときは、銀座通りに露天の茶席がずらり設置され5つすべての流派が参加する“銀茶会”にタイミングを合わせ、大変盛り上がった。

 11月1日からは“映画で旅する自然派ワイン”として『ジョージア、ワインが生まれたところ』(2018)と『ワイン・コーリング』(2018)の2本を同時上映。

 「今、ナチュラルワインのブームが都内で起きています。特に渋谷にそういうお店が多いのですが、もちろん銀座でも、コラボレーションして盛り上げていくつもりです」

 12月公開の『私のちいさなお葬式』のときは、ロシアのお菓子やチョコレートを用意する予定だそうだ。

 「今は、どこでも同じものが手に入るようになっていますが、昔は、映画を観るためにしか降りない駅って、あったじゃないですが。作品の素晴らしさだけでなく、その場ならではの人と共有する感動を付加するのが大事ですね。うちは、ただ便利なだけの映画館ではないんです。ここでしか体験できない何かが必ずあります」

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今週の映画美人

スクリーン
『あなたがいたら 少女リンダ』(1987)、監督:デヴィッド・リーランド、エミリー・ロイド、トム・ベル。このこけら落としを始め、自転車のシーンが印象的な作品が多数ヒットしている。2階席からのスクリーンの眺め。

 公式サイトに気になるコーナーが、今週の映画美人

 「サイトは18年前に作ったままなんです。当初、情報だけでしたが、それではつまらないので、お客様とつながり感想やご意見もフィードバック頂けるようなアイデアはないかと考えました。担当は林君という若いスタッフで、ランダムにお声がけしていますが、最初は内気な少年だったのが、今ではイキイキとやっていますね(笑)。もちろん断られる方もいますが、逆に「わたしもあれに載りたいんだけど、いつ出してくれるの?」と、積極的なお客様も多いです(笑)。サイトは近々リニューアルしますので、技術的にはもっとよくなると思います」と吉澤さん。

 両フロアの壁に作家の作品が展示されている。

 「展示コーナー1のほうは、作品ごとに展示を変えています。2は、こちらで見つけた作家さんにしばらくの期間お願いしています。作品は1点ずつ、公式インスタグラムでも観られます」

 また公式インスタの他、もうひとつのアカウントでは、周辺のお薦めの食事処を紹介している、こりゃあ便利!

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銀座から若い世代へ

大入袋
応接室に飾られた、歴代の大入り袋。

 「今、何でも事前に情報があふれてますが、たまには“ジャケ買い”みたいにインスピレーションで予備知識ナシで映画を観るのをお薦めします。想像通りの作品ではないかもしれないけど、映画も人も一期一会、何もかも予定通りだとつまらないですからね」

 僕も激しく同意、その時そこで、たまたまやっていた映画に本当の驚きがある。

 「入社した当時、銀座は“ジーパンはNG”って雰囲気がまだありました。休日に“一張羅”を着て出かけるハレの街ですが、いまは大分変わりましたね。でももちろん、歌舞伎座や老舗が集中していて、トータルで楽しみに来ていただきたい場所です。安くて、個人でやっている飲食店もまだまだ多いですし、ランチで最近のヒットは、プランタンの裏辺りにある“つきすそ銀座店”の千円の山盛りしらす丼定食です!  売り切れちゃうので11時台に行きましたが、素晴らしかったです(笑)。鮪のほほフライ定食もおいしかったです」

 銀座にお出かけの際は、是非おいしいものもチェック!! 取材後は、路面スパ“ジャポネ”へ(笑)。やっぱりアソコかい!

映画館情報

シネスイッチ銀座
東京都中央区銀座4-4-5 籏ビル
03-3561-0707
公式サイト
Twitter:@cineswitch

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ラジカル鈴木 プロフィール

イラストレーター。映画好きが高じて、絵つきのコラム執筆を複数媒体で続けている。

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