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映画とテレビで活躍するハリウッド女性監督がアツい!(3/4)

厳選!ハマる海外ドラマ

アカデミー賞脚本賞受賞!エメラルド・フェネル

エメラルド・フェネル
女優としても活躍しているエメラルド・フェネル - Rich Polk / Getty Images for IMDb

 前述のショーランナーとして、人気ドラマ「キリング・イヴ/Killing Eve」(2018~)のシーズン2を成功に導いたのがエメラルド・フェネルだ。フェネルといえば、初の長編監督映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』でアカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞にノミネートされ、見事に脚本賞を受賞して脚光を浴びている。

 イングランド出身で俳優、小説家、脚本家、映画監督、プロデューサー、劇作家と幅広く活躍しているフェネルは、子供向けのホラー小説でも知られており、「キリング・イヴ」シーズン2では脚本を執筆しており、オスカーの脚本賞での受賞は納得かもしれない。俳優としては「ザ・クラウン」(2016~)のシーズン3から登場したカミラ役でも強い印象を残している。

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キリング・イヴ
エメラルド・フェネルがシーズン2 の脚本を執筆した「キリング・イヴ/Killing Eve」- BBC America / Photofest / ゲッティ イメージズ

 監督としてのキャリアは浅く、2018年に短編映画『ケアフル・ハウ・ユー・ゴー(原題) / Careful How You Go』でサンダンス映画祭の審査員大賞(短編映画)にノミネートされた次が『プロミシング・ヤング・ウーマン』となる。この短編映画の主演はフィービー・ウォーラー=ブリッジで、2人は仲が良いという。

 ウォーラー=ブリッジは賞レースを総なめにした「Fleabag フリーバッグ」(2016~2019)で時の人となったが、「キリング・イヴ」のシーズン1を手掛けたのも彼女だった。大成功したシリーズのシーズン2でショーランナーが代わるということはかなり珍しいが、ウォーラー=ブリッジが推したのがフェネルであった。

フィービー・ウォーラー=ブリッジ
「キリング・イヴ/Killing Eve」シーズン1のショーランナーとして作品の方向性を決めたフィービー・ウォーラー=ブリッジ - Laura Cavanaugh / FilmMagic / Getty Images

 「キリング・イヴ」の主人公は、サイコパスの国際的な暗殺者ヴィラネルとイギリスの情報機関MI6の捜査官イヴ。ジョディ・カマーサンドラ・オーふんする強烈なキャラクターが、追いつ追われつの関係において奇妙に引かれ合う。ルーク・ジェニングスの原作を大胆に翻案した「キリング・イヴ」は、ユニークでダークコメディー調のスリラーだ。

 2018年から携わったウォーラー=ブリッジがショーランナーを務めて、大成功を収めたシーズン1の作風は、ウォーラー=ブリッジならではのアクが強く、この世界観を引き継ぎつつ独自性を出すのはかなり難しいと思われた。だが、フェネルは得意の暗いユーモアとバイオレンス、そして特にホラーテイストをヴィラネルの“殺しの美学”も含めて、シーズン1に比べると1.5割増しぐらいでたっぷりと盛り込んでいる

 一方で目にも鮮やかなヴィラネルのファッションや使用している楽曲はポップな作りでありつつ、かなり血みどろで残忍なことが起きているという同作の特徴は、そのままレイプ犯へのリベンジ物語である『プロミシング・ヤング・ウーマン』にも生きていると言えるだろう。

 実際に「キリング・イヴ」を視聴済みで『プロミシング・ヤング・ウーマン』を観れば、いくつもの共通した要素を認識するに違いない。遊び心のあるエネルギッシュなキャンディカラーは陰惨な物語の間口を広くしている一方で、パステルカラー調のいわゆる“女子っぽい色味”の衣装やビジュアルイメージの無害さは、残酷な物語をより際立たせている

 血がしたたるタイトルに続き、ホットドッグのケチャップがまるで血のようにべったりと手や服についているキャシーが歩く姿。あるいは前半の大学時代の知人とのランチの席で赤ワインが白いテーブルクロスにこぼれるシーンの構図などには、明らかに毒々しさがあり、暴力シーンでなくとも血の匂いを感じさせる。

 またブリトニー・スピアーズの「Toxic」ほか音楽や大衆文化の使い方なども含めて、「キリング・イヴ」での経験が監督業に大きな影響を与えていると思わずにはいられない。

サンドラ・オー
医療ドラマ「グレイズ・アナトミー」で強烈な印象を与えたサンドラ・オー - Amy Sussman / Getty Images

 一方で吐き気がするようなおぞましい真実、キャシーの怒りと悲しみと絶望であり映画のテーマは、静かに、しかし驚くべき威力を発揮して観客の胸をグサリとえぐる、緻密に計算された脚本となっている。賛否両論あるであろう終盤のトリッキーな仕掛けや派手な描写に目を奪われがちだが、前述のように有望な将来を理不尽にも奪われた女性たちの思いを伝えるストーリーテリングの巧みさは、やはりフェネルが脚本家として優れている点だと思わされる。

 ちなみに「映画の撮影中は妊娠7か月だったというフェネルは、監督業をやる上では難しいことはなかった」(※3)という。制度的にも関係者の意識としても整っていることが前提だろうが、当たり前のこととしてこうした例がどんどん増えていくことを願わずにはいられない。

 監督としての真価は次回作を待つというところだと思うが、まずはダークな要素も強いがテンションは陽気で、ポップでトリッキーなフェネルの作風は、現在企画中のDCコミックスの映画化『ザターナ(原題) / Zatanna』の脚本にどう反映されるのかが楽しみなところだ。

 「キリング・イヴ」についてはショーランナーが再び変わったシーズン3は残念ながら傑作には遠かった。最終となるシーズン4のショーランナーは「セックス・エデュケーション」(2019~)などを手掛けたローラ・ニールシーズンごとにショーランナーを変えるという珍しいパターンだが、徹底して女性主導の現場であり若い才能にとっても大きなチャンスを与えられるという意味でも注目に値する。このような地道な積み重ねが、より良い未来へとつながっていくのだとも思う。

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