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決して抜け出せない…タイムリープの恐怖を描いた映画たち!

今週のクローズアップ

ラストナイト・イン・ソーホー
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 エドガー・ライト監督の最新作は、魅惑的な1960年代のロンドンに愛を込めた『ラストナイト・イン・ソーホー』(12月10日公開)。現代と過去が夢を通して繋がることになりますが、こうしたタイムリープのモチーフは物語にさまざまな想像力を提供してきました。今回は『ラストナイト・イン・ソーホー』をはじめとする、タイムリープのアイデアを使った映画を紹介していきます。(編集部・大内啓輔)

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夜ごとの美女に誘われ…夢と恐怖が共鳴する

 まずは、これまでも『ベイビー・ドライバー』などでスタイリッシュな映像センスを発揮してきたライト監督の新作となるタイムリープ・サイコ・ホラー『ラストナイト・イン・ソーホー』。ファッションデザイナーを目指してロンドンに来たエロイーズが、ソーホーにあるデザイン専門学校に入学したことから物語は始まります。意気揚々と新生活を始めるも、寮生活に向かず一人暮らしをすることに。彼女は新しいアパートで暮らし始めるのですが、次第に1960年代のソーホーにいる夢を見るようになっていきます。

 エロイーズを演じたのは、これまで『足跡はかき消して』(2018)や『ジョジョ・ラビット』(2019)といった作品で好演を見せてきたトーマシン・マッケンジー。エロイーズと同じく18歳でロンドンへやってきたというトーマシンは等身大の演技でハマり役。そして、エロイーズが夢で出会うサンディを演じるアニャ・テイラー=ジョイはNetflixドラマ「クイーンズ・ギャンビット」(2020)で大きな話題を呼びましたが、本作では1960年代のクラシカルなファッションに身を包み、エロイーズを魅了する“夜ごとの美女”を見事に表現しています。

 夢を通じて肉体的にも感覚的にもサンディとシンクロしていくエロイーズ。華やかな1960年代の世界に有頂天になり、自信と才能に満ちあふれた振る舞いで歌手としての夢を実現させていきます。しかし、実はサンディはストリップ・ショーの脇役に甘んじており、舞台に立つために「男たちにサービスしろ」と強要されていたのでした。そして、サンディがかつて実在していたことを知ったエロイーズは、男たちの亡霊に悩まされるようになっていくなか、真相を突き止めようと動き出します。

ラストナイト・イン・ソーホー
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 本作では、二つの時代が交錯するなかで、搾取されていく女性たちの物語が現代的な視点で描かれます。そして、1960年代といえば、ブリティッシュ・ロックが花開いた時代。当時流行した音楽や文化を物語に取り込んでいくライト監督の手腕が発揮されており、映画作家としての引き出しの豊かさを十分に感じさせます。また、ダイアナ・リグとテレンス・スタンプという1960年代を象徴する名優たちの共演も見どころです。

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タイムループが引き起こす恐怖!

 ほぼ無名のキャストと監督にもかかわらずヒットを記録したホラーが、ジェイソン・ブラムが製作を務めた『ハッピー・デス・デイ』(2017)です。この映画では、マスクを被った謎の人物に殺される誕生日の1日を何度もループする女子大生の恐怖が描かれ、いわゆる“ループもの”と呼ばれる王道のストーリーが展開していきます。

 ループする時間に閉じ込められた主人公の物語といえば、最近だけでも『ビフォア・アイ・フォール』(2017)、『明日への地図を探して』(2021)、『コンティニュー』(2021)、『パーム・スプリングス』(2020)など、ホラーに限らず数多くの作品で描かれていますが、『ハッピー・デス・デイ』の魅力はさまざまな作品の要素をバランスよく取り込んでいること。毎晩酔い潰れる生活を送りながら、さまざまな男性と関係を持つツリーの生活は、どこか青春ドラマのような楽しさもありつつ、そうした日常に訪れる恐怖とそのループがテンポよく描かれ、飽きさせることがありません。

 また、試行錯誤を繰り返して状況を打開していく過程は痛快で、かつループが発生した要因や殺害した犯人を探捜していくミステリー要素も絡まります。そして、「人生で本当に大切なこととは?」を考えさせられるのもループものの王道ですが、主人公がどこまでも優等生的でないことが、コメディーとしての魅力を加速させています。続編となる『ハッピー・デス・デイ 2U』では主人公の女子大生以外もタイムループに巻き込まれる新たな恐怖が描かれましたが、すでに第3弾も進行中との情報もあり、果たして次なる恐怖はどのような新機軸が打ち出されるのか、期待が高まります。

 最近、日本でリメイクされたことも記憶に新しい『CUBE』(1997)などのヴィンチェンゾ・ナタリが監督を務めた『ハウンター』(2013)でも、同じく主人公がタイムループからの脱出を試みることになります。ある朝、リサはトランシーバーから聞こえる弟のモーニングコールや、母が用意する食事の内容も、自分が昨日とまったく同じ状況をリピートしているという思いにとらわれます。

 リサは目を覚ますたびに16歳の誕生日の前日を何度も繰り返していることを知るのですが、ここではリサが家族とともに殺害されたことが何より斬新。亡くなったことに気づかない両親や弟ととともに命を落とした日を反復しており、いわゆる成仏できずにいるのです。果たして一家は殺されたのか、そして殺人事件にの裏に隠された驚くべき秘密とは何か、リサが事の真相に迫っていくなかで想像を超える恐怖に引き込まれていきます。

 ループもののストーリーは、リセットを繰り返しながらトライアンドエラーを繰り返す、ゲームのようなイメージとして理解されるでしょう。そのなかでも、タイムループを描きながら遭難して豪華客船に乗り込んだ人々の恐怖を描く『トライアングル』(2009)は、脱出ゲームのようなスリリングな謎解きの魅力を感じさせます。ループがリセットされずにエンドレスに続くなかで出来事が蓄積していくことも特色となっています。海上の客船という逃げ場のない空間を舞台にしており、息詰まる展開が続きます。

 ちなみに、彼らが乗り込む客船の名前であるアイオロスとはギリシャ神話の風の神で、その息子にはシーシュポスがいます。シーシュポスの岩はループもののなかでしばしば言及される神話で、神々を欺いた罰を受けることになったシーシュポスは巨大な岩を山頂まで上げるよう命じられますが、岩は重みで底まで転がり落ちてしまうので、永遠に苦行が繰り返されるのです。タイムループの比喩として好んで持ち出されます。

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社会問題を反映した、繰り返される悲劇

 2017年の『ゲット・アウト』以来、反人種差別的な視点に風刺を盛り込んだホラーが作られていますが、同作でプロデューサーを務めたショーン・マッキトリックが製作に参加している『アンテベラム』(2020)も、そうした系譜に連なる一作です。『ラストナイト・イン・ソーホー』では現代と1960年代が夢を通して共鳴することになりますが、本作ではタイトルに“アンテベラム”とあるように、アメリカでの南北戦争以前の悲劇が現代に蘇ります。黒人奴隷のエデンと現代を生きる社会学者にしてベストセラー作家のヴェロニカを、ジャネール・モネイが一人二役で熱演しています。

 アメリカ南部の綿花畑で奴隷として重労働を強いられているエデンと、現代で社会学者として賞賛を浴びるヴェロニカが思わぬかたちで接点を持つことになります。現代社会のさまざまな問題を取りあげてきたジェラルド・ブッシュとクリストファー・レンツの長編監督デビュー作でありながら、驚きの設定で政治をエンタメに落とし込む手腕が遺憾なく発揮されています。

 また、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズで主人公マーティを演じたマイケル・J・フォックスがカメオ出演していることでも話題のNetflixオリジナル映画『シー・ユー・イエスタデイ』(2019)では、タイムリープを用いながら、黒人に対する暴力や人種差別をなくすためのムーブメント「Black Lives Matter」がテーマとなっています。タイムマシンを発明しようとする女子高校生が友人とともに、警官に射殺された兄の命を救おうと奮闘するなか、過去に戻るたびに別の悲劇に見舞われる様子が風刺的に展開することになります。ちなみに、マイケルは主人公たちとタイムトラベルについて会話を交わすという愛嬌あふれる演技を披露しています。

 第93回アカデミー賞で短編実写映画賞を受賞した『隔たる世界の2人』もタイムループがモチーフ。愛犬が待つ自宅に戻る途中で、警官と揉めてしまった結果、命を落とす恐怖を繰り返し経験することになります。ラストのエンドロールでは、警察官とのトラブルで命を落とした黒人たちの名前が画面上に映されることで、作品のメッセージを強調しています。

 出会うはずのない異なる時代の人物同士が遭遇したり、果てのないタイムループが繰り返されたりするタイムリープの物語。そこで描かれるのは、人間にとって欠かせない「時間」の問題です。物語で生じる時間の捻れや綻びは、何かしら負の感情や悲劇的な出来事が引き起こす場合がほとんど。そのとき、現実の事柄を反映したような問題を解消することこそが、元の正しい時間に戻るための解決策となります。それぞれの方法でこれまでの時間に向き合う主人公たちの姿は、現実の私たちの写し絵のようなもの。主人公たちの恐怖を追体験しながら、現実を生きるためのヒントを見いだしてみてはいかがでしょうか。

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