『Michael/マイケル』紆余曲折の舞台裏 プロデューサーが乗り越えた試練&今伝えたい思い【単独インタビュー】

“キング・オブ・ポップ”ことマイケル・ジャクソンの半生を映像化し、日本でも大ヒットスタートを切った伝記映画『Michael/マイケル』。プロデューサーを務めたのは、クイーンのボーカルであるフレディ・マーキュリーの半生を描いた『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)の仕掛け人であるグレアム・キングだ。本作のプロモーションのために来日したグレアムがインタビューに応じ、法的トラブルの影響で長期間を要した再編集・追加撮影の裏側、2回目以降も楽しめるイースターエッグやカメオ出演について語った。(取材・文・構成:編集部・倉本拓弥)
※ご注意:本記事はネタバレを含みます。『Michael/マイケル』をまだ観ていない方はご注意ください。
『ボヘミアン・ラプソディ』編集者との再タッグ
Q:『Michael/マイケル』のファーストカット(初期編集版)は4時間に及ぶと言われています。法的な制約が発覚したことで、再編集・追加撮影を余儀なくされました。現在の上映尺(128分)に至るまでに、どのような話し合いがあったのでしょうか?
まず、法的問題が発覚する以前の仮組みの段階では、4時間以上ありました。私たちは、大惨事になりかねなかった問題をポジティブな視点に転換して、「マイケルという人物をより深く知るために、もっと時間をかけられるようになった」と捉えることができました。それが全ての始まりで、新たなバージョンへの製作が動き出しました。
まず、ジョン・オットマン(※『ボヘミアン・ラプソディ』の編集者)に再編集作業に加わってほしいと頼みました。彼が返事をするまでにはしばらくかかりました。というのも、『ボヘミアン・ラプソディ』の後、彼は編集の仕事に携わっておらず、別のこと(映画監督など)をやりたいと考えていたからです。長きにわたる説得の末、幸運なことに彼は私たちのもとへ来てくれました。『ボヘミアン・ラプソディ』の時に感じた素晴らしいシナジーが、『Michael/マイケル』の現場でも同じように発揮されたのです。
Q:すでに撮影した素晴らしいカットの多くを削ることは、プロデューサーとしても苦しい決断だったのではないでしょうか?
本当に複雑でした。オフィスの壁には、映画の全シーンの写真が貼られていて、ジグソーパズルのように「これをこうしたらどうなる?」「こっちをこう変えたら?」とずっと動かし続けていました。
さらに複雑さを増した要素として、劇中でマイケルは異なる鼻(※特殊メイク)をしている点がありました。そのため、彼の見た目とシーンの整合性がとれているか確認しなければなりませんでした。本当に時間がかかる作業です。世界中がこの映画を待っているプレッシャーを私自身も感じていましたし、もし期待に応えられなければ、残りの人生はどこかの島で隠居生活でもしようかと本気で思っていたからです。それほど重圧を感じていました。
劇場公開日が何度も延期されたのは、映画の完成度がその域に達していなかったからです。スタジオは私たちの状況を理解して、辛抱強く待ってくれました。私たちは追加撮影に入り、この映画で自分たちが本当に伝えたいストーリーは何かを改めて実感し、そこにフォーカスしていきました。
追加撮影は、観客がマイケルの人生を追いかけ、楽しみ、エンターテインメントとして堪能してもらうためのチャンスでした。同時に、いくつかのシーンには、より感情を揺さぶり、彼をもう少し深く知ることができるような、潜在的な意味が含まれています。
24時間マイケルのことを考えていた
Q:完成版において、追加撮影されたシーンはどこですか?
例えば、マイケルが「ツイスター」を買って家に帰り、兄弟たちに「一緒にやらない?」と声をかけるシーンです。とても楽しいシーンであると同時に、エモーショナルな要素もあります。それから、彼がチンパンジーのバブルスを迎えて一緒に遊ぶシーンも追加で撮影したものです。世界中の人々に、バブルスが初めてマイケルのもとにやってきた瞬間を観てもらいたかった。彼が「僕の新しい友達を紹介するよ」と言う時、そこには深い意味が込められているのです。
Q:再編集にはどれくらいの期間を要したのでしょうか?
具体的な数字は、正確に覚えていません。ただ、自分たちが伝えたいストーリーが明確になり、追加シーンを撮影してからは、それほど長い時間はかかりませんでした。
その後は、私と(脚本家の)ジョン・ローガン、そしてアントワーン・フークア監督で音楽について話し合い、軸となる楽曲を見つけ、それを各シーンのトーンと一致させていく作業でした。ここは非常にトリッキーな仕事です。『ボヘミアン・ラプソディ』とは違い、マイケルがパフォーマンスしている最中に観客のカットを挟んでしまうと、マイケルの極めて象徴的な動きを見逃してしまう可能性があります。そのため、ステージ上のすべての動きを研究し、「ここでこのターンを削ってしまっても大丈夫か?」など、フレーム単位で観客を惹きつけられる瞬間を見つけ出すバランスが大切でした。終盤の「ヒューマン・ネイチャー」のパフォーマンスで、マイケルがファンに向かって一緒に歌い返してほしいとコールする瞬間などです。
Q:映画が直面していた数々の課題を解決するプロセスは、プロデューサーとしても相当な忍耐力と決断力が必要かと思います。
その通りです。再編集は複雑で、時間がかかり、相当な忍耐力を必要としました。何度もスタジオへ行って「この公開日に間に合わない、映画が完成しない。日程を動かす必要がある」と言い続けるのは、非常に辛いことでした。
先ほども言ったように、スタジオは本当に寛大でした。これは「正しい作品に仕上げる」ための闘いであり、公開日は移り変わるものだと理解して、待ってくれました。
もちろん、私たちは結果を出さなければなりません。『ボヘミアン・ラプソディ』の成功後、私は「マイケル・ジャクソンを使って金儲けを企んでいるプロデューサー」だと思われるような人間にはなりたくなかった。私は心から(この作品に)感情を注ぎ込みました。24時間ずっとマイケルのことで頭がいっぱいでした。夜中の3時に起きて、監督や脚本家や編集者に電話して「いいアイデアを思いついたんだ……」と永遠とやり取りしました。
私はマイケルや彼の子供たちを愛しています。彼らにも誇りに思ってもらえる作品にしたかった。ですから、すべての条件をクリアしたかったんです。『Michael/マイケル』に関わってから、到底想像もつかないレベルの課題が山積みでしたが、プロデューサーの仕事とは、それらをうまく調整し、マイケル・ジャクソン財団や家族、スタジオからの敬意と信頼を得ることです。それらを成し遂げられたのは、私にとっても大きな収穫でした。
映画を「バッド」で締めくくる意味
Q:映画のオープニングは、「バッド」のパフォーマンス直前のマイケルの後ろ姿から始まります。「バッド」は映画のクライマックスで披露される楽曲ですが、その一部を、あえて最初に見せる意図は何だったのでしょうか?
観客をじらしているように感じるかもしれませんが、実はそうではないんです。あれは、マイケルが「自由の身」になったことを強調するための演出でした。
彼は父ジョセフの支配から解放され、自由の身となりました。私は(マイケル役の)ジャファー・ジャクソンと「バッド」について話したとき、「君には笑顔を見せてほしい。カメラをしっかりと見つめて、観客に『これが新しいマイケル・ジャクソンだ』ということを理解させてほしい。“進化”とまでは言わないが、生まれ変わったマイケル・ジャクソンなんだ」と伝えたことを覚えています。
ですから、あれを見せることは非常に重要だったと思います。また、「バッド」は世界中で、特に若い世代にも知られている最もアイコニックな曲の一つです。そのため、「バッド」で締めくくることは、観客に「彼らが親しんでいるマイケル・ジャクソン」のエネルギーを与えることにもつながったと思います。
Q:ウェンブリー公演のパフォーマンスは、『ボヘミアン・ラプソディ』におけるライブ・エイドと同様の没入感と興奮を味わうことができます。スタジアムの熱気からマイケルの圧倒的なパフォーマンスまで、当時の興奮を再現するためにどのようなアプローチをとったのでしょうか?
アントワーンとは、出会った初日からパフォーマンスについて何時間も話し合いました。単なる「モノマネ」にしないためにです。今の時代、人々はYouTubeで簡単にバッド・ワールド・ツアーの映像を見ることができます。だからこそ、アントワーンと私は「このパフォーマンスにはどういう意味があるのか?」と確認しました。ただのパフォーマンスではなく、物語を伝える瞬間なのです。ウェンブリー公演の模様を最後に配置すれば、観客が「これは自由を手にした新しいマイケルなんだ」と感じ取ってくれるはず。私とアントワーンは完全に意見が一致していました。彼は本当に素晴らしい共同製作者であり、あらゆる意味で本物の相棒になりました。
Q:『ボヘミアン・ラプソディ』ではライブ・エイドのステージセットのレプリカを建造していましたが、ウェンブリー公演でも同様のアプローチを取ったのでしょうか?
いいえ、『Michael/マイケル』ではセットを建てていません。今回は撮影所でウェンブリーのステージを再現しました。それ以外のシーンは、可能な限りすべてを本物にしたいと考えました。
「ビリー・ジーン」は、マイケルが実際にパフォーマンスしたパサデナ・シビック・オーディトリアムで撮影をしています。ジョセフとキャサリンのシーンは、実際に二人の寝室で撮影しました。ジャファーは映画の準備期間中、マイケルの寝室で睡眠をとったりしていましたから。彼は伯父の魂とつながるために、床板の上で寝ていたんです。全員がマイケルへの愛を感じていましたし、彼のアイコニックな瞬間や思い出の場所をすべて選び抜きました。
Q:『ボヘミアン・ラプソディ』といえば、同作でEMIレコードの社長レイ・フォスターを演じたマイク・マイヤーズが、『Michael/マイケル』にカメオ出演していますね。CBSレコード社長のウォルター・イエトニコフ役で、MTVにマイケルのミュージックビデオを放映するよう圧迫するシーンは印象的でした。彼のキャスティングはどのように決まったのですか?
彼は大親友です。ある日、電話して『もし興味があれば、君にぴったりの役があるんだ』と伝えました。もし、彼に断られても理解できました。というのも、『ボヘミアン・ラプソディ』でもレコード会社の社長を演じていましたから(笑)
また、コミカルなシーンであると同時に、歴史的背景も知ることができます。マイケルがウォルターを通じて自身のMV放映を要求するまで、MTVは黒人アーティストのMVをほとんど流していなかったのです。私はマイクにそのシーンの台本を送り、2人で話し合いました。彼がいくつか変更を加えて、「よし、やろう。楽しく撮影しよう」と言ってくれました。引き受けてくれたことにとても感謝しています。
一つ秘密を教えましょう。劇中でウォルターが「ゲップが出そうだ。コカ・コーラを飲んだばかりでね」と発言するのですが、あれはリハーサルの映像です。そのまま本編で使わせてもらいました。マイクのシーンには、そうした瞬間がたくさんあります。彼を撮影するときのコツは、カメラを回し続けることです。彼からどんな素晴らしいもの(即興演技)が飛び出すか、予測がつきませんからね。
続編に必要なのは「納得のいくストーリー」
Q:映画は「彼の物語は続いていく」というテロップで終わります。続編に関しては、すでに3分の1が撮影済みとも報じられていますが、進捗状況はいかがですか?
私たちはこの作品の公開を祝っている段階で、今はこの瞬間を楽しもうと思っています。私にとっては、本当に長い旅でした。2019年初頭からこの作品に携わり、脚本家のストライキ、コロナ禍、権利問題など、乗り越えなければならない壁がいくつもありました。ストーリーを継続させるのは楽しいことだと思いますし、そう遠くないうちに行き先が見えてくると思いますが、まずは様子見です。
Q:続編製作のためには、フークア監督やジャファーのスケジュールの調整も必要ですね。
もしもパート2を作るのであれば、私は1作目のチームのほとんどを再集結させたいので、彼らのスケジュールが空いているかを確認しなければなりません。スタジオが続編の話をしていることも、世界中が噂していることも知っています。しかし、私たちが「納得のいくストーリーがある」と感じられない限りは、絶対に作りません。私にとっては、それが全てです。
Q:続編が実現した場合、マイケルの楽曲だけでなく、ディズニーランドで稼働していたマイケル主演のアトラクション「キャプテンEO」の舞台裏を描く可能性もあるのでしょうか?
実は、今作でも話し合いました。伝記映画を作るときは、特定の題材や出来事を選び抜かなければならず、全てを網羅することはできません。誰かの人生を2時間で全てカバーすることは不可能ですから。だからこそ(準備に)時間がかかるのです。ジョンと私で何時間も座り込み、「このストーリーを伝えるべきか?」「あのストーリーを伝えるべきか?」「『キャプテンEO』はやるべきか?」と話し合いました。
「スリラー」のミュージックビデオのシーンを見ていただければ分かる通り、監督(ジョン・ランディス)は本人そっくりの役者を起用しました。私は著名人を実名で多く登場させるのは好きではありません。観客がオーセンティシティーを感じられなくなってしまうからです。どのキャラクターを登場させるかは、厳選する必要があります。そのため、ある種の犠牲を払わなければならず、判断が本当に難しいところです。観客はマイケルが『何をしたか』だけでなく、彼が『誰であったか』を知りたいのです。ですから、どの出来事を描くのかは慎重に選ばなければなりません。
将来どうなるかは分かりませんが、もしもう一本映画を作るのであれば、私たちにはフラッシュバック(回想)やフラッシュフォワード(未来の出来事を描写すること)を使う権利があります。それがストーリーテリングです。
Q:最後に、映画館に何回も足を運ぶファンのために、うっかり見落としてしまうかもしれない「イースターエッグ」のようなものがあれば、教えていただけないでしょうか?
イースターエッグに該当するかはわかりませんが、先ほど話した「ツイスター」のシーンです。彼が「ツイスター」を買って帰って、兄弟たちと遊びたがっているのに、彼らは「今夜は忙しいんだ」と言い、マイケルがバブルスと遊んでいるカットに切り替わります。そこには、ものすごい悲しみと、孤独が隠されています。一見すると楽しいシーンに感じられますが、深く読み取ると、マイケルに関するメッセージが込められています。マイケルの表面的な部分だけでなく、彼の心の奥に秘めたものがあると観客に伝えたいです。
批評家たちが映画を気に入らなかったことは知っていますし、「Rotten Tomatoes」(※米大手レビューサイト)の批評家スコアも非常に低かったことは知っています。しかし、私は『ボヘミアン・ラプソディ』の時に学びました。私は決して批評家のために映画を作っているわけではない。世界中のファンが純粋に楽しみ、そこから何かを受け取ってくれている姿を見るために映画を作っているのです。
映画『Michael/マイケル』は全国公開中
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