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『パラサイト 半地下の家族』タフなユーモアで見せる奥深い悲喜劇

第92回アカデミー賞

『パラサイト 半地下の家族』
『パラサイト 半地下の家族』より - (C) 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 とにかく絶賛しか聞こえてこない。満場一致のパルムドールでカンヌ国際映画祭を圧倒制覇した韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が、世界諸国での大ヒットを経て、いよいよ最終決戦の地であるアカデミー賞に乗り込んでくる。オスカー争いでも台風の目となっており、堂々6部門ノミネート。作品賞候補になったのはアジア映画では初らしい。第58回で監督賞など4部門ノミネートを果たした黒澤明監督の『』(1985)(衣装デザイン賞をワダ・エミが受賞)を超える「乱」を巻き起こしているわけだ。(文・森直人)

 監督はご存じ『殺人の追憶』(2003)や『グエムル -漢江の怪物-』(2006)などのポン・ジュノ。現役屈指の天才監督のひとりだが、今回は長編デビュー作『ほえる犬は噛まない』(2000)からハリウッドで撮った近作『スノーピアサー』(2013)や『オクジャ/okja』(2017)まで、充実のフィルモグラフィーの中で彼が得てきた成果を一本に凝縮した総力戦だ。達成度は明らかに彼の最高値を示している。

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『パラサイト 半地下の家族』
『パラサイト 半地下の家族』より - (C) 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 何より目を引くのは設計思想の素晴らしさ。一目瞭然の形で可視化された「縦の階層」。まるでネズミやモグラのねぐらのような場所--“半地下住宅”で暮らす主人公のキム一家が、山の手にあるIT社長の豪邸にあの手この手で潜り込む。この映画はオープンセットを使用しているが、韓国には格安の半地下物件が実際に数多くあり、現実社会の地べたのリアリティーから風刺的な寓話性に橋が架けられた世界像だ。

 『パラサイト 半地下の家族』の一番のベースは韓国映画の古典にして特濃のカルト作、キム・ギヨン監督の“召使い”映画『下女』(1960)だろう。高台の富裕層、半地下の貧困層という設定は、黒澤明監督の『天国と地獄』(1963)。さらに『メトロポリス』(1926)を起点に『エリジウム』(2013)辺りまで続くディストピアSF--上空が「天国」で地下が「地獄」の図式を援用。演出面ではアルフレッド・ヒッチコックルイス・ブニュエルらの継承が認められる。

『パラサイト 半地下の家族』
『パラサイト 半地下の家族』より - (C) 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 あえてジャンル的に区切るなら、貧富の差を背景にしたブラックコメディーであり、「詐欺もの」(コンゲーム映画)。4人家族が結束して大富豪をだましまくる姿は、日本の高度経済成長を背景にした川島雄三監督の『しとやかな獣』(1962)などを連想させる。

 映画史の中から『パラサイト 半地下の家族』の施工に使われたとおぼしき材料を探ってみたが、もちろん本作は現代仕様にアップグレードされた最新型だ。世界共通の問題となっている格差や疎外をテーマに、タフなユーモアと鋭い眼力で奥深い悲喜劇を描き出す。爆笑と戦慄にあふれ、必然的に最近の重要作--『万引き家族』(2018)、『バーニング 劇場版』(2018)、『アス』(2019)、ポン・ジュノの助監督を務めていた新鋭・片山慎三監督の『岬の兄妹』(2018)ともリンクし、それらすべてを包括するような驚嘆すべきスケールの創造力を見せつける。

『パラサイト 半地下の家族』
『パラサイト 半地下の家族』より - (C) 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 そんな本作と“時代の精神”という面で最も響き合っているのが、今回最多11部門でノミネートとなった『ジョーカー』だろう。アメリカの闇から生まれた爆弾と、韓国からの刺客。果たしてどちらが真打になるのだろうか?

第72回カンヌ国際映画祭で最高賞!『パラサイト 半地下の家族』予告編

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