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あん (2015):映画短評

あん (2015)

2015年5月30日公開 113分

あん
(C) 2015 映画『あん』製作委員会 / COMME DES CINEMAS / TWENTY TWENTY VISION / ZDF-ARTE

ライター2人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

轟 夕起夫

どら焼きは単に “甘い”だけではない

轟 夕起夫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 屋上にあがって煙草を吸う男と、背後にある満開の桜、朝空のショットからこの物語は始まる。桜の木と空は物言わないが以後、彼のことをずーっと見守っている。ごくごく当たり前に在る桜の木と空。だがそれら、いや、身のまわりに在る万物が「当たり前に在るわけではない」と男に、そして我々に気づかせるのが『あん』という映画だ。

 あるいは本作は、河瀬版『サクリファイス』にも見える。S・ニクヴィストとは言わないが、撮影を担当した穐山茂樹の手腕も大きい。映画の中心を担う和菓子どら焼きの“生地”と“あん”は、ここでは外面と内面、表層と深層の比喩と捉えたい。両方が合わさって調和したとき、確かなる世界が生まれるのだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

軽やかな河瀬直美と、極上の永瀬正敏。

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

いい具合に肩の力が抜けていて驚いた。樹木希林×永瀬正敏という名優2人の円熟したやり取りや、どら焼き屋に集まる客の女子中学生たちの会話から醸し出されるふわっとしたユーモア。この軽やかさ、河瀬直美監督としては結構意外。

重いテーマを扱いつつ、良質の小話的骨格を持つドリアン助川の原作が風通しを良くしたのか。自身のコアを煮詰めた感のあった『2つ目の窓』の濃厚さとは対照的。後半は観念性や脇の記号的な役作り等が気になったが、前半の日常描写にすっかり魅せられてしまった。

特に永瀬正敏は絶品。昔だったら高倉健が演じていたような「不器用な男」を、現代的な柔らかさで体現する。彼、新たな黄金期に入ってると思う。

この短評にはネタバレを含んでいます
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