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aftersun/アフターサン (2022):映画短評

aftersun/アフターサン (2022)

2023年5月26日公開 101分

aftersun/アフターサン
(C) Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022

ライター5人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.4

なかざわひでゆき

20年の時を超えて共鳴する父親と娘の想い

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 大人への階段を上り始めた11歳の少女ソフィと、そんな娘を心配しつつも温かく見守る31歳の父親ケイラムの、トルコの避暑地で過ごしたひと夏の出来事。やがて、離婚して普段は娘と離れて暮らすケイラムが様々な問題をひとりで抱えているらしいこと、さらにこれが20年後のソフィの回想であることを観客は気付かされる。父親と同じ年齢になり自分も家族を持った娘が、あの頃の父親の喜びや悲しみや苦しみに想いを馳せる物語。監督自身の経験を基にした非常にパーソナルな作品だが、あえて詳細な事情を説明せず観客の想像に多くを委ねることで、時を超えて共鳴し合う普遍的な親子の絆が浮かび上がる。地味ながらも新鮮な味わいのある作品。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

父も、娘も、必死に生きた、思い出のバカンス

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 映像やドラマの構造が微にいたるまで計算されており、賞レースを賑わせたのも納得。

 父と娘の愛と葛藤はホームビデオのコラージュによって美しいタペストリーを織りなし、一方ではカラオケの場面に代表される心理的緊張を浮き彫りに。感情の複雑なもつれを、いかにリアルに描きながらハッピーエンドに導くか? その点でも意欲作的な作品。

 繊細さゆえに少々息苦しくも感じるが、思春期特有の愛と性への憧憬のみずみずしい描写により、それも緩和されるだろう。完璧ではない父親にふんしたP・メスカルの、オスカー候補も納得の好演も光る。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

「心のカメラ」が眩く起動するイメージの詩

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

「最も個人的なことは、最も普遍的なことである」とは心理学者C・ロジャーズの名言だが、パーソナルな純度を突き詰めることで、これほど共感の回路を多様に開く表現へと結実させた例は希少だろう。監督は今回が初長編のシャーロット・ウェルズ(87年生)。まさに鮮烈なデビューだ。

本作の視覚言語は記録(record)と記憶(memory)という主に二つのレイヤーで構成される。11歳のソフィが若きパパと過ごした20年前(ブラーの「テンダー」が流れるから99年か)のホームビデオ――この映像素材を見て、父親と同じ年になった現在のソフィの記憶(+想像)が動き出す。既成の映画教養に囚われぬ話法のきらめきに痺れる傑作。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

脚本にも映像にもさまざまな仕掛けがある

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 これが初長編映画となる監督・脚本のシャーロット・ウェルズの才能に目を見張る。映画には様々な仕掛けが施されているが、それには後になってから気づかされるようになっている。また、仕掛けは脚本だけではなく、映像にもある。物語の中心となる父親と娘がどちらもビデオカメラで撮影しているという設定で、画面にはそれらの映像も映し出されるが、加えて、彼らの記憶、心象風景も映し出され、しかも、その中のどれなのかが判別できないような形で提示される。それが何だったのかに、しばらく経ってから思い至ったりもする。夜の海辺のただならぬ気配など、映像自体の力も強い。そして、この語り口がテーマに深く結びついている。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

思い出をそのまま映像に…そんなスタイルが愛おしく切なすぎる

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

子供時代、父親と出かけたバカンスを回想する構造のためか、一見、乱雑にシャッフルされた映像が重なっていく。最初はちょっぴり戸惑うも、やがて「大切な思い出はこうやって記憶されるのか」と信じがたい没入感に襲われた。
周囲に兄と間違えられる若々しい父との親密さ。一方でバカンス先で溢れる大人の世界への好奇心。それらを愛おしくカメラが収め、わずかに父が抱える秘密のパートを挿入して激しい波のように作品がざわめく。そのメリハリの秀逸さ。そして描かれない部分への想像力が果てしなく広がる。これぞ映画の醍醐味。
当時の父と現在の娘の生活がかすかにリンクする瞬間、目の前にいない大切な人との絆が永遠であることに涙する。

この短評にはネタバレを含んでいます
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