BETTER MAN/ベター・マン (2024):映画短評
BETTER MAN/ベター・マン (2024)
ライター5人の平均評価: 4.2
サルのオーラはスターのオーラ!?
英国が誇るポップスター、ロビー・ウィリアムズをサルの姿にして伝記ミュージカルをつくる。この奇抜なアイデアだけでも買い。
そもそもサルは人目を引く生き物だが、人間キャラの中に紛れ込ませただけで目が離せなくなる。ウィリアムズのスターオーラが、そこにリンクしたかのようなつくり。ステージパフォーマンスやダンスのビジュアルにも面白味が宿る。
内面の葛藤にスポットを当てた点は『ロケットマン』に近く、孤独を深めていく展開はシリアスだが、彼のヒット曲を生かしたミュージカルシーンはとにかくアッパー。ロンドンの大通りを封鎖して撮影したスペクタクルは圧巻だ。あの名曲の配置も絶妙。
先に告白があり、それを映画にした
そもそもは、マイケル・グレイシー監督が、何に使うのかわからないままロビー・ウィリアムズに過去を語ってもらい、それを録音したのが始まり。映画に出てくる本人のナレーションのほとんどは、その音声なのだ。この映画に真実味がたっぷりある理由は、そこにもある。ウィリアムズの顔を猿にしたのは、ありきたりのミュージシャンの伝記映画にしたくなかったのと、彼自身が昔のパフォーマンスを振り返って「まるで猿のように」などと言ったから。最初は奇妙に感じる観客もいるかもしれないが、いつしか忘れて感動させられるはず。音楽、ダンスのシーンのすばらしさは、さすがグレイシー。ウィリアムズのことをまるで知らなくても、見て損はない。
国民的ポップスターの少年漫画的な仮面の告白
かねてから本人が語っていた比喩的な自画像としての“猿“をそのまま可視化するという話法の選択がヤバすぎる。ロビー・ウィリアムスの激動と内省、ショービジネスの光と影を見つめるM・グレイシー監督は『オール・ザット・ジャズ』へのオマージュ等も込めつつ、奇矯さの中から王道の迫力が突き上がる豪快なポップオペラに仕立てた。
テイク・ザットでの活動、リアム・ギャラガーとの因縁など、90年代中心の英国音楽絵巻としても楽しい。全体としてはフランク・シナトラ(“神々”の筆頭)で繋がる父親との関係性に焦点が絞られ、弩級のエモいクライマックスを迎える。Netflixのドキュメンタリーシリーズ(23年)も併せて観たい。
自分をサルの姿で描く、という大胆な発想
英国のボーイズグループ、テイク・ザットの元メンバーで、脱退後のソロ活動でも人気を集めるロビー・ウィリアムズの自伝映画だが、自分を「猿」の姿で描くという大胆な演出がポイント。その姿を提示して見せるだけで、最初から、これは寓話でファンタジーなのだと了解させる。なので、無名の少年が16歳で大スターになり、転落し、復活するという直球の物語が、素直にストンと胸に落ちる。本人がナレーションで語る胸の内が、あけっぴろげな告白に聞こえてくる。さらに『グレイテスト・ショーマン』のマイケル・グレイシー監督が歌で感動を盛り上げる。英国風俗のファンには、彼の実家の普通の英国家庭の描写も魅力的で見逃せない。
奇怪さは一瞬で消え去り、最高のミュージカルシーンへ!
ロビー・ウィリアムズの半生がチンパンジー姿(周りは人間)で描かれるとあって、どんな奇怪世界なのかと思いきや、冒頭の小猿から違和感ゼロ。表情は豊かで愛おしく、テイク・ザット時代からこの人の憎めない悪ガキっぷり、セクシーさまで、見た目は異形なのに伝わってくる。信じがたい映画のマジックに吸い込まれた。
監督の真骨頂はミュージカル場面でフル発揮。中でもロンドンの街をバックにしたシーンは、テンションの上がり方が異常レベルだ。
展開上、ややスローになる部分があるも、そこから怒涛の感動で盛り返す構成に唸る。ボラプのノリに近い。何より「自分は特別」という感覚を、ネガティブ部も含めここまで共感させる映画は貴重。