ロングレッグス (2023):映画短評
ロングレッグス (2023)
ライター3人の平均評価: 4.3
オカルトをリアルに吸収したサイコスリラー新境地
『羊たちの沈黙』からの引用や『セブン』のような陰鬱な空気感。90年代のサイコスリラーからの影響は明白だが、それでいて想像の上を行く独創的な展開に気持ちを持っていかれる。
幻視や悪魔崇拝などのオカルトの要素を盛り込みつつも、現実味を損なわない点が、とにかく素晴らしい。パーキンス監督によると、ガス・ヴァン・サント作品のような映像を目指したとのことだが、なるほどのリアリティ。N・ケイジという濃い“素材”も、本作の世界観にはうまい具合に溶け込んだ。
元祖サイコスリラー『サイコ』の主演俳優を父に持つ監督だけに、時代がひと回りした感慨も。ここから新しい波が始まりそうな予感を抱かせる。逸品!
見えそうで見えないものが恐ろしい
冒頭シーンの構図がもたらすインパクトが、絶大。見えそうで見えないものが、恐ろしいものを想像させる。その恐怖感がずっと持続して、画面は怪しげなホラーの定番アイテムのオンパレードになっていくのだが、そこに映し出されていないところで、何か恐ろしいことが起きてしまった、または起きているのではないかと思わせる。そして、物語は予想しなかった方向に転がっていく。時々流れるグラムロックのT・レックスの歌が、ここまでいかがわしいものだったとは。
オズグッド・パーキンス監督は配信中の『呪われし家に咲く一輪の花』の高密度の静寂もおすすめ。スティーヴン・キング原作の新作映画『The Monkey』も早く見たい。
ニコケイ映画の中でも、かなり極端なアングルで凍りつく
凶悪かつ素性が謎のシリアルキラーと、立ち向かう捜査官の関係で、『羊たちの沈黙』や『セブン』のムードも甦る。
冒頭で少女が目にする光景から、異様な不安感がずっとキープされる。ニコラス・ケイジがどの役なのかは想像どおりとはいえ、出てきた瞬間、彼の長年のファンも驚愕の姿に、このスターの底知れぬ闇を実感してしまうはず。それくらい振り切れている。対する捜査官役のマイカ・モンローが、つねにどこか虚ろな表情で、その意味を妄想しながら観ると怖さが倍増する。
家の中に響く音。人形の目の動き。要所で聴覚と視覚で攻めてくる演出は、ホラー&スリラーとして最適。謎解きにそこまで集中しなくていいので、むしろ観やすいかも。