旅と日々 (2025):映画短評
ライター2人の平均評価: 3.5
静かに広がる風景の中を歩き続ける
風景が語る。人は、あまり語らない。大きな出来事は起こらず、風景は静かなまま広がっている。脚本家である主人公は、韓国俳優シム・ウンギョンが演じ、他の国で生まれ育ち、今は別の国で暮らしているという設定で、今いる場所に根が生えていない。つねに旅をしてる。雪原の中を歩く彼女の姿は小さく、大気は冷たく、静寂に満ちている。そこにある空気が、原作のつげ義春の描く世界に通じている。
監督は、『ケイコ 目を澄ませて』でも、人々が暮らす場所の静かさを描きだした三宅唱。映画の中で、ほんやら洞のべんさんが主人公に語る言葉は、そのまま監督の作品論のようにも聞こえてくる。
私的で優しいドラマと見せかけ、構造や裏テーマはハイブロウ
近作と比べると、映画作家として、より“私小説”的世界に挑んだ感のある三宅監督。どこか掴みどころのない、しかし優しい味わいは新たな地平を目指した結果かも。
主人公の脚本家の創作への苦心、“作品内作品”と現実のブレンドは、ある程度、想定内ながら、登場人物たちの予定調和を外す行動で、あらぬ方向に進んでいくのも、本作の魅力。ドキドキするほど過酷な海のシーン、荘厳たる雪景色の美しさなど、深く記憶される瞬間も多数ある。英語タイトル「2つの季節、見知らぬ2人」が、しっくりきたりも。
旅によって人はどう変わるのか…というテーマをシンプルに伝えているようで、じつはその奥に深い闇も漂っていそうな怪しい感覚も妙味。





















