死の天使 ヨーゼフ・メンゲレ (2025):映画短評
セレブレンニコフ節の優れたヴァリエーション
ロシアの歪みを描き続けてきた鬼才監督セレブレンニコフが、ナチスの闇へと身を投じる。アウシュヴィッツの“死の天使”メンゲレ──南米に逃れて偽名で生きた亡霊のような30年を、彼は時制をねじり多面体の肖像として立ち上げる。 白黒の逃亡生活と、鮮烈なカラーで蘇るナチス時代。その反転は罪を直視せず、むしろ被害者を名乗ろうとする凡庸な心の構造を暴く。
『リモノフ』で国家を内面化する人間の危うさを描いた監督は、同様の問いを鋭く突きつける。人は“正しい”と信じた瞬間、時代の巨大な要請と自分を同一化してしまう──その恐ろしさを。これは過去の物語として消費されるものではない。誰もが簡単に踏み外す一歩への警告だ。
この短評にはネタバレを含んでいます





















