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『マジック&ロス』がニューヨークの映画祭のオープニング作品に!主演兼プロデューサーの杉野希妃に聞く!

『マジック&ロス』がニューヨークの映画祭のオープニング作品に!主演兼プロデューサーの杉野希妃に聞く!
主演兼プロデューサーの杉野希妃

 映画『歓待』や『絶対の愛』などで注目を浴び、女優だけでなくプロデューサーとしてもその活動の幅を広げている杉野希妃が、新作『マジック&ロス』について語った。

 同作は、全く面識のない日本人のキキ(杉野希妃)と韓国人のコッピ(キム・コッピ)が香港の神秘的な土地、ムイウォに降り立った。二人が滞在することになった森の傍らにあるホテルにはベルボーイ(ヤン・イクチェン)が居たが、滞在者は彼ら以外に見当たらない。そんな不思議で幻想的な土地で、彼らは時間の感覚を失い始めていく……。監督はマレーシア出身の新人監督リム・カーワイ。今作はKAFFNY(Korean American Film Festival New York)のオープニング作品として上映もされている。

 まず、杉野希妃が映画界に入るきっかけは、韓国への留学と韓国映画に出演した経緯にあったそうだ。「キム・ギドク監督やイ・チャンドン監督の作品で、韓国映画のレベルの高さに驚かされました。彼らが作るような映画に出演したい、そのためにはまず韓国語を学ばなくてはと思ったことが一番大きな動機なんです。留学して2、3か月目に、語学学校の友人からオーディション情報を聞いて願書を出し、オーディションを受け合格したので、タイミングや運に恵まれていたのだと思います」と常に情報網を張り巡らせ活動しているようだ。

 そのキム・ギドク監督とは『絶対の愛』でタッグを組んでいる。「キム・ギドク監督の映画に対する態度は、驚くぐらい真摯で純粋で無垢です。純粋であるがゆえに、あの強烈な、心の底までえぐられるような作風になるのだと思っています。そして無駄がありません。シナリオの推敲(すいこう)を重ね、無駄を削り、予算がかからないように努力する、という姿勢は映画人として見習わなければいけません。それに彼は監督兼製作者でもあるので、全体を俯瞰(ふかん)で見ることができる稀有な素晴らしい監督だとも思っています」と監督から柔軟に吸収していったようだ。

 そして、そんな俯瞰(ふかん)で物事を見始めた彼女が主演兼製作を担当したのが今作だ。その舞台となる香港の神秘的な土地ムイウォで撮影することになったきっかけは「今作の監督とジャック・ロジエ監督の映画『オルエットの方へ』の鑑賞後に、フランスはロジエやロメールのようにバカンス映画は多いけれど、アジアは少ない。だったらわたしたちが作ってみよう!と盛り上がったのが元々の発端なんです。ムイウォは外国人アーティストがたくさん住む一方で、自殺名所でもあり、陰と陽が共存する妖しい場所で、この土地自体に妙な魅力を感じ、(最終的には)監督からの送信写真を見て決めました」と答えた。

 このように自然な流れで撮影に入ったため、映画内では脚本に改稿の余地があるように見えた。「20ページほどのトリートメント(物語を概略的に説明したもの)を準備して撮影に臨みました。確かに脚本を完璧に準備すればもっと筋道の通ったテンポの良い内容になるとは思いますが、その時その時の空気、音、自然、二人の関係、土地の磁場を大切にし、即興を取り入れたことで、言葉や論理では説明できない、次に何が起こるかわからない何かが撮れたのではないかと思っています」と語る通り、その演出方法が解釈の多様性を生み出している。

 今作のリム・カーワイ監督は、日本や北京などで仕事や留学を体験し、国際的な感覚を持ち合わせている。「監督は自分を漂流者と自負していて、息をするように軽々と国境を飛び越えていく人なんです。長編デビュー作『After All These Years』という作品も個性が色濃く出ていて魅力的だと感じました。わたしも映画で世界と繋がりたい、国境や性別や時代をすべて越えたいと思っているので、彼の持つ感覚に親しみを覚えたのかもしれませんね」とボーダーレスの映画人として動き出すが、彼女にもそれなりに苦労もあったようだ。「現場では韓国人、マレーシア人、フランス人、香港人が参加し、共通言語がない上に通訳もいなかったので、監督とわたしが通訳をしていました。監督も現場ではラインプロデューサー(予算管理や製作進行を担う業務)的な動きもしてくれていたので、本当に大変だったと思います」と語った。さらに個人的に一人の映画人として、どう映画と向き合っていくかを常に考え、さらに監督と二人で多くの役目に携わったことが、非常に勉強になったとも明かしている。

 ムイウォという土地の魅力は「陰と陽が共存して、これはキキとコッピの関係と同じで、一つが二つに派生してまた一つに戻って行くというモチーフはこの土地からかなり影響を受けています。そして、日本だと受け入れ難いことがムイウォだとすんなり受け入れられる点です。例えば、日本だと首から上がない犬の死体は大変驚かれますが、ムイウォでは驚かずに負の部分を見たとしても、それも生の一部だと納得させるようなエネルギーを放つ、妙な善悪を超越した説得力のある場所なんです」と語った。そんな神秘的な空間が観客を不思議な感覚へと誘っていく。

 映画内では侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督作品のように、時間と空間が上手く共存している。「監督が釜山国際映画祭主催のAFA(アジア・フィルム・アカデミー)で侯孝賢監督の下で学んだので、彼の影響は強いと思います。編集段階で映像確認中に、現場では気付かなかったものが見えてきたということもあり、当初のストーリーラインよりは時間軸が曖昧になっています。夢なのか現実なのか、はたまた誰の視点なのかぼやかし、入れ子構造になっています。出口を探すというよりは、キキとコッピと一緒にさまよっているような感覚を観客の皆さんと共有したい作品なんです」と語る通り、観客自身が浮遊している感覚を感じるかもしれない。

 最後に、すでに女優兼プロデューサーも担当し、今後は監督する意識があるのかという問いには、「監督に挑戦し、役者の気持ちをよく理解し、いろいろな面において作品を俯瞰(ふかん)でも見られる……そんな監督が理想。映画を心から愛しているので、映画で何ができるか模索していきたいです」と答えた。彼女の熱意は国境を越えて新たな地図を描き始めた。はたして彼女は、今度はどの地に足を踏み入れるのだろうか? 久しぶりに楽しみな国際的な映画人が登場したようだ。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)


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