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A24、アカデミー賞ノミネートを量産する気鋭スタジオの軌跡

日本でも大いに話題となった『ミッドサマー』
日本でも大いに話題となった『ミッドサマー』 - A24 / Photofest / ゲッティ イメージス

 アメリカのインディペンデントの映画&テレビスタジオとして、日本の映画ファンの間でも認知度が高まっているA24。革新的なこの映画配給・製作会社の歴史を追いながら、その全貌に迫ってみたい。

A24『ライトハウス』予告編

 A24は、2012年8月にニューヨークで設立された。創設者はダニエル・カッツ、デヴィッド・フェンケル、そしてジョン・ホッジスの三人。カッツはかつて映画のファイナンスグループ、グッゲンハイム・パートナーズを率いており、フェンケルは映画製作会社オシロスコープの共同設立者で代表取締役、ホッジスは製作会社ビッグ・ビーチの製作部門と企画開発部門の代表を務めるなど、三人とも映画の世界で経験を積み業界を熟知しているベテランだ。A24という社名は、イタリアのローマとアドリア海をつなぐ高速道路「アウトストラーダ A24」から取られている。

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 設立者たちが「独特の視点の映画」を体験することをモットーに、A24は2013年からアメリカで映画配給業をスタートさせる。同社が最初に注目を浴びるきっかけになった作品は、ハーモニー・コリン監督の青春クライムムービー『スプリング・ブレイカーズ』だ。ベネチア国際映画祭で特別賞を受賞した同作は、アメリカでも批評・興行両面で成功を収める。翌2014年には、スカーレット・ヨハンソン主演のSFホラー『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』や、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のSFミステリー『複製された男』といったシュールで前衛的な野心作の全米配給を行う。

 そして2015年、A24にいきなり転機が訪れる。

 米配給したアレックス・ガーランド監督のSFスリラー『エクス・マキナ』、共同配給したエイミー・ワインハウスのドキュメンタリー『AMY エイミー』、そして全米配給を手がけた『ルーム』がそれぞれ興行面で成功すると同時に、3作品ともアカデミー賞を受賞したのだ。中でも作品賞など4部門でノミネートされ、ブリー・ラーソンが主演女優賞を受賞した『ルーム』がハリウッドに与えたインパクトは大きかった。

 2016年には、サンダンス映画祭でセンセーションを巻き起こしたロバート・エガース監督の魔女ホラー『ウィッチ』の全米配給権を獲得し、ヒットを記録。カンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞したヨルゴス・ランティモス監督の『ロブスター』を全米配給し、アカデミー賞で脚本賞にノミネートされる。そして共同製作と全米配給を手がけたバリー・ジェンキンス監督『ムーンライト』も、アカデミー賞8部門にノミネートされ作品賞、助演男優賞、脚色賞の3部門に輝き、新興のインディペンデント・スタジオとしては異例の快挙を成し遂げた。

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 2017年もショーン・ベイカー監督『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』やジョシュ・サフディベニー・サフディ兄弟監督の『グッド・タイム』、グレタ・ガーウィグ監督『レディ・バード』といった話題作を立て続けに全米配給し、中でも『レディ・バード』は米国での興行収入が4,800万ドル(約52億8,000万円)以上を記録、アカデミー賞で作品賞ほか5部門でノミネートされた。

 2018年には、共同製作と全米配給を手がけたアリ・アスター監督『へレディタリー/継承』がサンダンス映画祭で絶賛され、世界興行収入が8,000万ドル(約88億円)を超えるヒットとなる。翌2019年にはアスター監督のスウェーデンのカルトを題材にしたホラー『ミッドサマー』がスマッシュヒット、日本でも興行収入7億円を超えるヒットを記録する。また、ロバート・エガース監督の2作目となる白黒サイコロジカルホラー『ライトハウス』を共同製作と全米配給し話題を呼ぶ。同じく共同製作と全米配給したサフディ兄弟の『アンカット・ダイヤモンド』は、A24配給作としては過去最高となる米国内興収5,000万ドル(約55億円)を上げる。2020年には全米配給を手がけた『ミナリ』がアカデミー賞6部門でノミネートされ、ユン・ヨジョンが韓国人俳優として初めて助演女優賞を受賞したのも記憶に新しい。

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 A24の作品群を振り返ってみると、ヒューマンドラマからホラーまでジャンルは幅広く、比較的低予算の独創的かつ先鋭的なアートハウス映画が中心で、芸術性が高く作家性が強い新鋭監督の個性的な作品が目立つ。メインストリームに迎合せず、大衆向けのコマーシャルな娯楽作品や大作にはさらさら興味がない。ユニークなアイデアと鋭い感性を持った映像作家の独自の視点が込められた作品を世に出すことに注力しているのだ。このこだわりこそ、A24の特徴であり最大のアドバンテージといえよう。もちろん、成功の裏には失敗もあり、思ったような成果を残せなかった映画も存在するが、作品選びの嗅覚を磨きつつ、自社の理念を忠実に守りながら、挑戦を続けることが肝要なのだ。

 ハリウッドを代表するインディ・スタジオとして隆盛を誇るA24だが、当然ライバルは存在する。その筆頭は、昨年のアカデミー賞で作品賞を含む4部門に輝き、外国語映画としては異例の大ヒットを記録したポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』や、フランスの『燃ゆる女の肖像』、オスカー助演女優賞を獲得した『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』といった作品を米国配給したNEON(ネオン)だ。テイストが少しかぶる両社の攻防からは今後も目が離せない。

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 最後に、A24の今後のラインナップで締めよう。ダーレン・アロノフスキー監督のドラマ『ザ・ホエール(原題) / The Whale』、タイ・ウェスト監督のホラー『エックス(原題) / X』、今年のアカデミー賞で助演女優賞にノミネートされブレイクしたマリア・バカロヴァ主演のスラッシャーホラー『ボディーズ・ボディーズ・ボディーズ(原題) / Bodies Bodies Bodies』、アレックス・ガーランド監督のホラードラマ『メン(原題) / Men』、そしてA24の看板の一人アリ・アスター監督、ホアキン・フェニックス主演の『ディサポイントメント・ブルーバード(原題) / Disappointment Blvd.』など、強力な作品が続々と控えている。

 A24旋風はまだまだ続くばかりか、長期的な繁栄を持続しながら、今後も世界中の映画ファンを魅了し、興奮と刺激を与え続けそうだ。(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル110円計算)

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