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香川京子、溝口健二監督との思い出語る 監督からの忘れられない言葉「反射して」

香川京子
香川京子

 女優の香川京子(91)が5日、角川シネマ有楽町で行われた映画『近松物語』4K版上映後に行われたトークイベントに出席し、当時の貴重な話を語った。

【画像】香川京子『近松物語』当時の貴重な話語る

 1月20日より開催中の「大映4K映画祭」は、1942年に創立された老舗の映画会社・大映が誇る傑作の数々の4K版を上映する特集企画。巨匠・溝口健二監督の傑作『近松物語』4K版上映後のアフタートークゲストとして、同作ヒロインの香川が特別ゲストとして来場することとなった。

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 近松門左衛門の人形浄瑠璃を巨匠・溝口健二が映画化した『近松物語』は、不義密通と誤解された男女が、真実の愛に気付き、覚悟するまでの姿を現代的なスピード感で描くドラマ。映画上映後にステージに立った香川は「長い女優人生の中で一番印象に残っている作品。それを観ていただいてありがとうございます」とあいさつ。

 本作で演じた、おさんという役柄は、今でこそ、香川の代表作の1本とも言うべき役柄として知られているが、当初は、茂兵衛に思いを寄せる女中のお玉(劇中で演じたのは南田洋子さん)の役柄を演じることになっていたという。「その年の初めごろに(溝口監督の)『山椒大夫』という映画に出演して。『七人の侍』と一緒にベニスの映画祭(ベネチア国際映画祭)に『山椒大夫』が出品されることになったので、ベニスに行ってきたんです。その時に(当時の大映社長だった)永田社長が飛行場までひょっこり迎えに来てくださって。『君が、おさんをやることになったから』とおっしゃったんです。でもわたしは帰ってきたばかりで、時差があったものですから、そうですかとぼんやりとお話を伺っていたんですが、それから一週間くらいたって京都に行ったら、これは大変なことになったなと思いましたね」と述懐した。

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 これは後になって知ることになったというが、溝口監督が『山椒大夫』で組んだ香川を気に入り、おさんは香川でやりたいと熱望したという。「それは後で伺って。そうだったのかしらという感じですが」と笑う香川だったが、当時はまだ22歳。京都の言葉も初めて、着物の裾を引きながら歩くのも初めて、人妻役も初めてという初めてづくしで、「なにもわからないことばかりだったんです」と振り返る。NHK連続テレビ小説「おちょやん」のモデルになった女優・浪花千栄子さんが、おさんの母親役だったということで、「言葉をはじめ、いろいろと浪花さんに教えていだきました」と回顧する。

 『山椒大夫』は、子どもの役なのでそれほど厳しさを感じなかったというが、『近松物語』のおさんという役柄はその複雑さゆえ、非常に大変だったそうだ。「溝口監督はとにかく演技指導ということをいっさいなさらない方なんです」と語る香川は、「セットに入ると、はいやってみてください、とおっしゃるだけなんですね。わたしはなにもわからなくて、部屋に入って、どこに座ればいいかもわからない。本当になにもわからなかったんですけど、浪花さんにすがって教えていただいて、なんとかできたという感じだったんですね」としみじみ。

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 溝口監督からは「反射をして」という言葉を口酸っぱく言われたという。「芝居というのは、自分の番がきたらセリフを言うのではなく、相手の動きに反射してはじめて芝居ができるんだと。だから反射してくださいと言われて。役の気持ちになっていけば、自然に動けるはずだと。それがとても勉強になったんですよね。お芝居の根本を溝口監督に教えていただいた。それは本当にありがたかったですね」

 そんな溝口組の経験は、後の女優人生においても非常に役に立ったという。「反射してくださいというのは、黒澤組でも役に立ったと思うんですよ。黒澤組の女性というのは、あまり表に出る女性はいなくて。でもある時には大事な芝居もあって。ボーッとはしてられないんですよね。セリフがなくても、とにかくまわりの人の動作を聞いて、言葉を聞いて、反射してないといけないシーンが多いんですよね。だからこれが反射だわ、と思っていますし。今でも忘れられない大事なことですね」と言葉をかみ締めるようにコメントした。

 溝口監督は『近松物語』の2年後に亡くなるが、実は亡くなる直前に準備を進めていた『大阪物語』にも香川の出演を熱望していたという。「まだ若かったんですよね。わたしは京都の病院にお見舞いに伺ったんですが、その時はまだお元気そうだったので。まさかそんなに早く亡くなられるなんて思っていなかったですから」と残念そうな顔を見せた。なおその『大阪物語』は、溝口監督の遺志を継いだ吉村公三郎監督が映画化。香川も同作に出演している。

 成瀬巳喜男監督、今井正監督、小津安二郎監督、溝口健二監督、黒澤明監督、清水宏監督といった日本映画の黄金時代を彩る巨匠たちに愛され、今なお現役の女優として活動している香川。「こんなに長くお仕事させていただいたのは本当にありがたくて。嫌なことはひとつもなかったし、しあわせで。感謝の気持ちでいっぱいです」と笑顔を見せた。(取材・文:壬生智裕)

「大映4K映画祭」は角川シネマ有楽町で開催中

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