「ばけばけ」涙のラストシーン誕生秘話 “手つなぎ”は一発撮り＆台本になかった
2025年最後の放送となった連続テレビ小説「ばけばけ」（NHK総合・月～土、午前8時～ほか ※土曜は1週間の振り返り）第13週・第65回では、ヒロイン・トキ（高石あかり※高＝はしごだか）とヘブン（トミー・バストウ）の関係性が大きく変化する感動のラストシーンが描かれた。制作統括の橋爪國臣と演出の村橋直樹がインタビューに応じ、ラストシーンの撮影秘話、主題歌のタイミングをあえてずらした意図について語った。
連続テレビ小説の第113作「ばけばけ」は、松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン（小泉八雲）をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々をフィクションとして描く。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語。
26日放送の第65回では、トキとヘブンが結ばれる過程が、トキの最初の夫・銀二郎（寛一郎）と、ヘブンに想いを寄せる米新聞社の同僚イライザ・ベルズランド（シャーロット・ケイト・フォックス）の目の前で起こるという演出で描かれた。
ラストシーン直前、ヘブンと別れたトキは橋の上で突然涙を流した。演出の村橋は、同シーンが高石のほぼアドリブに近い演技だったと振り返り、撮影の直前に「高石さんに『何を演じるかは任せる。ずっとカメラを回し続けるから（台本にないことでも）好きにやってみて』とお願いした」と本人とやりとりを交わしたという。
村橋は「本編で使っている、涙を流すカットまでに３分くらいかかっています」と証言。「高石さんは、カメラが回った後、心の深い部分が出てくるまでに時間がかかる人です。カットがかかった後、『なんで私、泣いたんだろう……。やっぱりヘブンさんのことが好きだったんだ』とおっしゃっていたのが印象的でした」と撮影後の様子も明かす。
夕日をバックに散歩するトキとヘブンが手をつなぐ感動のラストシーンは、ハンバート ハンバートが歌う主題歌「笑ったり転んだり」の歌詞の内容からインスパイアされているという。村橋は「（第65回の）台本より主題歌の方が先にできていました。あの歌は（小泉セツの著作である）『思い出の記』に書かれた小泉夫婦の関係を読んだうえで作ってもらっています。 台本を作っている時に主題歌も頭に置きながら脚本のふじき（みつ彦）さんと『一緒に散歩しませんか？ くらいの空気感で二人が結びついていくのが近いんじゃないかな』という話になったんです」と紹介する。
夕日のシーンは、ハーンがその夕景を愛したという島根県の宍道湖で撮影された。村橋は「松江の本物の夕日を背景に撮っています。小泉八雲さんが夕日を見るのが好きだったという蕎麦屋の近くで撮っているんです。目の前にあるものをそのまま使って、小細工はせず、あの手つなぎの瞬間を一発で撮りました。慌ただしくなく、豊かな時間の中で撮れたシーンです」と撮影を回顧する。
湖に向かう直前の橋のシーンから、高石とトミーも「あとは手をつなぐだけだね」と話をしていたそうで、村橋は「実は、手をつなぐシーンは橋の上で二人がアドリブでしていたんです。でも、これは最後にとっておこうという流れになりました」とラストシーンにふさわしい手つなぎが生まれた経緯を紹介した。
また村橋は「手をつなぐシーンはもともと台本になかった」とも述べ、「主題歌にインスパイアされて、トキとヘブンの散歩シーンが生まれたので、最初から主題歌が最後に流れるイメージができていました。映像を編集する段階で、主題歌をあえて最後に持ってくるという流れになったわけではないです」と主題歌がまるで映画のエンドロールのように最後に流れた意図も明かす。
橋爪は、ラストシーンの撮影に立ち合うことができなかったという。「撮影現場に行けなかったので、編集室でこのシーンを見るのが楽しみでした。ただひたすら感動して、（プロデューサーの）田島（彰洋）は横で涙を流していました。松江は曇るので、あれだけ綺麗な夕日を撮るのはなかなか難しい。そういう意味でも、このドラマは何か持っている。偶然がうまくいった感じです。第13週は本当に何も言うことがないくらい素晴らしかった」と年内最後のオンエアを振り返っていた。（取材・文：名鹿祥史）
