オスカーを手にするのは誰?ティモシー・シャラメが悲願の初受賞なるか
第98回アカデミー賞

第98回米アカデミー賞のノミネーションが発表された。ここでは俳優4部門の受賞の行方を考察する。主演男優賞・主演女優賞・助演男優賞・助演女優賞の予測で最も重要となるのは、今年からアクターズ・アワードに改名された全米映画俳優組合賞(SAG)。この賞の発表は現地時間3月1日と、まだ先。ただ、近年、アカデミー投票者の国籍がますます多様になってきた中、この賞がどこまで指標になるかも変わってきている。(文/猿渡由紀)
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旧SAGとアカデミーの俳優部門の受賞者は、過去、平均すると7割の確率で一致してきた。2022年と2023年は、4部門(主演男優、主演女優、助演男優、助演女優)すべてが見事に一致。2024年は主演女優が、2025年は主演男優、主演女優が違ったものの、逆転をしてみせたオスカー勝者は、SAGにも候補入りしていた。
しかし、今年の場合、ノミネーション段階から食い違いが結構ある。この10年の間に国際化が進んだアカデミー会員が、ノルウェー映画『センチメンタル・バリュー』とブラジル映画『シークレット・エージェント』から合計5人を候補入りさせたのに対し、相変わらず北米ベースが多い旧SAGは、その全員をスルーしたのだ。では、その人たちにチャンスはないのか? 投票者層が変わった今、そうとは限らない。
『センチメンタル・バリュー』から候補入りしたのは、主演女優部門のレナーテ・レインスヴェ、助演男優部門のステラン・スカルスガルド、助演女優部門のエル・ファニングとインガ・イブスドッター・リレアース。『シークレット・エージェント』から入ったのは、主演男優部門のワグネル・モウラ。全員にとって、オスカー候補入りはキャリアで初めてだ。
助演男優部門は74歳のベテランとモンスター役俳優の一騎打ちか
この中で世に広く知られているのは、マーベル映画や『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』などハリウッド超大作にも出てきたスカルスガルドと、姉ダコタとともに子役時代から活躍するファニングだろう。74歳のスカルスガルドはスウェーデン出身の大ベテランで、業界で広く尊敬されてきた存在。この映画でも、家族を疎かにしてきた芸術家の複雑な心境を繊細に演じてみせた彼に取らせてあげたいと思う投票者は少なくないはずで、勝算はある。最大のライバルは、放送映画批評家協会賞(クリティクス・チョイス・アワード)で彼を打ち負かしたジェイコブ・エロルディ(『フランケンシュタイン』)だ。恐ろしいモンスターなのに、観客に深く感情移入させたエロルディは、映画のハート。オスカーでも受賞は十分あり得る。
一方、ファニングは、共演者のリッレオースと闘うことになり、この映画の支持者の中でも票が割れそう。スカルスガルドの娘でリッレオースの姉を演じるレインスヴェは、第94回のオスカー国際長編映画部門候補作『わたしは最悪。』で注目されて以来、ハリウッドでも大活躍してきた。舞台出身の彼女の実力は確かなもの。しかし、今年の主演女優部門において、彼女はおそらく3番手。この部門には、ジェシー・バックリー(『ハムネット』)という、圧倒的なフロントランナーがいるのだ。
主演女優部門はジェシー・バックリーが濃厚
第94回でも『ロスト・ドーター』で助演女優部門に候補入りしたアイルランド出身のバックリーは、悲しみと苦労を乗り越える母、妻を演じる『ハムネット』で、これでもかというほど感情的なシーンを見せつけては、観る人の心を揺さぶった。前哨戦もひとり勝ちに近く、2番手のローズ・バーン(『イフ・アイ・ハッド・レッグス・アイド・キック・ユー(原題) / If I Had Legs I'd Kick You』)をも大きく引き離している。障がいのある娘を育てるキャリアウーマンのジレンマをリアルに描いたバーン(今回が初のオスカー候補入り)も実力では決して劣らないのだが、作品自体の勢いもバックリーを有利にしていると言える。旧SAGもおそらくバックリーで、彼女はさらなる地固めをするだろう。
主演男優部門はシャラメにブラジルのスターが迫る
だが、主演男優部門は、そこまで明確ではない。今のところ、フロントランナーは、旧SAGにも候補入りし、前哨戦でも結果を出しているティモシー・シャラメ(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)。昨年、歌やギターの腕前を見せたボブ・ディランの伝記映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』で候補入りしつつ受賞を逃したことを残念に思う声はかなり聞かれ、「今年こそ」という空気は、確かにある。そんな彼も、油断はできない。ここで出てくるのが、前述のブラジル人俳優ワグネル・モウラである。
『シークレット・エージェント』は、軍事政権が社会を混乱させる1977年のブラジルを舞台にした野心的な問題作。モウラはこの役でカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した。それは必ずしもオスカーの受賞にはつながらないのだが、その後、作品への評価とともに、映画を引っ張るモウラへの評価も高まり続けてきたのだ。
この部門には7度候補入り、1度受賞歴(第88回『レヴェナント:蘇えりし者』)のあるレオナルド・ディカプリオ(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)もいる。このアワードシーズンでは受賞を逃し続けているが、もし旧SAGが彼を選んだりしたならば、一気にフロントランナーに躍り出るだろう。
一番読めないのは、助演女優部門。前述したファニングとレッリオース以外の候補は、テヤナ・テイラー(『ワン・バトル~』)、エイミー・マディガン(『WEAPONS/ウェポンズ』)、ウンミ・モサク(『罪人たち』)。この3人は旧SAGにも候補入りしているが、ダントツのフロントランナーはいない。これからの6週間に勢いをつけるのは、この中の誰だろうか。


