「デススト2」の経験がこの映画を生んだんだ!『白パンと独裁者』ファティ・アキン監督&小島秀夫監督対談インタビュー

30代で世界三大映画祭で主要賞を制覇した、ドイツを代表する映画監督ファティ・アキン。そんな世界的名匠には、ゲームファンに知られるもう一つの顔がある。それが、ゲームクリエイター・小島秀夫監督が手掛けた大ヒット作「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」のキャラクター、“ドールマン”だ。
本国ドイツで大ヒットを記録するアキン監督の最新作『白パンと独裁者』(8月7日公開)の日本公開を前に、映画とゲームの垣根を越えて、ものづくりへの情熱でつながった二人の対談が実現。アキン監督と小島監督の出会いが本作に多大な影響を与えていたことも明かされた。
小島秀夫、ファティ・アキンの脚色に脱帽
『白パンと独裁者』の舞台は、ドイツ北部の孤島・アムルム。第2次世界大戦末期、戦地から離れ、この地に疎開してきた12歳の少年・ナニングはそこで終戦間際を過ごす。しかし、ナチス・ドイツに忠誠を誓う母・ヒレは、ヒトラーの死のショックから、一切の食事を拒否するように。衰弱していく母が唯一食べたいと望んだのは、バターとはちみつを塗った白パンだった。ナニングは、母親のために島を奔走するなかで家族の真実を知り、価値観を揺さぶられていく。
ナチスだった少年の成長を丹念に描いた脚本は、ドイツの名優にして映画監督のハーク・ボームが、自身の幼少期を基につづったもの。その物語を、ハークの愛弟子であるアキン監督が脚色した。これまで、トルコ系ドイツ人である自身のルーツにまつわる物語を紡いできたアキン監督にとっても新境地となった本作を、小島監督は絶賛する。
Q:小島監督は『白パンと独裁者』のロケ地であるアムルム島にも足を運ばれたそうですね。完成した本作をご覧になって、特に胸を揺さぶられたポイントや驚きはどこにありましたか?
小島秀夫(以下、小島監督):ファティが脚色をした脚本が、非常に頭の良いものになっているんです。満潮と干潮で隣の島とつながったり離れたりする自然環境のなか、戦前から戦後におけるナチスに傾倒していた島の変化、そこで“真実は外側にある”と知り成長する少年。この、“満潮と干潮”、“戦前と戦後”、“少年と大人”を描く対比構造がうまい。ドイツで大ヒットしていますが、成功して当たり前だと思っていました。
ファティ・アキン監督(以下、アキン監督):小島さんはあの美しいアムルムに来てくれましたね。そこでお話したときも、この映画が絶対に成功すると言ってくれたんです。そして、その予言通りになった。流石ですね。アムルム島にひとつだけある映画館でも毎日上映されていて、連日満員なんですよ。
“ビーチ”がつなぐ二人の絆
小島監督:実際に行ったのでわかるんですが、アムルムは本当にものすごく美しい島なんです。戦時中のお話なので、映画では戦闘機が飛んでいたり、死体が流れ着いたりもしますが、それでも自然は美しく営みを続けている。自然環境によるスイッチのオン・オフと、少年の価値観の変化がはまっていてこれが非常にうまい。劇中で満潮のシーンも見学したんですが、しっかりと本当の満ち潮で撮っているんです。都市で撮ってきたファティが、自然に向き合って撮ったという意味でも新しい場所に行ったといえると思います。
アキン監督:小島さんの言う通り、私は都市で生まれ育った人間だから、普段は潮の満ち引きや水、天候、動物などは扱いません。でも、この映画を撮る前、両親の故郷であるトルコの漁村で過ごした夏休みを思い出したんです。1980年代のことで、そのころのトルコの漁村は、ドイツより20年ほど時代が遅れていたから、感覚としては1960年代くらい(笑)。だから、作品の舞台である1940年代半ばにもすぐ接点を見出すことができた。
それがどんな題材であれ、映画監督は作品と自分を結びつける、個人的な「架け橋」を探すものです。それが私にとって、トルコでの古い記憶だった。これまで培ってきた職人技のような映画技法を全て注ぎ込むこともできたし、映画とは何かを学ぶ重要な修練にもなりました。
小島監督:ファティは若い時に世界三大映画祭で賞を取り、ずっと人生が「満潮」でしたよね。そんななかで新しい試みに挑戦した今回の作品が、彼にとっていい意味での「引き潮」になるというか。映画の少年と同じく、ファティも新しいところに行く。これからがファティにとっての戦後というか、新しい世界への布石になる作品だと思います。
アキン監督:ありがとう! 私が小島さんをロケ地に招待したのは、「DEATH STRANDING」でも象徴的に扱われる、アムルム島の“ビーチ”があったからです。信じられないくらい美しかったでしょう? あまりにも広大で砂漠の真ん中にいるような錯覚に陥る。『アラビアのロレンス』だって撮れるくらいですよ(笑)。どこにカメラを向けても画になるから、本当に贅沢な環境でした。それに、ほぼ毎日雨が降るような場所なのに、撮影中は一滴も降らなかった。私たちが島を離れた瞬間に、バケツをひっくり返したような大雨になったんです(笑)。まるで島自体が「私の最も美しい姿を見せてあげるよ」と言ってくれていたかのようでした。
自伝的物語を救った「ゲームの構造」
Q:ナニング少年は、母親が望む「白パンとバターとはちみつ」を手に入れるために奔走します。そのために“ミッション”をひとつひとつこなしていく少年の冒険は、ゲームのストーリーテリングに共通する点がある気がします。
小島監督:そうですね。ナニングは自分のいる安全な島から、ミッションのために外に出ていきますよね。満潮になる海を渡ったりして危険を伴いながら、自分のテリトリーから一歩、二歩と出ていく。そして最終的には外に道を見出していくという構造ですね。だからあの少年は、ファティそのものでもあるのだと思います。新しい世界に行くという意味ではね。
アキン監督:もともと、ハークが書いた自伝的な最初の脚本は200ページを超える膨大なものだったんです。最初は思い出や逸話の羅列になっていて、映画としての構造を見いだせなかった。頭を抱えていたところ、そこに「少年がパンを求めて旅をする」という、30ページほどのエピソードがあったのです。
そこで思い出したのがゲームの存在です。「DEATH STRANDING」のようなね。当時、私は小島さんの作品などを通じて、ゲームのインタラクティブ(双方向的)なストーリーテリングに強い関心を持ち、息子が毎日プレイするゲームからも刺激を受けていました。だからハークに「この『パンを求める30ページのクエスト(任務)』をベースにしよう。ゲームの構造を使って、全体の構造を組み立て直すんだ」と提案しました。新しい事件が起きるたびに次のステージに到達していくような感覚です。
小島監督:白いパンとバターとはちみつを手に入れようとする子供のお話という……イラク映画の『大統領のケーキ』のような雰囲気もありますよね。
アムルム島は、戦時中とはいえ魚も鳥もアザラシもいて、空爆もされていないので草木も生い茂っている。でも、加工品がないんです。自然は豊かだけど、戦争中で物資が届かない。“人間の加工したもの”だけがない中で、お母さんが「白い(小麦の)パンを食べたい」と言っているところが、この映画の肝かなと。自然の中で戦争をしている人間たちだけの都合を、その白いパンが象徴しているのかなと。全ての要素がそうやってハマるんですよね。
アキン監督:一時期はダーレン・アロノフスキー監督の『レスラー』のように、カメラを少年の背後に置いて、プレイヤー視点のように追いかけることすら考えました。結果的に映画的なカメラワークを選んだけれど、物語の構造自体は間違いなくビデオゲームから来ています。小島さんのゲームが私にインスピレーションを与え、私の映画があなたにインスピレーションを与える。本当に素晴らしいバザール(物々交換)のような関係ですね。
“デススト”ドールマン人気と、深まる二人の絆
Q:お二人のコラボでいえば、「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」でアキン監督がモデルを務めたキャラクター“ドールマン”も話題です。PC版も発売されましたが、ドールマンへの反響を教えてください。
小島監督:ドールマンは主人公のサムと常に行動を共にしていて、相談に乗ってくれて、ヒントを与えてくれる最も身近な存在です。彼に話しかけるといろいろなことを答えてくれる、プレイヤーにとって一番近いところにいる存在なので、ものすごい人気がありますよ。人気ランキングでいうと、かなり上位にくるんじゃないですかね(笑)。
アキン監督:ありがとう(笑)。僕もSNSアカウントのアイコンを全部ドールマンにしているくらい、このキャラクターを心から誇りに思っています。この間、ある映画祭で面識のない若い女性監督から「私、毎日あなたを投げ飛ばしてるわよ!」っていきなり話しかけられてパニックになりました(笑)。すぐに「あ、ドールマンのことか!」(※ゲーム中、サムはドールマンを投げて索敵に利用できる)と納得しました。特にトルコではそういうことが時々あります。
トルコでは、トルコ系の人間が国際的な舞台で活躍すると、国中ですごく誇りに思ってくれるんです。小島さんの熱狂的なファンもたくさんいて、みんな“デススト”を知っている。今やトルコの若い世代の間では、私は映画監督よりも「ドールマン」として有名ですよ!
小島監督:ゲームの中では、ダンスも踊ってたしね。
アキン監督:そうそう!(ゲーム中では)私はダンサーなんだ(笑)。いや本当に、あの役のおかげで、映画監督とは全く違う方向で知名度を得ることができた。特に若い人たちの間でね。それは私にとって、とても特別で貴重な経験でした。こうして互いにインスピレーションを与える関係でいられることを感謝しています。
小島監督:ファティは日本にはこないの? この映画のPRに来てくれたらいいのに!(笑)
アキン監督:そうなったら最高ですよね! 子供と一緒に行きますよ。小島さんも今度はハンブルクの私の家にも遊びに来てください。
小島監督:また、世界のどこかで会いましょう!
映画『白パンと独裁者』は8月7日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて順次全国公開
「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH」
プレイヤー自身のゲームプレイによって誰かと繋がり助け合う"ソーシャル・ストランド・システム"を導入し、世界的な名優たちの出演も話題を呼んだ、コジマプロダクションによるゲーム作品「DEATH STRANDING」の続編。前作のエンディングから数か月後の世界を舞台に、主人公サム、そして仲間たちとの新たな"繋がり"の旅が描かれる。
2025年6月よりPlayStation 5版、2026年3月よりPC版が発売中



