「進撃の巨人」&今敏監督から影響を受けた“若き天才” 21歳の俊英が『バックルームズ』を監督するまで【インタビュー】

『ミッドサマー』などで知られる気鋭のスタジオ・A24が、インターネット発の都市伝説を映画化した『バックルームズ』。日本でも9月4日に劇場公開を迎えると、Z世代が劇場に押し寄せ、国内におけるA24作品史上最高のオープニング成績を樹立した。17歳で映画化を企画し、監督・脚本・音楽などを担当した俊英ケイン・パーソンズ(21)が来日インタビューに応じ、出口なき“リミナルスペース”に魅了されたきっかけ、創作の源になっているという日本作品の影響、SNSを中心に考察が白熱する本作の裏側を語った。(取材・文:編集部・倉本拓弥)(以下、映画のネタバレを一部含みます)
2019年、英語圏のネット掲示板「4chan」に投稿された1枚の画像。「もし現実世界から“ノークリップ(ゲームのバグのように壁をすり抜けること)”してしまったら、この場所へ落ちる」という設定が添えられた空間は、瞬く間にネット上で拡散され、その場所は「バックルームズ」と呼称されるようになった。
当時16歳だったパーソンズ監督は、謎多き画像に触発され、YouTubeで短編「The Backrooms(FOUND FOOTAGE)」を発表。再生回数は2億回を突破し、多くの人々を「バックルームズ」の世界観へと誘った。4年後、パーソンズ監督は『バックルームズ』の映画化を成し遂げ、長編デビュー作にして全米ボックスオフィス初登場1位を記録。“史上最年少の全米ナンバーワン監督”として、映画史にその名を刻んだ。
「進撃の巨人」は思春期の思い出
ーーバックルームズは、匿名掲示板「4chan」に投稿された1枚の画像から始まりました。監督がバックルームズというコンセプトに惹かれた理由、YouTubeでプロジェクトを展開しようと決めた理由は何だったのでしょうか?
バックルームズとして拡散された画像は、匿名性がありました。誰がその写真を撮ったのか、どこから来た写真なのか、あの説明文を誰が書いたのか、誰も知りませんでした。トレンドとは呼びたくありませんが、「リミナルスペース」という概念を描写したり、そこにアクセスしようとしたりする視覚的な試みへの意識が高まったんです。
本格的な盛り上がりは、多くの人がネットに触れていた2020年ごろだったと思います。リミナルスペースの画像を集めたコンピレーション動画が数多く出回ったんです。それらはバックルームズの拡張、あるいは「この1枚の画像の中に無限に閉じ込められたらどうなるかを延々と想像する」という感覚を利用した概念の拡張として捉えられていました。
もし、その概念に魅力を感じているなら、そこから歩き続けたときに「もしかしたら他の画像の場所に行き着くかもしれない」と考えるのはワクワクしますよね。私もそうした画像のコンピレーションや、ネット上で形成されつつあったカルチャーを強く意識していました。
私は当時、ネットに夢中になっていて、「Blender」という3DCG制作ソフトを学んで、趣味として動画を投稿していたんです。当時は年中「進撃の巨人」の短編二次創作を作っていました。ファウンド・フッテージ形式ですが、1930~1940年代のフィルムの粒子感がある視覚スタイルです。
それを1年間やり続けた結果、アイデアを使い果たし、燃え尽きてしまいました。そこで、バックルームズに感じている魅力を、よりアクセスしやすく、インタラクティブな媒体で試してみたいと思ったんです。まだ誰も動画として制作していなかったので、実験として試してみたかった。そして、2022年に公開した「The Backrooms(FOUND FOOTAGE)」は、それまで出したどの動画よりも再生数が伸びました。そんなことになるとは思っていませんでした。
ーー以前、『バックルームズ』のインスピレーションとして今敏監督の「妄想代理人」を挙げていましたね。監督が「進撃の巨人」のファンであることも広く知られています。日本のアニメは、普段からインスピレーションの源となっているのでしょうか?
はい。おっしゃった通り「妄想代理人」もそうですし、実は昨日、飛行機の中で今敏監督の『千年女優』を観たのですが、私の生涯ベスト映画の仲間入りを果たしました。今監督の作品には、自分が強く共感し、長年にわたって追求していきたいと思えるような感性が詰まっているのを感じるんです。ですから、今監督は特に大きな影響を与えてくれたと言えます。
また、YouTubeを始めたきっかけはもちろん、思春期の思い出でもある「進撃の巨人」は特別です。監督としての演出手法は、アニメから来ている部分があると思います。ちなみに「進撃の巨人」はアニメで観るよりも、漫画で読む方が好きです。強烈なビジュアルを中心に構築していく「ビジュアルファースト」のアプローチは、そこから学んだものかもしれません。
ーーもしも、大手スタジオから「進撃の巨人」の実写化企画を打診されたら、監督やプロデュースに興味はありますか?
実写化の再挑戦であるなら、懐疑的になると思います。人々がすでに知っているストーリーをもう一度語り直そうとするなら、面白くはならない。「進撃の巨人」の世界観を舞台にした単発のサイドストーリーであったり、シリーズ全体を突き動かした意味ある拡張だと感じられるものならアリかもしれません。本当に明確な理由がない限り、同じ道を辿り直すのは個人的には好きではありません。
『エイリアン:ロムルス』長身俳優を“海賊クラーク”に抜てき
ーー監督は以前「物語を結末から書き始めるのが好きだ」とお話しされていました。本作の脚本でも同様のプロセスを辿ったのでしょうか?
今回は、同じプロセスではありませんでした。YouTubeのコンテンツを作る際のクリエイティブコントロールと、より規模の大きなプロジェクトを監督するのとでは異なるからです。後者は、自分が紙に書いた通りのものを厳密に作るというより、進めながら少しずつ変えていく必要がありました。新人監督としてより大きなスタジオと仕事をし、関わる人数も増えることで、執筆のプロセスで、自分の求めているものが必ずしも反映されないことがあるからです。
ーーバックルームズの世界観に関する背景設定を、事前にキャストへどの程度共有しましたか? 具体的なルールをあえて説明しないスタイルを貫いていますが、キャストも観客と同程度の情報量で演じていたのでしょうか?
『バックルームズ』に関しては、ルールブックとまではいきませんが、自分の中で解明してある設定があります。ですから、質問されたときは常に一貫した回答をするようにしています。俳優が世界観やキャラクターの人生について質問してきたら、喜んで答えますが、情報過多にならないように注意しました。もしも、キャストがバックルームズの核心について尋ねてきたら……守秘義務を守ってもらうことを条件に個人的に教えていました。基本的には、キャラクターが知っているであろう情報量だけ、俳優には説明していました。
ーー(ネタバレ)終盤に登場する悍ましい怪物=海賊クラークは、身長2m31cmのルーマニア人俳優ロバート・ボブロツキーさんが演じました。元バスケットボール選手でもある彼は、『エイリアン:ロムルス』の終盤に登場した怪物・オフスプリングを演じたことで注目されましたが、彼を起用した経緯は何だったのでしょうか?
海賊クラークのキャスティングをするとき、最初は身長が2.7mほど必要だと考えていたのですが、普通に考えて(俳優を見つけるのは)不可能です。スティルト(※高さを出すための西洋版竹馬)を使うことも検討しましたが、撮影スケジュールや準備時間を考慮すると、スタントパフォーマーに演じてもらうのはかなり厳しいという状況でした。
そんな中、製作チームの中に『エイリアン:ロムルス』のキャスティングディレクターと知り合いの人がいて、直接連絡を取りました。ロバートほどの身長がある俳優はそう多くありません。彼が『バックルームズ』に興味があるのか確認したかったんです。彼はとてもクールで、すごく忍耐強い人でした。彼が被るヘッドパーツは超重量だったので、最終的にはVFXで顔を少し加工しています。複数の部署の協力もあり、彼は見事なパフォーマンスを披露してくれました。
「追加要素」として制作した16分間の新規短編
ーー全米公開後、16分間の新作短編「Everything Must Go」がリリースされました。Async社の調査員が記録したとされる映像は、映画より前の出来事を描いているとのことですが、映画公開後に短編を追加した狙いは何だったのでしょうか?
私はYouTubeでこのシリーズを始めました。YouTubeでの制作を楽しんでいるからです。私は映画化されるなんて期待せずにシリーズを展開していました。映画が誕生したのは嬉しいボーナスで、YouTubeで継続するだけでも十分満足です。YouTubeの活動はそれ自体が目的であり、ここまで来ることがゴールだったわけではありません。だからこそ、観客を困惑させたり、難解で視聴者に挑むようなメディアであったとしても「作品の全体像を理解したいなら、YouTube作品も探求してください」と求めることに抵抗がありません。あの追加映像は、物語を知っている観客が評価し、つながりを見出してくれるパートです。新規の観客にとっても、少なくとも好奇心を刺激される要素は十分にあると思います。
制作は映画公開後に行われました。私がこれまで手掛けたプロジェクトの中で、最も過酷なスケジュールでした。声の出演以外の作業を全て、自分の部屋で1週間半から2週間かけて一人でやりました。映画が公開された後、その期間はほぼ徹夜です。正気の沙汰ではない納期でしたが、A24から提案されたアイデアであり、私自身もあのシーンを作ってYouTubeにアップしたいと考えていたところでした。もう少し早く作業すれば劇場公開できるという話になり、ある意味で面白い実験になりました。
また、追加映像の意味を従来のハリウッド映画の文脈で説明するのは難しいですね。本当に単なる「追加要素」なんです。『バックルームズ』というプロジェクト全体は、「それぞれ完結したアーク(物語)を持つ小さなパーツが、寄木細工のように存在する」という構造を辿っています。なので、毎回クリフハンガーで終わって続編を匂わせる内容ではありません。『バックルームズ』というコミュニティーに時間を費やしたい人たちのためのコンテンツであり、私がそこに要素を付け足し続けて拡張させていく。複雑さは増しますが、思考そのものが変わるわけではありません。
映画『バックルームズ』は全国公開中



