『踊る大捜査線』30年愛される“青島コート”の秘密 続編のたびに4~5着製作、色味&涼感加工もアップデート

『踊る大捜査線』シリーズで織田裕二が演じる主人公・青島俊作を象徴するものとして真っ先に思い浮かぶのが、モスグリーンのモッズコートだ。14年ぶりの新作映画『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』(全国公開中)でも、青島は印象的な“青島コート”で東京中を疾走する。1997年の連続ドラマから30年にわたって愛されるそのコートは、果たしてどのように作られているのか。衣裳統括を務めた岡田敦之が、『踊る』シリーズに登場するコスチューム製作の裏側を語った。(以下、映画の内容を一部含みます)
【画像】みんな変わらない!「踊る大捜査線」青島ら湾岸署メンバー
唯一無二の青島コートが誕生するまで
『踊る大捜査線』が再び製作されると聞いた岡田は、「本当ですか?」と聞き返したという。「4作目『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(2012)がファイナルだったので、関連する衣装はすでに手元になかったんです。カエル急便のスタッフジャンパーといったものは、もういらないからとスタッフに配ってしまいました」という。全て一から作り直し。しかも『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003)から参加している岡田は、本広克行監督が細かいところまでこだわることを知っている。「絶対に大変になると思いました」
とはいえ、「一応、青島さんのコートだけは残してあったんです」と岡田は明かす。設定上では、青島は警察官になった時に購入したモッズコートを30年近く愛用し続けているのだが、実際は『THE MOVIE 2』以降、作品のたびに少しずつ改良を重ねて製作している。今作で使用したものは、青島がラストに登場した『室井慎次 生き続ける者』(2024)で作ったものとも異なっていた。「今回は走るシーンが多いので、『室井慎次』の時よりも丈を短くしたいと織田さんがおっしゃって、3センチくらい短くしました。予備のものも含めて、毎回4~5着作っています」
青島コートは、モッズコートでよく使う生地にエイジングをかけて使い古した風合いにするのだが、具体的にはくたくたになるまでヤスリをかけて、洗濯することを何度も繰り返すのだという。「洗ったら縮んでしまって作り直したり。手がかかりすぎて、もう作りたくないです(笑)」。さらに、汗かきな織田のために、なるべく涼しくする工夫も施している。今回も、冷却ファンを付けたり、氷で冷やす方法も試したが、音が煩かったり水滴がついたりしてNGになったという。「最終的にはメッシュ素材にしました。見えないところは全部、着るとひんやりする涼しい素材にしています。それでも暑いんですけどね…(笑)。試行錯誤しましたが、今作品では最終カメラテストでライナーは付けないことになりました」
色味の調整にも苦労した。「経年劣化してるはずなので、研いで洗って薄いグリーンにしていますが、やっぱり元の濃いめのグリーンの色味がいいから、そっちに戻したらどうかという亀山(千広)プロデューサーのご意見があって、それも作ってみました。カメラテストの時に両方を織田さんに着ていただいて、やっぱり薄いほうだよね、となりました」。元の色味の試作品は、今も残っているそうだ。
青島のスーツも、毎回製作している。「もとは既製品だったようですが、『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』(2010)からずっと作っています。もう既製品だと、青島っぽくならないんです。今回は、織田さんのサイズにぴったりと、インナーに厚手のものを着た時用の3センチ大き目のものと、5着ほどご用意しています。今作品は、スーツ・シャツ・ネクタイは織田さんのスタイリストさんと相談、お願いしてご用意してもらってます」
コートもスーツも、ことのほか手が込んでいるのだが、岡田は「でもこれが、やっぱり一番重要ですよね」と笑顔を見せた。
1着だけ残っていた“室井さんコート”
劇中、増田貴久が演じる真下勇気が、「室井さんみたいな立派な管理官にしてほしい」という父・真下正義(ユースケ・サンタマリア)の話を曲解した青島の手で、室井のコスプレをするシーンがある。増田には「リアルな室井さんコートを着せました」と岡田は驚きの事実を明かした。「『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』でコートの燃えるシーンがあり、その時ほぼ全部燃やしてしまったんです。ですが、1着だけ残っていたので、それを使用しました」
勇気の私服決めにも紆余曲折があった。「まず、ハーバード大卒ということなので、カレッジパーカーみたいなわかりやすいものを用意しました。増田さんご自身がオシャレで服好きですから、ご本人が好きそうな系統や、バラエティー番組のコントっぽい衣装も集めました。すごくたくさん着ていただきましたが、最終的にはシックな方向にまとまりました」
趣里が演じる刑事・芝田ひばりは「色味は明るめのベージュかオフホワイトだと最初から思っていました」と岡田は語る。「キャラクターを活かすにはパンツで、ご本人の可愛らしい感じをちょっと男っぽい雰囲気にするためにワイドパンツにして。亀山さんから、すみれさん(恩田すみれ/深津絵里)要素も入れたいとのことだったので、ハイネックみたいなアイテムも入れました。色味は赤いマフラーでつけて。青島とバッティングしないかちょっと心配しましたが、ひばりはボルドー系にしたので、いいバランスだったと思います」
ひばりと同じく青島のバディとなる美浦秋は、演じる白洲迅のサイズに合わせてスーツを製作した。「白洲くんは、作りのスーツは着たことがないとおっしゃっていて、『やはりそういう作品なんですね』と感心してました」と岡田は明かす。「青島がネイビーなので、美浦はグレーで。コートはハイブランドみたいなオシャレなものも用意しましたが、もっと所轄寄りがいいとご本人がおっしゃったので、今のハーフ丈のシャカシャカしたものになりました」
真下雪乃(水野美紀)は「授業参観のお母さんのイメージです」という。「それでも、ふつうのスーツから派手目の柄物、カジュアルな感じとか、いろいろ着ていただきました」。夫である真下正義は「制服ですね。沖田さん(沖田仁美/真矢ミキ)も制服ですけど、こちらはご本人サイズにピッタリなのを作りました。なので、今の警察の制服の形とはちょっと違います」
ニセ青島のコートはエキストラの自前
実際の警察で制服が変更になると、劇中衣装もそれに合わせる。今回もリアルに合わせて女性が全員パンツスタイルになったため、制服は全部新しく製作した。「とにかく登場する人が多いですから、作る量も多い。『踊る大捜査線』で一番大変なのはそこなんです。エキストラをいかに作りこむのかが重要で、大会議室は100人単位で人がいましたからね。冒頭の都庁前の広場も100人分くらい、演出部と協力して全部に過去とのつながりの設定をつけて、衣装を着せています」
最初に台本を読んだ段階で一番大変そうだと思ったのは、ニセ青島が30人以上登場することだったという。前述の通り、青島コートは30着も存在しない。「とてもそんなに作れないので、プロデューサーにすぐ電話して確認しました。結果的に、エキストラで参加したファンの方が自前で用意してくださることになって、よかったなと。念のため、本物とは違いますが青島コートに似たものはこちらでも用意しました」
ニセ青島のひとりを演じた山本高広が着用したものは、以前にグッズとして販売していた青島コートを本広監督がプレゼントし、その後本人が衣装として使用していたものだった。「ご本人のフル自前です(笑)。こちらでもご用意してましたが、衣装合わせの時に、そのほうが面白いということになりました」
大変だけどやりがいがある
14年ぶりに再始動した『踊る大捜査線』シリーズ。岡田は、もし“次”があったら「もちろんやらせていただきたいですけど、ちょっと憂鬱にはなります。すごく大変ですから」と笑う。「でも、やりがいはあるし、美術部はみんな楽しんでいます。楽しまなかったら苦しいです、きっと(笑)」。自身にとっての『踊る』は「名刺か看板のようなものです。この作品のおかげで、ほかにもいろいろやらせていただけているという自覚はありますので。豪華なキャストがたくさんいらっしゃいますし、話し合いながらキャラクターを作って行くのはとても楽しいです」と明かした。
『踊る』シリーズに長く携わっていることもあり、「ある程度、かじ取りは任せていただいてます」と岡田は胸を張る。「やりたいことをやっても大丈夫というか。けっこう派手目で大丈夫かなと思うような服でも、奥のほうのエキストラさんに着ていただいたり、ガチガチの刑事ドラマではありえないような世界観は楽しいです。リアリティーはありつつ、遊べるところは遊ぶ。小ネタもいっぱい。『踊る大捜査線』はそういうところがいいですよね」(取材・文:早川あゆみ)



