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広がるライブビューイング 映画館の可能性

今週のクローズアップ

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今週のクローズアップ 広がるライブビューイング 映画館の可能性

 4月12日には『パリ・オペラ座へようこそ ライブビューイング2012~2013/カルメン(オペラ)』が、翌13日には『METライブビューイング/ザンドナーイ《フランチェスカ・ダ・リミニ》』が、全国の劇場で公開される。昨今、急速な広がりを見せている「ライブビューイング」と呼ばれる映画館での演劇、コンサートの上映。そのきっかけは何だったのか? 今後の可能性と共に検証した。

ライブビューイングの先駆は日本?「ゲキ×シネ」

「ゲキ×シネ」

 2003年に始動し、2004年に第1弾「髑髏城の七人~アカドクロ」が公開されたのが、「劇団☆新感線」を有する株式会社ヴィレッヂが手掛ける「ゲキ×シネ」。演劇よりも映画に造詣が深かったという金沢尚信プロデューサーが、「劇団☆新感線の舞台を映画館で上映したら面白いのではないか?」と企画した。

 「ゲキ×シネ」誕生の陰には、日本の演劇の興行システムも影響しているという。「ロングラン・システム」が取られ、ヒット作はヒットが続くだけ上演できるブロードウェイやウエストエンドと違い、また演目決定に自由度のある専属の劇場を持つ劇団とも違い、劇団☆新感線をはじめとする日本の多くの劇団は、一定期間劇場を借りて公演を行っている。公演がヒットしようがしまいが、1か月であれば1か月、その期間で公演を終えなければならないのだ。しかし、そうして終えた公演を、「ゲキ×シネ」とすることで、過去の作品を後世に残すことができるようになった。

 「ゲキ×シネ」は、ヴィレッヂとティ・ジョイの共同配給で、現在までに10作品が公開されている。第6弾「五右衛門ロック」では全国33館での公開で動員4万5,000人、第9弾「薔薇とサムライ」では全国46館での公開で動員8万人、第10弾となる最新作「髑髏城の七人」では全国80館での公開で動員約10万人を記録と確実に動員数を伸ばしている。また、限られた場所でしか上演できない舞台と違い、全国で上映できる「ゲキ×シネ」は、従来の劇団☆新感線以外の新たな顧客開拓の場を作った。本公演に地方から足を運ぶ観客も増え、劇団にもよい結果をもたらしているという。

【2004秋】「アカドクロ」
古田新太 出演
ゲキ×シネ第1弾
(C) 2004 ヴィレッヂ・劇団☆新感線

【2009春秋】「五右衛門ロック」
古田新太 出演
興収1億超
(C) 2009 ヴィレッヂ・劇団☆新感線

【2011夏】「薔薇とサムライ」
古田新太、天海祐希 出演
興収2億超
(C) 2011 ヴィレッヂ・劇団☆新感線

【2013新春】「髑髏城の七人」
小栗旬、森山未來、早乙女太一 出演
ゲキ×シネ史上最大館数でのロードショー
(C)2013 ヴィレッヂ・劇団☆新感線

【2013秋】「シレンとラギ」
藤原竜也、永作博美 出演
2013年10月5日(土)全国ロードショー!
5月25日(土)チケット発売
(C) 2013 ヴィレッヂ・劇団☆新感線

「シレンとラギ」

 10月5日に全国公開される「シレンとラギ」は、劇団☆新感線初参加の藤原竜也と19年ぶりの参加となる永作博美が、初共演を果たした作品。敵対する南の王国の国王暗殺のため、南の王国へ向かった北の王国の守護頭ラギ(藤原)と毒使いのシレン(永作)が、互いに引かれ合いながら、二つの王国の対立に翻弄(ほんろう)されていく姿を描く。藤原永作のほか、古田新太をはじめとした劇団☆新感線メンバー、高橋克実石橋杏奈が出演。演技派が集結した豪華舞台が、スクリーンでよみがえる。

歌舞伎、オペラもライブビューイングに参入

シネマ歌舞伎

 「歌舞伎芝居の持つ本来の面白さ、美しさ、そして心を打つ感動の場面の数々をわかりやすく、身近に感じていただけないか」という思いから、歌舞伎と映画、二つの強みを持つ松竹株式会社が、そのノウハウを生かす、シネマ歌舞伎のプロジェクトに着手したのは、2003年。劇団☆新感線の「ゲキ×シネ」プロジェクトが始動したのと同じころだった。そして、2005年1月、2003年8月に上演され大ヒットを記録した「野田版 鼠小僧」を「シネマ歌舞伎」第1弾作品として公開した。

 その後、映画界の巨匠・山田洋次監督のメガホンでシネマ歌舞伎化した「人情噺 文七元結」「連獅子」、舞台公演を収録するのではなく、シネマ歌舞伎用に舞台上で撮影し、映画的手法を凝らした作品「高野聖」を公開するなど、さまざまなシネマ歌舞伎作品が世に送り出されている。2012年12月5日、中村勘三郎さんが亡くなった際には、「中村勘三郎 追悼上映」を実施。当初は、東京、大阪のほか、勘三郎さんと縁の深い長野の3か所、1週間のみの限定公開の予定であったが、その後も京都、石川など全国で上映が行われた。シネマ歌舞伎により、全国で臨場感あふれる歌舞伎を楽しむことができるようになった。

 
『シネマ歌舞伎 人情噺文七元結』
(C) 松竹
『シネマ歌舞伎 連獅子』
(C) 松竹
『シネマ歌舞伎 高野聖』
(C) 松竹

《月イチ歌舞伎》
(C) 松竹

歌舞伎座新開場こけら落とし記念
《月イチ歌舞伎》


 シネマ歌舞伎では、2013年4月に歌舞伎座が新開場したことを記念し、全国の27劇場で、シネマ歌舞伎の一挙上映を行っている。片岡仁左衛門坂東玉三郎中村勘三郎ら豪華俳優陣が出演する「ふるあめりかに袖はぬらさじ」「人情噺文七元結」「刺青奇偶(いれずみちょうはん)」「怪談 牡丹燈籠」「野田版 研辰の討たれ」「坂東玉三郎 -鷺娘(さぎむすめ)-」「日高川入相花王」「京鹿子娘二人道成寺」「野田版 鼠小僧」といった充実のラインナップを、月替わりで上映。また、東劇では5月10日まで全作品のアンコール上映も行っている。

METライブビューイング

 一方、海外でいち早くライブビューイングを取り入れたのは、ニューヨークにある名門オペラハウス、「メトロポリタン歌劇場」。2006年、音楽業界(ソニー・クラシカル社長)からメトロポリタン歌劇場の総裁に就任したピーター・ゲルブ氏が、観客の平均年齢が年を重ねるごとに上がっていることを知り、デヴィッド・ボウイのアルバムのプロモーションを衛星中継で全世界同時に行った経験やスポーツバーでのスポーツ観戦を参考に、発案したという。

 2006年、アメリカ、カナダ、イギリス、日本、ノルウェーといった国々の150か所の劇場でスタート。歌い終わったばかりの歌手への舞台裏インタビューや大規模なステージ転換の様子など、生の劇場では観られない特典映像も紹介するという工夫も取り入れたMETライブビューイングは、メトロポリタン歌劇場の1シーズンの観客動員数が約80万人という中、2011-2012シーズンで全世界の動員数300万人弱を記録。オペラ初心者にも親しみやすい工夫も功を奏してか、実際にメトロポリタン歌劇場に足を運ぶことができた観客の3倍以上の観客が、メトロポリタン歌劇場での公演を目にするに至った。2012-2013シーズンでは、全世界64か国、1,900か所の劇場で公開。世界的に公開規模を広げている。


『METライブビューイング2006-07 モーツァルト 《魔笛》』
(C) Ken Howard/Metropolitan Opera


『METライブビューイング/ザンドナーイ《フランチェスカ・ダ・リミニ》』
4月13日(土)より新宿ピカデリー、東劇ほか全国にて公開
(C) Marty Sohl/Metropolitan Opera

『METライブビューイング/ザンドナーイ《フランチェスカ・ダ・リミニ》』

 4月13日から19日まで国内16劇場で公開される「フランチェスカ・ダ・リミニ」は、ダンテやダンヌンツィオが詩や戯曲の題材とし、ラフマニノフチャイコフスキーがオペラや幻想曲の題材とした13世紀イタリアの伝説的悲恋物語をザンドナーイがオペラ化し、1914年に発表した作品。政略結婚の代理人として花嫁を迎えに来た美貌の次男を結婚相手だと勘違いした娘が、姿も心も醜い長男と結婚するも、次男との禁断の恋に落ち、運命に翻弄(ほんろう)される姿を描く。

名門へのさらなる広がり

 2006年、「マノン」よりスタートした英国ロイヤル・バレエのライブビューイング。2010-2011シーズンには、「蝶々夫人」の舞台を3Dで公開するなど斬新な試みも。オペラなどの舞台と違い、翻訳の要らないバレエは、英語を母国語としない国へも同時生中継が可能で、2012-2013シーズンは、22か国、700劇場へ中継されることが決定。日本では、「シアタス:THEATUS」として、映画館で音楽コンサート、スポーツ、演劇、ゲームといったさまざまなエンターテインメントコンテンツを上映する試みを行ってきたワーナー・マイカル・シネマズが上映を決め、2012年10月、「白鳥の湖」より、初めて日本の映画館でバレエ公演がシリーズで上映された。


『英国ロイヤル・バレエ/白鳥の湖』
(C) Royal Opera House, London.

『英国ロイヤル・バレエ/ラ・フィーユ・マル・ガルデ』
(C) Royal Opera House, London.

『英国ロイヤル・バレエ/ラ・フィーユ・マル・ガルデ』

 5月22日に国内20以上の劇場で上映される「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」は、1789年にフランスで発表された「ジゼル」と並ぶ現存する最古のバレエ作品。フランスの田舎町を舞台に、農家の一人娘の結婚をめぐるいざこざをユーモアたっぷりに描く。フランス人振付家ジャン・ドーベルヴァルによる演出は失われており、フレデリック・アシュトン版は、英国ロイヤル・バレエが初演した作品。1960年に初演された。

パリ・オペラ座

 1875年に完成し、歌劇場の代名詞としても用いられる由緒ある劇場「オペラ座」。これまでも試験的に劇場でのライブビューイングを行ってきたが、2012年、「より広い観客に作品を観る機会を持っていただけるように」と2012-2013シーズンの中から、オペラ5作品、バレエ3作品を映画館を通してライブ上映することを決めた。

 先に同時中継でライブビューイングが行われたフランス、欧州では、「ホフマン物語」が13か国200館で動員1万1,800人、「カルメン」が20か国200館で動員1万5,470人を記録。「カルメン」はさらに10か国でも上映されているという。フランス本国では、国内74館の同時中継の劇場数を100館に増やす考え。また、フランス、欧州のほか、日本、香港、シンガポール、ニュージーランド、オーストラリア、ブラジル、北米でも上映予定で、その他各国とも交渉中で、全世界にオペラ座の舞台を観ることができる環境が広がっている。


パリ・オペラ座(ガルニエ宮)
(C) Jean-Pierre Delagarde.jpg

オペラ座の人気スター指揮者フィリップ・ジョルダン
(C) Jean-Francois Leclercq.jpg

『パリ・オペラ座へようこそ ライブビューイング2012~2013/ドン・キホーテ(バレエ)』
(C) Icare.jpg


『パリ・オペラ座へようこそ ライブビューイング2012~2013/カルメン(オペラ)』
(C) national de Paris Charles Duprat.jpg

『パリ・オペラ座へようこそ ライブビューイング2012~2013/カルメン(オペラ)』

 4月12日に公開される「カルメン」は、6月14日に公開される「ホフマン物語」と並び、オペラ座の中心的な2本柱となる作品。スペイン、セビリアを舞台に、タバコ工場で働く美しく移り気なジプシーの女カルメンと、平凡な衛兵の伍長ドン・ホセの悲恋を、「闘牛士の歌」など、なじみ深く情熱的な音楽に乗せて描く。人気カルメン歌手アンナ・カテリーナ・アントナッチやオペラ座の人気スター指揮者フィリップ・ジョルダンのインタビューも交え、観客を「カルメン」の世界にいざなう。

ライブビューイングの可能性

 こうして振り返ってみると、2003年ごろから急速に発展した感のあるライブビューイングという新しい映画館の利用方法。日本では、2011年にアーティストのマネジメントや音楽、映画、演劇の制作、興行などを行う株式会社アミューズが母体となり、株式会社ライブ・ビューイング・ジャパンという会社も設立されている。同社の取締役編成企画部長兼宣伝部長・久保田康氏は、こうした傾向について、「映画館のデジタル化が一因にある」と話す。2005年ごろからジェームズ・キャメロンジョージ・ルーカスら映画界の巨匠たちの呼び掛けにより、3D映画と共に全世界の劇場に広がっていったデジタル化の波。これが、ライブビューイングという新しい映画館の利用方法にも拍車を掛けた。

 コンサートや演劇を生中継し映画館で上映するためには、映画館のデジタル化は技術的に必要不可欠だった。また、一度収録したものを劇場で上映するにしても、スクリーンごとに数十万円を掛け、フィルムを焼き回さなくてはいけないフィルム方式の上映システムでは、コストが掛かりすぎた。それゆえ、映画館のデジタル化が進む以前より映画館でのライブビューイングを行っていた「ゲキ×シネ」のヴィレッヂ、ティ・ジョイ、「シネマ歌舞伎」「METライブビューイング」の松竹は、劇場に機材を持ち込み、ライブビューイングを行っていたことを明かしている。

 久保田氏は「ライブビューイングには、メリットが多い」と言う。映画館がデジタル化され、劇場に機材を持ち込む必要もなくなった今、ライブビューイングは、劇場離れが進んでいた映画館にとって、新たな集客を見込める場となり、また、これまで会場に足を運んだ観客にしかパフォーマンスができなかったアーティストにとって、新たなファンを獲得する場となった。演劇、スポーツ、コンサート、バラエティー……もはやライブビューイング化されていないコンテンツはないといってよいほどの広がりを見せている。久保田氏は、すでにL'Arc-en-CielPerfumeの海外公演を同時中継で日本で上映した例を挙げ、「国内のアーティストに限らず、海外のコンテンツを日本に紹介し、また国内のコンテンツを海外に紹介するメディアとしてさらなる活用ができるのではないか」とその可能性を示唆した。

ライブビューイング『直送ももクロvol.9 平面革命「ももクロ春の一大事2013」西武ドーム大会~星を継ぐもも vol.1 / vol.2 Peach for the Stars~』
4月13日(土)17:00~ ~4.13星を継ぐもも vol.1 Peach for the Stars~
4月14日(日)16:00~ ~4.14星を継ぐもも vol.2 Peach for the Stars~
全国の映画館、及びライブハウスにて開催

DRAGON GATE「春のビッグマッチ 5.5愛知県体育館大会」ライブ・ビューイングpowered by GAORA
5月5日(日)16:00~
全国の映画館にて開催

2012年11月24日に行われたPerfumeアジアツアー最終日の模様を、日本国内の映画館62館で同時生中継した実績!
「Perfume WORLD TOUR 1st」シンガポール公演 ライブビューイング
(C) AMUSE

文・構成:シネマトゥデイ編集部 島村幸恵

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