ファンが観たがるエンタメに徹する
そんな中、スタローンを再び第一線に返り咲かせたのが、自ら監督・脚本・主演を務め、新旧アクションスターが夢の競演を果たした『エクスペンダブルズ』(2010)の大ヒットだった。それは、傭兵(ようへい)部隊“エクスペンダブルズ”(消耗品)の活躍を描いたもので、“かつてのアクションスター”とささやかれ始めていた自身の現状に開き直ったかのように、新旧スターを自ら口説いて総動員。スタローンにしか実現できないオールアクションスター映画を実現させた。これには、16年ぶりの『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006)と20年ぶりの『ランボー 最後の戦場』(2008)という二大シリーズの久々の続編を手掛けたことで、ファンが求めているものを実感したからではないかとも思われる。
以降は、『エクスペンダブルズ』シリーズでさらなる豪華競演を実現させただけでなく、『大脱出』(2013)でアーノルド・シュワルツェネッガーとの本格共演を果たし、『リベンジ・マッチ』(2013)ではロバート・デ・ニーロとボクサー役で共演。年齢によって役柄を変化させていく俳優が多い中、肉体を鍛え抜くことで、若い時と変わらぬ体を張った映画に出演し続けている。一方で、笑いと感動を交えた低予算の群像劇『リーチ・ミー(原題) / Reach Me』(全米公開9月予定)では、多彩なキャスト陣の中心人物の一人として引退したスポーツコーチを演じているらしく、大作以外にも目を向けているようだ。主演映画では相変わらずラジー賞の常連で、今後も批評家受けなどは期待できないかもしれない。だが、ファンが求める作品への出演や不可能と思えるような作品を実現させることでファンのニーズに応える、クリエイターとしての視点やエンターテインメントに徹したその作品づくりが、現在も活躍し続けている理由といえる。 |
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映画『リベンジ・マッチ』より
(C) 2014 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.
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アーノルド・シュワルツェネッガー
66歳(1947年7月30日生まれ)
アクションスターへの回帰
スタローンの永遠のライバルといえば、やはりアーノルド・シュワルツェネッガー。彼もまた全盛期と同様のアクション路線で活躍中だが、現在に至るまでの状況はちょっと違う。『ターミネーター』シリーズのヒットなどでアクションスターとしての地位を確立したのは同じだが、『ツインズ』(1988)などのコメディー路線も成功させた後、政治家に転向したため、『80デイズ』(2004)以降は俳優業をしばらく休んでいた。
スタローンとの親交から『エクスペンダブルズ』と『エクスペンダブルズ2』(2012)には出演していたが、2003年より務めていたカリフォルニア州知事の任期満了(2011)に伴い、2013年の『ラストスタンド』より本格的に俳優業に復帰。同作で演じたのは、第一線を退いて田舎で静かに暮らしている元敏腕刑事の保安官で、劇中では高齢ネタでいじられたり、老体にムチ打ちながら戦う姿を描くなど、年相応の設定を生かしたアクション映画となっていた。役柄の幅を広げ、政治家としてステータスも高めたはずのシュワルツェネッガーが、本格的な復帰作にアクション映画を選んだのは、慣れた路線で俳優としての勘を取り戻すためや、それが最も需要の高い路線であったからだろう。しかしその背景には、州知事として目立った実績を残せず、浮気と隠し子騒動による急激なイメージダウンが大きく関わっている。人気回復には俳優としての成功が必要で、もう失敗できない状況が、実績のあるアクションスターへの回帰を促したのではないか。また、元は世界的なボディービルダーで、州知事時代も健康的な容姿を維持するために体を鍛え続けていたであろうことも、アクションスターとして現役でいられる理由だろう。 |
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2014 Karwai Tang / WireImage / ゲッティ イメージズ |
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今後の新作の動向が路線を左右
ただ、残念なことに『ラストスタンド』『大脱出』が実績を残せず、全米公開されたばかりの新作『サボタージュ(原題) / Sabotage』も苦戦を強いられている。次作のアビゲイル・ブレスリンとの共演作『マギー(原題) / Maggie』はドラマ性の高いホラー映画らしく、ウイルス感染でゾンビ化していく娘を救おうとする父親役を演じており、役の幅を広げようとしているようだ。また、今後撮影予定の『ターミネーター:ジェネシス(原題) / Terminator: Genesis』について、「66歳になってこんなアクションをやるとなると、時々困難なことがあるんだよ、30代や40代の時と比べると」とも語っているが、まだスキャンダルにまみれてしまった自身のキャリア回復を果たしたとはいえない状況のため、ジャンルを問わず俳優としての評価を高められる作品への出演を模索していくことになりそうだ。とにかく復帰後の主演映画での功績が一日でも早く欲しいところで、『コナン・ザ・グレート』(1982)のリブート版や『ツインズ』の続編への出演も噂されている。つまり、休んでなどはいられず、精力的に活動していかざるを得ない状況ともいえる。 |
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映画『大脱出』より
Blu-ray&DVD:7月2日リリース / 発売元:ギャガ / 販売元:ポニーキャニオン
Escape Plan (C)2013, Artwork & Supplementary Materials (C)2014 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
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ロバート・デ・ニーロ
70歳(1943年8月17日生まれ)
徹底した役づくり
スタローンやシュワルツェネッガーが、アクション映画でメガヒットを放つ興行力でスターとしての地位を確立してきたとすると、出演作や芝居に対する評価で演技派スターとしての地位を確立してきたのがロバート・デ・ニーロ。『ゴッドファーザーPART II』(1974)で第47回アカデミー賞助演男優賞を受賞して一躍脚光を浴び、『タクシードライバー』(1976)や『ディア・ハンター』(1978)などの話題作に主演。各映画賞の演技賞候補の常連ともなり、『レイジング・ブル』(1980)では第53回アカデミー賞主演男優賞を獲得。同作でボクサーの現役時代と引退後の衰えた姿を表現するために体重を約20キロ変化させるなど、その徹底した役づくりは“デ・ニーロ・アプローチ”とも称された。
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Ernesto Ruscio / ゲッティ イメージズ |
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変化を恐れない職人
犯罪映画などでシリアスな役を演じることが多かったが、次第にコメディー映画をはじめとしたさまざまなジャンルに出演。悪役や助演も務めて役の幅を広げてきた。そうして、時代や作品に合わせて自らを変化させることで俳優としてのキャリアを更新し、長年活躍を続けてきた。同世代の演技派俳優として比較されることの多いアル・パチーノ(73歳)が、興味の湧かない商業的作品を避けたり、シェイクスピア劇などの舞台出演に積極的だったりで、芸術家的気質の俳優だとすると、デ・ニーロは職人的気質の俳優ともいえるかもしれない。デ・ニーロは最近のインタビューで「人々が自分のことをどう思っているのか気にはなるが、自分がやりたいことはやる。それは、時間がたとうと全く変わらない。今も俳優を楽しみ、コメディーも好きで参加し、いつも違ったことにトライするんだ。時には幸運が訪れ、自分にとって意味のある作品もクリエイトできた」と当たり外れや得手不得手があることも承知で、挑戦してきたことを語っている。
新作『リベンジ・マッチ』で、『レイジング・ブル』の主人公のその後を描いたような役を演じ、老体をさらけ出しながらもリングで激しく戦う姿を見せたかと思えば、来年全米公開予定の『ハンズ・オブ・ストーン(原題) / Hands of Stone』では、中量級最強ともいわれたボクサーのロベルト・デュランを見いだした名トレーナー役を老けメイクで演じ、同じボクシングを扱っても役柄は幅広く、その適応力の高さやチャレンジ精神からもさまざまな新作が控えている。
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映画『リベンジ・マッチ』より
(C) 2014 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.
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マイケル・ダグラス
69歳(1944年9月25日生まれ)
天性のスター
これまで挙げてきたスタローン、シュワルツェネッガー、デ・ニーロは、二枚目スターというわけではないこともあり、これまでの活躍ぶりに男の色気といったものはあまり関与していないかもしれない。しかし、69歳の今でもセクシーな二枚目ぶりを発揮しているのが、マイケル・ダグラスだ。父親は名優カーク・ダグラス、母親も女優のダイアナ・ダグラスというサラブレッドで、2000年に再婚した妻が25歳年下のキャサリン・ゼタ・ジョーンズということから、天性の色気や若々しい感性が自然と身に付いているのかもしれないが、デ・ニーロと共演した新作『ラスト・ベガス』でのモテ男ぶりも、スマートな体形と持ち前のオシャレさで、板についている。
もともとは助監督などを務め、映画制作を学んでいたが、学生時代に演技も勉強していたため俳優に転向し、1972年から放送され第4シーズンまで出演したテレビシリーズ「サンフランシスコ捜査線」で注目される。その後、主演映画『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』(1984)『危険な情事』(1987)の大ヒットや『ウォール街』(1987)での第60回アカデミー賞主演男優賞の獲得、さらには製作を務めた『カッコーの巣の上で』(1975)が第48回アカデミー賞作品賞を受賞するなど、ハリウッドを代表する映画人となっていく。また、『危険な情事』や『氷の微笑』(1992)『ディスクロージャー』(1994)などのヒット作で、女性に翻弄(ほんろう)されるモテ男や女性問題で身を持ち崩す二枚目役などを演じたことからも、セクシーな俳優としてのイメージが定着していった。
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2013 Mike Pont / FilmMagic / ゲッティ イメージズ |
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