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ジェレミー・レナーが今年の顔に!マカオ国際映画祭が新たな船出(中国)

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映画祭のタレント・アンバサダーを務めたジェレミー・レナー(写真最前列中央)が、シンポジウムを開催していたマーケット会場にひょっこり現れて、皆と記念撮影。映画祭の顔として立派に任務を果たしておりました。

【第66回】

 昨年の初回開催直前にディレクターが辞任するという波乱の幕開けとなったマカオ国際映画祭。果たして今後も続けるのか? と不安視されていたが、仕切り直して第2回が2017年12月8日~14日にマカオ文化センターなどで開催された。スタッフやプログラムを一新し、新たな船出をした同映画祭を映画ジャーナリストの中山治美がリポートします。(取材・写真・文:中山治美、写真:マカオ国際映画祭)

マカオ国際映画祭

上映会場を集約

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映画祭を影から支えるメインスタッフ。写真右からアーティスティック・ディレクターのマイク・グッドリッジ、プログラム・コンサルタントのヴィオレッタ・バーヴァ、相原裕美、ジョバンナ・フルヴィ、映画祭マネージメント長のローナ・ティ、プログラム・コンサルタントのフィンヌーラ・ハリガン、アシーム・チャブラ。全員がベニスやトロントなど他の映画祭でもプログラマーやコンサルタントを務めており、まさに各国の映画事情と映画祭を知り尽くした精鋭チームが集まっている。
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今回からアーティスティック・ディレクターに就任したマイク・グッドリッジ。記者出身で、映画雑誌「スクリーン・インターナショナル」で19年間記事を執筆。その間、カンヌ国際映画祭など25以上の国際映画祭で国際映画批評家連盟賞の審査員を務めたことがあるという。

 マカオ国際映画祭は、カジノに次ぐ新たな観光客の呼び水となるようなイベントを! と、マカオ政府観光局とマカオ映画&テレビ製作文化協会が主催し、2016年にスタート。プレジデントに同観光局局長のマリア・エレナ・デ・セナ・フェルナンデスが就任。ディレクターに、ベネチア国際映画祭など名だたる映画祭を担当したマルコ・ミュラーを迎え、その人脈を生かして「アジアのジャンル映画の巨匠12人が選ぶジャンル映画この1本」と題したレトロスペクティブ部門を設けるなど華々しい幕開けが期待された。しかしミュラーが、行政側との方向性の違いなどから開幕1か月前に辞任。その時点で上映プログラムは決定していたため、ミュラーの穴を残されたスタッフがカバーしつつ第1回を乗り切った。

 第2回は新たにアーティスティック・ディレクターとして、映画雑誌「スクリーン・インターナショナル」の記者出身で、英国映画会社「プロタゴニスト・ピクチャーズ」の元CEOのマイク・グッドリッジが着任して舵を切った。まず大きく変貌したのが上映会場で、第1回はマカオ半島と橋を渡ったコタイ地区に分散していた上映会場を、極力メイン会場のマカオ文化センターのあるマカオ半島側に集約したことだ。これは鉄道網がなく、移動手段がバスや車に限定されるマカオでは渋滞に巻き込まれることも多く、とにかく不評だった第1回の反省を踏まえて改善されたものだ。

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2017年8月にマカオを襲った巨大台風「ハト」によって壁面のガラスが割れてしまった、マーケット会場予定地だったマカオ科学館。映画祭開催時もまだ修復中で、被害の大きさを物語っていた。

 思わぬ展開もあった。当初、マーケット会場は昨年に続きマカオ科学館での開催を予定していたが、2017年8月下旬にマカオに甚大な被害をもたらした巨大台風「ハト」によって建物全体を覆っていたガラスが割れて使用できなくなってしまった。非常措置としてマーケットもマカオ文化センターで行われることとなり「結果的に上映会場と同じ場所で行われたことで交流の機会が増えて良かった」(配給会社海外セールス担当)と評判も上々だった。

より新人にフォーカス

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中国の風習にならって、開幕日には映画祭プレジデントのマリア・エレナ・デ・セナ・フェルナンデス(写真中央)らが参加しての成功祈願の儀式が執り行われ、会場を獅子が舞った。

 上映プログラムは第1回に続き、アクションやサスペンスなどジャンル映画をフィーチャーする基本方針は変わらず。加えて明確に打ち出したのは新鋭の発掘・育成と、マカオの映画産業の振興だ。

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コンペティション部門の審査員。写真右から脚本家のローレンス・オズボーン(イギリス)、女優・監督のジョアン・チェン(アメリカ)、監督・脚本・製作のロイストン・タン(シンガポール)、監督・脚本。製作のジェシカ・ハウスナー(オーストリア)、審査委員長のローラン・カンテ監督(フランス)。

 まずコンペティション部門は長編作品1~2本目までの監督が対象。秋の映画祭シーズンからかなり遅れての開催と不利な条件ながら、アカデミー賞外国語映画賞イスラエル代表になったサミュエル・マオズ監督『フォックストロット(原題) / Foxtrot』(今秋日本公開)やトロント国際映画祭のオープニングを飾ったヤヌス・メッツ監督『ボルグ/マッケンロー(原題) / Borg/McEnroe』(スウェーデン)のアジアン・プレミア上映を実現させるというなかなか強力なラインナップとなった。

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コンペティション部門で最優秀作品賞を受賞した『ハンティング・シーズン(原題) / Hunting Season』のナタリア・ガラジオラ監督(写真中央)と出演者・プロデューサーたち。同作はベネチア国際映画祭批評家週間部門で上映され、観客賞を受賞している。

 新設されたのがマカオで製作された作品を紹介するマカオ・スペシャル・プレゼンテーションだ。これまでマカオはロケ地として取り上げられることは多かったが、マカオ発の作品となると国際的にほとんど知られていない。ポルトガル領だったマカオが中華人民共和国に返還されたのが1999年12月20日で、マカオ特別行政区となってからまだ日が浅い。

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「ローカル・ビュー・パワー」に参加した監督たち。賞も設けられ、最優秀アニメーション映画賞を『ビトウィーン・ザ・ライズ(英題) / Between The Lies』、最優秀短編映画賞を『イリーガリスト(英題) / Illegalist』が受賞し、記念のトロフィーが贈られた。

 しかし第1回のコンペティション部門にマカオ出身のトレイシー・チョイ監督『姉妹関係』が選出され、観客賞と最優秀新人女優賞(ジェニファー・ユー)を受賞。続いて上映された第12回大阪アジアン映画祭でも主演のフィッシュ・リウが「来るべき才能賞」を受賞するなど、マカオ映画界に明るい光をもたらした。マカオ文化センターでは2007年より「ローカル・ビュー・パワー」と題したアニメーション・短編・ドキュメンタリーの製作支援プロジェクトを行っており、そうした地道な活動がようやく実を結び始めているのかもしれない。

 今回は2016~2017年に製作されたローカル・ビューの中から14作品を上映。2017年8月の巨大台風「ハト」の爪痕が残るマカオの街を舞台にした『ハトズ・ジャーニー(英題) / HATO’S JOURNEY』(ジェス・ホー監督)もあり、まさにプロジェクトのタイトル通り、どの作品もマカオならではの視点が興味深かった。

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アップ・ネクスト・アワードを受賞した(写真右から)忽那汐里、セリーナ・ジェイド、ルディ・リン、チュティモン・ジュンジャルーンスックイン、アン・ソヒョン、ラージクマール・ラーオ、ピオラ・パスカル。※台湾のエディ・ポンは欠席。

 さらに米Varietyによる、期待するアジアの次世代スター8人を選出した「アップ・ネクスト・アワード」をクロージング・セレモニーで発表したのが本映画祭の目的を象徴している。日本から選ばれた忽那汐里を筆頭にいずれも国際的な活躍が期待される逸材ばかり。今後の、映画祭の目玉の一つとなりそうだ。

新名所で『羅生門』

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黒澤明監督『羅生門』の上映前に解説を行ったマルティン・コールホーヴェン監督。劇場のカラフルな座席が愛らしい。
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製作30年を記念してベルナルド・ベルトルッチ監督『ラストエンペラー』(1987)が特別上映された。会場には出演者のジョアン・チェンが駆けつけ、懐かしそうにスクリーンに見入っていた。

 新たな上映会場が加わった。マカオのシンボルである聖ポール天主堂跡近くにあり、2017年3月31日にオープンしたシネマテーク・パッションだ。元学校をリノベーションしており、映画館は客席数60席の超ミニシアターだが、カラフルな座席も愛らしく、映画鑑賞の気分をさらに盛り上げてくれること間違いなし。映画関連書籍が並ぶ資料室やフィルムライブラリーもあり、シネフィルたちにはたまらない空間だ。

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シネマテーク・パッションの入り口には、ガラス張りの足元の下に、リノベーションしたことがわかるよう昔の排水管をそのまま展示。劇場から一歩外に足を踏み出した瞬間、洞穴に落ちるような感覚が味わえるちょっとした遊び心が楽しい。

 今回は特別上映作品や各国の映画祭の話題作を集めた「ベスト・オブ・フェスト・パノラマ」部門と、西洋の監督は東洋の、東洋の監督は西洋のオススメのジャンル映画を上映する「クロスファイア」部門などの会場となった。セレクションから漏れ出てしまう監督たちの趣向を推測するのが楽しいクロスファイア部門の上映作品は次の通り。

シェカール・カプール監督セレクト
スタンリー・キューブリック監督『2001年宇宙の旅』(1968)

ペンエーグ・ラッタナルアーン監督セレクト
ロバート・ハーメル監督『カインド・ハート』(1949)

アイヴァン・セン監督セレクト
イー・トンシン監督『ワンナイト・イン・モンコック』(2004)

マルティン・コールホーヴェン監督セレクト
黒澤明監督『羅生門』(1950)

イム・サンス監督セレクト
ジョナサン・デミ監督『羊たちの沈黙』(1990)

ギレルモ・デル・トロ監督セレクト
ジョニー・トー、ワイ・カーファイ監督『MAD探偵 7人の容疑者』(2007)

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シネマテーク・パッションの映画資料室には小津安二郎監督と黒澤明監督の本が、『生きる』の志村喬のスチール写真と共に展示されていた。

 『羅生門』の上映は夜11時30分からと深夜だったのにも関わらず若い観客が詰め掛けた。上映前にはセレクターである『ブリムストーン』(全国順次公開中)のマルティン・コールホーヴェン監督が自らマイクを握り、同作を初めて鑑賞するという若者たちのために「ベネチア国際映画祭でグランプリを受賞し、クロサワが初めて世界的な評価を得た作品です。ただしこの時クロサワはベネチアに行ってなかったんですけどね」などの小ネタを交えて解説した。これも映画祭ならではの贅沢な時間だ。

日本を舞台にした映画に賞!

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(左)ベスト・オブ・フェスト・パノラマ部門で『おじいちゃん、死んじゃったって。』が上映された主演女優の岸井ゆきのと森ガキ侑大監督。(右)同部門で上映された『オー・ルーシー!』のため、出演者を代表して忽那汐里が舞台挨拶を行った。
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プロジェクト・マーケット賞を受賞した(写真右から)『ザ・ラスト・サベージ(英題) / The Last Savage』(アメリカ・フランス・インドネシア)のリアム・オドネル監督とプロデューサーのマシュー・ショーズ、『ミハラ(原題) / MIHARA』(アメリカ・日本)のプロデューサーのピエール・ハリソンとジャクリーン・キャステル監督、『ザ・ガール・ウィズ・ノー・ヘッド(英題) / The Girl with no Head』(マレーシア)の監督・プロデューサーのリュウ・センタットとピート・テオ。3組には賞金1万米ドル(約110万円・1ドル110円計算)が贈られた。

 今年上映された日本作品は黒澤明監督『羅生門』のほか、「ベスト・オブ・フェスト・パノラマ」部門で森ガキ侑大監督『おじいちゃん、死んじゃったって。』(公開中)と平柳敦子監督『オー・ルーシー!』(ゴールデンウィーク公開)、フード・スペシャル・プレゼンテーション部門で滝田洋二郎監督『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』(2017)の4本。コンペティション部門に日本作品が入っていないのが寂しいが、なんと『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』が映画祭上映作の中で真っ先にチケットが売り切れたという。同作は海外初上映だったこともあり、アジア各国の二宮和也ファンが待ち望んでいたようだ。

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若手の映像作家を対象としたマスタークラスも開催され『恋の紫煙』などで知られるパン・ホーチョン監督などが講師を務めた。

 だが一方で、出資者を募るプロジェクト・マーケットの受賞作3本のうち2本が、日本を舞台にした作品という朗報もあった。ジャクリーン・キャステル監督『ミハラ(原題) / MIHARA』(アメリカ・日本)はサイコ・ホラー、リュウ・センタットピート・テオ監督『ザ・ガール・ウィズ・ノー・ヘッド(英題) / The Girl with no Head』(マレーシア)はコメディ・スリラーだ。こんなところからも海外の日本ブームの影響がみてとれるのだ。

カジノから文化の街へ

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趣ある夜のタイパ村の街並み。
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毎回、一人の女優をフィーチャーする「アクトレス・イン・フォーカス」部門。第1回は台湾のグイ・ルンメイで、第2回はミシェル・ヨー。トークイベントを行った。

 日本からマカオへは、成田・関空・福岡からマカオ航空の直行便が運行されており、飛行時間は約4時間~4時間30分。香港からフェリーで入るのも可能だ。市内の移動はバス・タクシーが基本だが、映画祭期間中は会場とホテル間を周遊するシャトルバスが運行される。

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ある日の映画祭のお弁当。豚肉と厚揚げの炒め物。

 マカオといえばカジノと、歴史地区には聖ポール天主堂跡をはじめとする30にも及ぶ世界遺産が点在していることで知られるが、そこに昨年、新たな名物が加わった。歴史的な背景からポルトガル料理や中国料理などが程よく融合して独自の味を育んだマカオ料理がユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の「創造都市ネットワーク」に食文化分野で認定されたのだ。そこで映画祭ガイドブックにも、メイン会場・マカオ文化センター周辺のオススメ・レストランがずらりと掲載。筆者も絶景が拝めるレストラン「Sky21」の姉妹店で、中国・天潮料理の名店「天潮」でシーフード料理を。タイパ村ではポルトガル料理に舌鼓を打った。

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プレスセンターに用意されているコーヒーやソフトドリンク。ランチとディナーの時間にはお弁当も並ぶ。

 また映画祭のプレスセンターには常時、コーヒー・紅茶などのソフトドリンクと共に昼と夜は弁当(必ず2種類あり、毎回メニューも変更)、午後はケーキやクッキーが用意されていた。マカオ文化センター周辺にはコンビニもないため、上映合間の時間がない時にはなんとありがたかったことか。こんな気配りにも、マカオの人たちの食へのこだわりを感じたのだった。

新たな劇場建設計画も

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メイン会場のマカオ文化センター
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映画祭参加者に配布された映画祭グッズの数々。マカオのお土産としてローズ・ティーも入っていた。

 若手支援という方向性を見出したことで、力強く歩み始めたマカオ国際映画祭。観客動員も、昨年と比較して明らかに増加しており、特に若い観客が多かったことに本映画祭の未来を感じることができた。

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上映会場はどこも若い観客で賑わっていた。

 もちろん課題もある。プレススタッフは中国メディアとインターナショナルと別れて担当しているのだが、両者の連携が取れていないのか対応が異なるため、しばしば現場に混乱をもたらしていた。上映プログラムもマーケットが行われている時は充実しているのだが、他の日はスケジュールに余裕があり過ぎて観光するしかないという時もあった。

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記者たちはクロージング・セレモニーを記者会見場に設置されたモニターで視聴していたのだが、その間にも続々と受賞者がやってきて記者会見を行うというカオスな状態に。その間、セレモニーの音声はミュートにされてしまうため、受賞者の感動のスピーチが全く聞き取れなかった。

 だが今後、マカオ文化センターの隣に新たなシネコンを建設する計画もあるという。もともとカジノマネーという豊富な財源があり、そして今回、運営スタッフに国際映画祭での経験豊富な各国のエキスパートを揃えた。これで上映環境も整えば、近い将来、周囲の映画祭をも脅かす存在になるかもしれない。

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