2022年 第72回ベルリン国際映画祭コンペティション部門18作品紹介(2/2)
第72回ベルリン国際映画祭
『アエイオウ - ア・クイック・アルファベット・オブ・ラブ(英題) / AEIOU - A Quick Alphabet of Love』
製作国:ドイツ/フランス
監督:ニコレッテ・クレビッツ
【ストーリー】
若い男性にバッグをひったくられた女優のアンナは、数日後、その犯人のエイドリアンと話し方を教える教師と生徒として再会する。エイドリアンは孤児で、アンナは女優の仕事がうまくいっていなかった。アンナのアパートで授業を行ううち、2人は次第に距離を縮めていく。
【ここに注目】
監督は『バンディッツ』(1997)、『トンネル』(2001)などに出演するドイツの女優で、モデルや歌手としてのキャリアを持つニコレッテ・クレビッツ。2000年ごろから映画監督としての活動を開始し、2016年に手掛けた『ワイルド わたしの中の獣』はサンダンス映画祭などで上映され、日本でも劇場公開された。主演をドイツのアカデミー賞にあたるドイツ映画賞の最優秀主演女優賞を『3/スリー』(2010)で受賞したゾフィ・ロイスが務め、ウド・キアやミラン・ハームスなどが共演する。
『コール・ジェーン(原題) / Call Jane』
製作国:アメリカ
監督:フィリス・ナジー
【ストーリー】
1960年代のアメリカ。典型的な専業主婦であるジョイは、2人目の子供を妊娠するが妊娠によって母体が危険にさらされるリスクが高いことを知り、病院に中絶を相談するが手術を拒否される。そんな中、中絶の権利を主張し、安全な中絶を求める女性たちのグループ「ジェーンズ」にたどり着く。
【ここに注目】
『キャロル』(2015)の脚本家フィリス・ナジーがメガホンを取り、1960年代のアメリカを舞台に描く社会派ドラマ。『ダラス・バイヤーズクラブ』(2013)などの作品に携わってきたプロデューサー、ロビー・ブレナーによる、実話に基づいた自己発見や女性の権利のための永遠の闘いの物語が心に響く。『ハンガー・ゲーム』シリーズのエリザベス・バンクス、『エイリアン』シリーズのシガーニー・ウィーヴァー、ドラマシリーズ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」のケイト・マーラ、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(2020)のクリス・メッシーナら豪華キャストが集結。中絶というデリケートな問題を扱った、女性の権利についての野心的な物語は、現代にも十分通用する。
『ザ・ライン(英題) / The Line』
製作国:スイス/フランス/ベルギー
監督:ウルスラ・メイエ
【ストーリー】
母親を殴ったことから、3か月の接近禁止令を出された35歳のマーガレット。家から200メートル離れたところで暮らすことになった彼女だが、家族のそばにいたいといういら立ちは、日に日に高まっていく。
【ここに注目】
レア・セドゥ主演『シモンの空』(2012)で知られるウルスラ・メイエ監督。新作は主人公のマーガレットをステファニー・ブランシュードが演じ、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2020)のダリ・ベンサーラ、『歓びのトスカーナ』(2016)のヴァレリア・ブルーニ・テデスキが共演した。脚本はメイエ監督のほか、主演のブランシュード、『シモンの空』(2012)のアントワーヌ・ジャクーが共同で執筆している。セザール賞受賞のベテラン撮影監督アニエス・ゴダールの映像にも注目。
『レオノーラ・アディオ(原題) / Leonora addio』
製作国:イタリア
監督:パオロ・タヴィアーニ
【ストーリー】
1934年にノーベル文学賞を受賞したイタリアの文豪ルイジ・ピランデッロ。彼の遺灰が入った骨壺が、ローマからアグリジェントまで移動するなかでさまざまな出来事に遭遇しながらも、死後15年を経て思わぬ形でようやく埋葬される。
【ここに注目】
『塀の中のジュリアス・シーザー』(2012)で第62回本映画祭金熊賞を受賞したイタリアの巨匠パオロ・タヴィアーニ。新作のタイトルは、オペラ「イル・トロヴァトーレ」で描かれるロマンスに由来する。全編シチリアで撮影された本作には、ファブリツィオ・フェラカーネ、ナタリー・ラプティ・ゴメスらが出演。物語の最後は、ピランデッロが他界する20日前に出来上がったという遺作「Il chiodo(原題)」で締めくくられる。
『ザ・パッセンジャーズ・オブ・ザ・ナイト(英題) / The Passengers of the Night』
製作国:フランス
監督:ミカエル・アース
【ストーリー】
1980年代のパリ。夫と別れて2人の10代の子供を育てることになったエリザベスは、夜のラジオ番組の職を得て、そこでタルラと出会う。タルラは何もしていない無気力な若者だった。4人はお互いを知り、自分たちの道を切り開き、人生を再スタートさせようとする。
【ここに注目】
『アンチクライスト』(2009)などのシャルロット・ゲンズブールと『8人の女たち』などのエマニュエル・ベアールという、フランスを代表する2人の女優が出演するドラマ。監督は前作『アマンダと僕』(2018)が第75回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門のマジック・ランタン賞を受賞し、第31回東京国際映画祭で東京グランプリと最優秀脚本賞を受賞したミカエル・アース。ほかに『スラローム 少女の凍てつく心』(2020)のノエ・アビタなどが共演する。
『ピーター・フォン・カント(原題) / Peter von Kant』
製作国:フランス
監督:フランソワ・オゾン
【ストーリー】
有名映画監督のペーター・フォン・カントはアシスタントのカールと暮らしていた。ある日、ペーターは大女優のジドニーにハンサムな青年アミールを紹介され、恋に落ちる。ペーターはアミールと暮らし始め、彼をスターにするが、名声を得た途端、アミールに捨てられてしまう。
【ここに注目】
フランソワ・オゾン監督が『焼け石に水』(2000)以来、ドイツの鬼才監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの名作『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』(1972)の舞台を現代に移し、主人公の性別も女性から男性へと変更して映画化した作品。主演はオゾン監督が第69回本映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)を獲得した『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(2019)に出演しているドゥニ・メノーシェ。『王妃マルゴ』(1994)などのイザベル・アジャーニやファスビンダー監督作品の常連女優だったハンナ・シグラら華やかな女優たちが脇を固める。
『リミニ(原題) / Rimini』
製作国:オーストリア/フランス/ドイツ
監督:ウルリヒ・ザイドル
【ストーリー】
かつては有名だったポップスターのリッチー・ブラボー。酔いつぶれたりギャンブルに興じる派手な生活が止められないリッチーの前にある日、すっかり大人になった娘が突然現れて金を要求し、彼の日常は一変する。
【ここに注目】
オーストリアの鬼才ウルリヒ・ザイドルの新作は、2007年の映画『インポート、エクスポート』で組んだミヒャエル・トーマスが主演。バスツアー客の前で歌ったり、女性ファンをおだてて生活費を工面している転落したスターを、トーマスが演じている。女性向けセックス観光や、過剰な信仰心、小児性愛など、スキャンダラスな題材の『パラダイス』3部作(2012)で物議を醸したザイドルの久しぶりの劇映画であり、異色の家族ドラマになりそうな予感。
『ワン・イヤー、ワン・ナイト(英題) / One Year,One Night』
製作国:スペイン/フランス
監督:イサキ・ラクエスタ
【ストーリー】
2015年11月13日、パリ。スペイン人のラモンとセリーヌのカップルは友人2人とバタクラン劇場へコンサートに行くが、そこでテロが発生。4人は互いを見失いながらも生き残る。1年後、ラモンとセリーヌは愛し合う一方で、あの夜の出来事とそれぞれの経験が2人の関係を悪化させる。
【ここに注目】
パリ同時多発テロ事件の体験に着想を得て書かれた小説「ピース、ラブ・アンド・デスメタル(英題) / Peace, Love and Death Metal」を映画化したドラマ。スペイン出身のイサキ・ラクエスタ監督は河瀬直美監督との往復映像書簡を共同で映画化した『イン・ビトゥイーン・デーズ(仮題)』(2011)や、第66回サン・セバスチャン国際映画祭の最高賞を受賞した『二筋の川』(2018)などを手掛けている。本作では主人公カップルを『BPM ビート・パー・ミニット』(2017)のナウエル・ペレス・ビスカヤールと『燃ゆる女の肖像』(2019)のノエミ・メルランが演じている。
『ザッツ・カインド・オブ・サマー(英題) / That Kind of Summer』
製作国:カナダ
監督:ドゥニ・コーテ
【ストーリー】
性的な問題を解決するために、療養所に招かれた3人の女性たちは、自らの中に潜む悪魔を飼い慣らそうとする。ドイツ人セラピストと思いやりのあるソーシャルワーカーによる監督の下、まだ若いゲイシャ、陰気なレオニー、予測不能なウジェニーの3人は、外界の騒音から逃れて自らを見つめ直す。
【ここに注目】
『ヴィクとフロ 熊に会う』(2013)、『ゴーストタウン・アンソロジー』(2019)などで知られる、カナダのドゥニ・コーテが監督を手掛ける人間ドラマ。それぞれ異なる背景を持つ3人の女性たちが、自身の性的嗜好と向き合う姿を映し出す。『ゴーストタウン・アンソロジー』でも監督と組んだラリッサ・コリヴォー、『あなたはまだ帰ってこない』(2017)などのローラ・ジャッピコーニらが共演。『ゴーストタウン・アンソロジー』が、第69回の本映画祭でコンペティション部門に選出された実力派監督が、最優秀作品賞の金熊賞を狙う。
『リターン・トゥー・ダスト(英題) / Return to Dust』
製作国:中国
監督:リー・ルイジン
【ストーリー】
謙虚なマーと、内気なカオは家族に拒絶され、親同士によって勝手に結婚を決められてしまう。どうにか生きていくためにも、二人で協力して雨露をしのげる家を建てなくてはならず、さまざまな困難を、手を取り合って乗り越えるうちに、彼らの間に真実の愛が芽生えていく。
【ここに注目】
『僕たちの家に帰ろう』(2014)などのリー・ルイジンが監督を務めるラブストーリー。中国北西部の農村を舞台に、孤独な男女二人が、厳しい大自然の中で次第に心を通わせていく過程を描く。急激な変化を遂げる中国で、変容する家族の在り方や、生と死に関する考え方の変化、生まれ育った土地との絆などに焦点を合わせ、現代中国のリアルな今を切り取っていく。第65回の本映画祭ジェネレーション部門に招待された、中国インディペンデント映画の期待の星である監督に熱い視線が注がれる。