見えない危機描く2020年ドキュメンタリーシリーズ6選<後編>「テレビが見たLGBTQ」他

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 今年配信された秀作ドキュメンタリーシリーズの中から6作品をピックアップして前後編で紹介する本企画。今回はApple TV+の「テレビが見たLGBTQ」、Netflix「チアの女王」「汚れた真実」をご紹介します。

前編はコチラ>

マイノリティが見える存在になるまで「テレビが見たLGBTQ」

テレビが見たLGBTQ
「テレビが見たLGBTQ」よりニール・パトリック・ハリス

 近年、アメリカの映像表現におけるLGBTQは以前とは比べものにならないほどに一般的になっています。ライアン・マーフィーが台本のあるテレビ史上最多のLGBTキャスト(スタッフにも多い)を起用した「POSE」(2018~)を筆頭に、トークショー、リアリティーショーにも多く登場し、また現代の映画やテレビの秀作にはLGBTQ+の視点は欠かせません。一方で、ビジネスに利用されていると感じられるケースもあり、日本でも“LGBTブーム”といった微妙なニュアンスを含む言葉が聞かれることも。どのような表現の何がどうダメなのか。そんふうに迷う気持ちが生じることも日常的に増えているかもしれません。あるいは自分は“わかっている”つもりでいる人こそ観ておきたいのが「テレビが見たLGBTQ(原題はVisible: Out on Television)」(2020)です。

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テレビが見たLGBTQ
脚本家、女優、プロデューサーとマルチな才能を発揮するリナ・ウェイス

 アメリカのテレビおいて、1960年代までは“見えない存在”だったLGBTQ。1969年のストーンウォールの反乱(編集部注:ニューヨークのゲイバーで、同性愛者たちが警察による弾圧に抵抗した事件)をテレビが報道しなかったことで機運は高まり、どのようにしてLGBTQが「目に見える存在」としてテレビに登場するようになり(レプリゼンテーション)、一般に広く認識されるようになっていったのか。第1話の「暗黒の時代」から年代ごとに区切り、「マスター・オブ・ゼロ」(2015~)のリナ・ウェイスニール・パトリック・ハリスほか多数のテレビ関係者たちのインタビューを挟みながら、市民権を獲得していった苦難の道のりをたどります。監督はHBO映画『ジェンダー・マリアージュ ~全米を揺るがした同性婚裁判~』(2014)や、Netflixのドキュメンタリーシリーズ「キーパーズ」(2017)などで知られるライアン・ホワイト

ビリー・クリスタルの告白

テレビが見たLGBTQ
「テレビが見たLGBTQ」キービジュアル

 「暗黒の時代」ではマッカーシズムのもとホモセクシュアル=共産主義と糾弾される様子や、同性愛者を精神疾患や社会悪として語るテレビの“識者”など、おそらく今の若い世代には信じられないような映像が次々と映し出されます。そこから生放送のニュースに乱入して同性愛者の存在を訴えるといった、かなり強引な形で全国放送に自分たちの声を乗せようと行動する活動家が現れ、人気ドラマにもゲイのキャラクターが登場するようになっていく。例えば1970年代の人気ファミリーコメディー「SOAP ソープ」では、ビリー・クリスタルがゲイの次男を演じて注目を集めました。画期的ではあったものの、今から見ると不適切かつ理解のない描写が多く、クリスタル自身がそのことを振り返り、誤った印象を世間に広め、結果として多くの当事者を苦しめ不本意でもあった複雑な胸の内を語ります。中には、現在好感度の高い人気者が、昔はこんなひどい発言していたのか、といった映像も。しかしそうした彼らの言動が「おかしい」と思える時代になったこと、その変化を実感することにこそ本作の意義があるでしょう。

 一方で、ローラ・リニーオプラ・ウィンフリーローラ・ダーンほか、常にLGBTQに寄り添ってきた多くの人々の存在に心打たれます。そしてテレビで「自分と同じだ!」と思えるキャラクターや当事者が登場することが、テレビを視聴しているクイアな人々に、どれほどの勇気を与えるものなのか。レプリゼンテーションの重要性と、良くも悪くもテレビが持つ影響力の大きさを重く受け止めなければならないことを再認識させられます。

エレン・デジェネレスの勇気ある決断

 現在に近づくほど「ウィル&グレイス」や「glee/グリー」「モダン・ファミリー」などの人気作が多数登場するのですが、そこに至るまでの“2歩進むと1歩後退”しながら進んできた過程をたどることで、よく知る作品にも違った重さが生じます。特に米コメディアン、女優のエレン・デジェネレスがカミングアウトする時の顛末と、そのことによって仕事を奪われ抹殺されたこと。ブランクの後、驚くほどのタフネスを発揮して自らトーク番組「エレンの部屋」の仕事を勝ち取っていくくだりは、涙なくしては見られません。エレンの勇気ある行動が、テレビ業界だけでなく社会全体にどれほどの意識改革をもたらしたのか。今のエレンの活躍ぶりを思えば時代は確実に前進しているのだなと実感しますが、最終話で映し出される実際に起きたヘイトクライムの映像に、まだまだ課題は多く、闘いは続いていることを思い知らされます。

 先にも述べた通り、テレビ黄金時代と言われるアメリカの映像エンターテインメントにおいて、LGBTQを含むあらゆるマイノリティの視点は欠かせません。テキサス州の田舎町コーシカナのナバロ短期大学にある、全米屈指のチームチアリーディング部を追った「チアの女王」(2020)は、そうした視点がよく効いています。

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まるでアメリカの縮図!「チアの女王」

チアの女王
「チアの女王」より

 「全米大学チア大会」での優勝を目指して敏腕コーチ・モニカのもと、日々厳しい訓練に臨む生徒たち。全6話で大会当日までにカメラは密着します。そう聞くと、いろいろとトラブルがあったりチーム内で不和がありながらも力を合わせて頑張るスポ根ものを想像しますが、そのハードさにまず圧倒されること必至。チアリーディングが危険で過酷だという認識はありつつ、ここまでやるのか! という驚きと、全員がスタメンに選ばれるわけではない中で、挫折をどう受け止めて、どう気持ちを切り替えていくのかには個人差があります。現在緊急事態宣言下にあるからこそ、傷つき悩みながらも前を向き、ポジティブな精神を発揮していく若者たちが頑張る姿には励まされるものがあります。

問題を抱える多種多様な生徒たちが一つに

チアの女王
敏腕コーチ、モニカ・アルダマのもとハードなトレーニングを積む生徒たち

 一方で、生徒たちはそれぞれに問題を抱えています。育児ネグレクトや地元では不良だったり、LGBTQ、貧困などなど、人種もバックグラウンドも性格も多種多様。それはまるでアメリカの縮図のようでもあります。そんな生徒たちがぶつかり合いながらも、互いを理解し、異なる他者を受け入れ、個性を尊重し、危険を伴うスタンツを行う際には仲間に命を預けて、良き指導者のもと一つの目標に向かう。これこそが現代に求められている、あるべき社会の姿であると言えるのではないでしょうか。

 チアリーディングを目指す子供たちにとっては絶対的なスターであるナバロ短期大学の部員たちですが、チアにプロの世界はないそうなので、卒業すれば基本的には別の道を進むことになります。この経験を人生の糧にできる人もいれば目標を見失ってしまう人も。幕切れには苦さもありつつ、わずか2分数十秒のパフォーマンスにすべてを懸けて挑む生徒たちに、今目の前にあることに全力を尽くすことの意味を、今一度自らに問い直してみたくなるでしょう。

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ドキュメンタリーのお手本のような「汚れた真実」

汚れた真実
「汚れた真実」シーズン2よりトランプ大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー

 前編で紹介したNetflix「ザ・ファーマシスト:オピオイド危機の真相に迫る」のパートでも少し触れましたが、ラストはこれぞドキュメンタリーのお手本のような「汚れた真実」(2018~)です。ドキュメンタリー映画『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』(2005)や Amazon Prime Video のシリーズ「倒壊する巨塔-アルカイダと「9.11」への道」(2018)などで知られるオスカー受賞者のアレックス・ギブニー(監督、プロデューサー)が、自身の製作会社 Jigsaw Productions を率いて製作した企業犯罪を扱った秀作シリーズ。1話で一つのテーマを扱っているのですが、60分程度の中で手際良く情報を整理し、速やかに核心をついていくこなれ感は、ドキュメンタリーのジャンルにおけるエキスパート集団のなせる技でしょう。

知らないことで犠牲になる人々に啓蒙を促す

 シーズン1は全6話、今年3月に配信されたシーズン2も全6話。いずれも共通しているのは富を独占しようとする企業や組織などの不正やからくりを暴くことによって、身近にあるそうした事実を“知らない”ことにより不利益を被る、時には人生を破滅させられる人々に対して、ある種の啓蒙を促しているという点です。ローン、排ガス、製薬会社、銀行、後見人ビジネス、環境破壊からメープルシロップまで。資本主義社会における利益ファーストの最大の犠牲者となるのは罪のない人々であり、視聴者は自分たちもまた無縁ではないことを痛感させられます。

トランプの悪名高き顧問JKの不正を告発

汚れた真実
「汚れた真実」シーズン2第3話「ブラック大家」

 どれから見ても良いのですが、シーズン2第3話「ブラック大家」は65分と長めの入魂の一作。シーズン1第6話「ペテン師」では凄腕実業家のイメージを巧妙に作り上げたドナルド・トランプの虚構を暴いていますが、その娘婿で米大統領上級顧問のジャレッド・クシュナーの非道かつ不正な不動産ビジネスの実態をつまびらかにしたのが「ブラック大家」です。このエピソードでは、理不尽な目にあい困っている人たちの声に耳を傾け、調査報道の役割を果たしながら社会を動かし、全体から見れば小さな勝利ではあっても不正を正して被害者の人生を救います。番組はクシュナーの会社組織そのものに踏み込むところまではいきませんが、価値のある告発であり報道でしょう。悪名高いJKことクシュナーの頭の中にあるのは常に自分の得になるか否かであり、会社の利益追求にしか興味がないということが映像から強く伝わってきてぞっとします。米大統領選がある今年、このエピソードを公開したギブニーたちの心意気を強く感じます。

「テレビが見たLGBTQ」はApple TV+で配信中 Netflixオリジナルシリーズ「チアの女王」独占配信中 Netflixオリジナルシリーズ「汚れた真実」シーズン1~2独占配信中

今祥枝(いま・さちえ)ライター/編集者。「小説すばる」「yom yom」「日経エンタテインメント!」「BAILA」などで連載中。本サイトでは間違いなしの神配信映画を担当。Twitter @SachieIma

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