9人の翻訳家　囚われたベストセラー (2019)：映画短評

　世界的ベストセラー小説シリーズの完結編を翻訳するため、外界から完全に隔離された地下室へ集められた9人の翻訳家たち。徹底した管理下で情報漏洩は不可能なはずだったが、しかしなぜかハッカーによって原稿の一部がリークされ、閉ざされた空間の中で犯人探しが始まる。二転三転するストーリー展開はなかなか良く出来ており、出版界に蔓延する露骨な商業主義に対する皮肉も効いている。ランベール・ウィルソンやオルガ・キュリレンコなど、ヨーロッパ各国の名優たちを揃えたキャスティングもアガサ・クリスティ映画っぽくて楽しい。そういう意味では、『ナイブズ・アウト』と併せての鑑賞をおススメしたい。

『タイピスト!』の監督、待望の新作の主人公はキーボードを打ちまくる翻訳家。しかも、ワンシチュエーションものとして卑怯すぎるほど、面白い設定で、『ゲームの規則』に『レベッカ』、「失われた時を求めて」など、オマージュもたっぷり。だが、ヴィジュアルの弱さだけでなく、前半は意外と単調な演出が続くなど、前作とはちょっと異なり、ミステリーとしても詰めの甘さが目立つ。最初のネタバレからは一転、加速し、二転三転、心に染みるエンディングまで一気に引っ張るなど、別ジャンルとして観ると、なかなかな仕上がりに。『イミテーション・ゲーム』に続き、アレックス・ロウザーの変人天才っぷりも拝め、★おまけ。

機密保持のために翻訳家を隔離する設定だし、死者も出るので心理サスペンスを軸とする密室ミステリーと思い込んでいたら、中盤から様子が一転。解かれるべき謎が追加され、ベストセラー本をめぐる人々の関係性や出版社社長の過去が大きな鍵となる仕掛けが待っている。先の読めない脚本は満足感が高く、この脚本家チームなら完全犯罪も不可能じゃないかもと思わせる。謎めいた青年アレックス役のＡ・ロウザーはじめ、怪しいご面相のリカルド・スカルマルチョや何を考えているのかわからないM・マヴロマタスキらクセ者揃いな国際的キャスティングもバランスがよく、物語に深みを与えている。

新感覚のクローズドサークル、館ものミステリー映画。
ミステリー小説というモノ自体が大きなカギになっていて、しかも映画・映像ならではの仕掛けも盛りだくさん。ハラハラドキドキもあり、おお！という驚き、う～～んという唸りもあって、最後までじっくりと楽しめます。『ナイブズ・アウト』と共に極上のミステリー映画が堪能できます。
情報流出やSNSなど現代的な要素もバランスよく散りばめられていて、最後まで飽きさせません。

　まるで本格派のミステリー小説を読んでいるような気分に浸れる。しかも、翻訳がモチーフなので、翻訳小説好きにはたまらない。謎解きは正攻法で手掛かりが提示されるので、思わず謎解きに夢中になってしまう。
　加えて、映画ならではの楽しみもある。まず、話法には映像的な仕掛けあり。それに何より、全員クセ者揃いの各国の翻訳者たち９人を、それぞれの国出身の人気俳優たちが演じているのが楽しいところ。ロシア語翻訳者はウクライナ出身のオルガ・キュレリンコ、イタリア語翻訳者は「ダリダ～あまい囁き～」のイタリア俳優リッカルド・スカマルチョと、世界中から俳優が結集。各国の俳優たちの個性のぶつかり合いも見もの。