ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー (2023)：映画短評

安心＆信頼のイルミネーション・クオリティに任天堂がガチで加わり、かなり気の利いた設計。マリオカートのカーアクションやドンキーコングとの対決など、抜かりなくゲームの世界像を映画に落とし込んでいる。

文句なし！ と通常なるはずなのに、米批評家陣からの冷たい反応はお話の保守性が原因か。いわゆる「紅一点」系の恋愛争奪戦が展開するが、ピーチ姫やクッパのキャラにも微調整があり乗れないほどではない。マリオ＆ルイージ兄弟の絆には「カインとアベル」を参照し、エディプス・コンプレックスも挿入。選曲も相変わらず良い加減で、ハリウッドのファミリー向けアニメだったら、イルミネーションが今いちばん巧くやってるなと思う。

マリオとルイージがブルックリンの街並みを横スクロールで移動する冒頭から、作り手の“ニンテンドー愛＆リスペクト”を感じるが、その後も「ドンキーコング」から「マリオカート」「スマブラ」まで、一度でもプレイ経験があれば、アガリっぱなしの93分！　王道な展開だが、あえて2Dアクションを活かしたバトルに、アレンジされた懐かしの名曲、着信音などの小ネタまで、かなり作り込まれており、近年のディズニープリンセスよろしく、「マリオ助けて―！」と叫ばないピーチ姫のキャラも頷ける。また、イルミネーション・スタジオ制作だけに『ペット』の世界観にマリオが飛び込んだような前半のお仕事パートには思わずニヤリ。

子供の頃からマリオのゲームの大ファンだというフィルムメーカーらは、ゲームをした時と同じ気持ちになれる映画を作りたかったと語っている。その結果出来たのは、カラフルで、わくわくさせて、スピード感がある映画。マリオらが住む世界はチャーミングだし、結末も、予想がつくとは言え感動させる。キャラクターも魅力的。救われるのを待っているのではなく、リーダーとして勇敢な行動に出るプリンセスはモダン。クッパもまた意外な側面を見せてくれる。アメリカの批評家の一部からは「話が薄い」と批判されたが、これにもっと複雑なものが必要？ゲームのファンでなくても素直に「楽しかった」と思えるかわいい娯楽作。

NYブリックリンで配管仕事に向かうマリオとルイージをやや引きの映像で横移動でとらえる。冒頭すぐのそんなシーンで、ゲーム画面の空気感が再現され、テンション上がる。
マリオの冒険にはゲームをクリアする試練が課せられ、おなじみキャラに、土管、花、カートといったアイテムが作品内で機能。さらに全編、目もくらむカラフル＆ピカピカの色彩…と、長年のファンから現在の子供たちまで幅広い世代へアピールする“エンタメ”のサービス精神は万全。感動や興奮のライト感もゲーム映画化として適度かと。
そもそもイタリア系から名前が取られたマリオたち。NYイタリア系社会で展開する現実パートのドラマがしっくり来ると映画版は証明。

　原作ゲームのファンが見たいものは何か。それを見極めたことが、この映画の真価。これがゲームファンの見たいものだったことは、全米での大ヒットが証明している。ゲーム画面では、抽象化＆デザイン化して描かれている現象を、それが３D世界で起きた出来事だったらこうなる、という発想で映像化。さらに、マリオたちの空間移動は立体的な演出、スピードは超高速と、大画面ならではの魅力をしっかり実現。アニメスタジオは『ミニオンズ』シリーズのイルミネーションで、マリオたちが迷い込むファンタジー世界の色調とデザインは、ゲームと同系の明るい極彩色と愛らしさ。ペンギン王国の民など個性的なサブキャラたちもキュート。