ブラックドッグ (2024):映画短評
ライター3人の平均評価: 4.7
枯れてはいるが、それでも温かい逸品
ゴビ砂漠に野犬の群れがなだれこむ冒頭に、まずヤラレた。クローズアップを極力排除した、ロングショットが醸し出す画的迫力。それは近隣の町に舞台を移してからも持続する。
宅地や団地、学校などの廃墟のようなたたずまい。その中で、帰郷した前科者と野良犬の絆のドラマが展開するのだが、荒涼とぬくもりが共存するバランス感覚はみごとというほかない。
町はゆっくりと寂れ、そこでの人や動物はちっぽけな存在だ。それでも生きていく。風景重視のロングショットは、それを生々しく表わしているといえよう。『ピンク・ブロイド/ザ・ウォール』とは響き方が、まったく違う同楽曲の起用も味。
凶暴な詩情、ワイドスクリーンの撮影の素晴らしさ
2008年の北京五輪開催間近の中国、ゴビ砂漠が舞台。日本では未知に近かったグァン・フー監督(68年生)の新作で、衝撃は大きい。盟友ジャ・ジャンクーが役者として出演。激動の中国という“第六世代”共通の主題を据えつつ、元受刑者の男と黒い野良犬――社会から疎外された者同士の絆を軸に、神話的骨格を備えるダイナミックな映像詩に仕上げた。
荒廃した世界の西部劇といった趣も感じさせる。フラーの『ホワイト・ドッグ』、ムンドルッツォの『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』と並べたいハードコアな犬映画の傑作。ピンク・フロイドの『ザ・ウォール』より「Hey You」と「Mother」のインストが流れるのも吃驚!
人間と犬のエモい絆が二の次に感じられるほど完璧な映画
主人公は、ほとんど言葉を語らない。観る人に思いを説明し、押し付ける映画が氾濫するなか、徹底して無言で内面を伝える本作の演出は、エディ・ポンの生々しい佇まいによって奇跡の成功を収めた。そして犬の演技も、これは別次元ではないか…。
アメリカ西部の荒野を思わせる風景、ロングショット重視の映像、ピンク・フロイドの「ザ・ウォール」(曲&ポスター)の使い方、その意味も含め、国籍を超えた“カッコいい”作品への貢献を果たす。
要所に出てくる夕景の構図は視覚的美しさと儚さだけでなく、北京五輪に伴う再開発の悲哀、さらに何かが終わっても命と希望は続くという普遍の幸福感まで託しているようで、映画芸術の真髄に迫る傑作。






















