ラスト・ブレス (2025):映画短評
ライター4人の平均評価: 3.3
誰ひとり死なせない! 深海版『アポロ13』
極限状態の点で『ゼロ・グラビティ』を引き合いに出して語られてはいるが、ドラマの指向性は実話の映画化という点で、むしろ『アポロ13』に近い。
飽和潜水士たち3人の深海での絶望的な状況。彼らのサバイバルに加え、3人をひとり残らず救出するという潜水支援船クルーの思いが絡み、ドラマの熱さがジワジワと沸いて出てくる。無事の生還を待つ婚約者のエピソードもエモさとして効いた。
本作の基になったドキュメンタリー『最後の一息』のパーキンソン監督が、改めてドラマ化していることもあり、つくりはリアリティ重視。潜水士が深海に潜るまでの過程の描写はリアルで勉強になる。
お仕事映画として描かれる海底パニック
クリフ・カーティスも出てくる海底パニック・スリラーだけに、『MEG ザ・モンスター』のようなものを期待しそうだが、ド派手な爆破も起きないし、凶暴なサメにも襲われない。あくまでも、深海で極限状況に追い込まれた飽和潜水士、そしてオペレーターたちのお仕事映画として描かれる。豪華キャストによる「アンビリバボー」「世界仰天ニュース」といった趣であり、やるときはやってくれるシム・リウの芝居の巧さも光るうえ、あまり描かれることのない減圧期間など、徹底したリサーチも評価したいところ。ただ、あまりに演出が誠実すぎることもあり、もうちょいエンタメ寄りに振り切ってほしかった感アリ。
ドキュメンタリーの手触りで細かに描く
奇跡的な実話を、ドキュメンタリー映画のタッチで描く。映画の原点は、2012年の実際の潜水事故。その事故を描いたドキュメンタリー映画の監督が、本作の監督を務めるのは、稀有な出来事が何度も重なっていく状況に、フィクションとは違う手触りを加えるためなのではないか。飽和潜水士たちの潜水時の手順など、作業の一つ一つが細かに描かれて、臨場感を生む。各自の判断が孕むリスクの詳細が描かれて、状況が伝わってくる。
主人公役は、昨年からフローレンス・ピューとの交際が話題のフィン・コール。危険だからこそ仕事がやめられない男を演じ、ウディ・ハレルソン、シム・リウと共演。
人間にはまだミステリーがあるのだ
信じられない、本当に起きた話。普段話題に上らない、特別なスキルを持ち重要な仕事をする人々に焦点を当てるのも意義がある。
93分の上映時間の中、その時に起きたことを真っ直ぐに語っていく。彼らの行動はヒロイックかつヒューマニティにあふれるものだし、ウディ・ハレルソンをはじめとする役者たちもがんばっているだが、意外にも、文字通り生きるか死ぬかの状況のわりには、強烈なドラマ性、緊張感に欠ける。皮肉にも、最も興味深いのは、この大きな出来事が語られた後、ラストにちらりと出てくる、実在のクリス・レモンズの映像を含む後日談。人間にはまだミステリーがあるのだ。そこをもっと入れたらもっと良かったのかも。























