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第89回アカデミー賞作品賞候補の9作品スゴイのはココ!<後編>

 2年連続で俳優部門にノミネートされたのが白人だけだったとして“白すぎるオスカー”と波紋を呼んだ昨年のアカデミー賞ですが、今年はデンゼル・ワシントンをはじめ黒人俳優が過去最多となる6人ノミネートされるなどバラエティー豊かに。それに伴い、作品賞にも多様性が感じられる候補がずらり! 2月27日(日本時間)に迫る授賞式を前に、全9作の作品賞候補のそれぞれどこがスゴイのか、先取りでご紹介します。(編集部・市川遥)

いまだかつてない家族ドラマの傑作!俳優陣の名演に泣く『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

 深く傷ついた家族の再生を、ユーモアも痛みも美しさもただひたすらリアルに活写したいまだかつてない家族ドラマの傑作。スケジュールの都合によりマット・デイモンが親友ベン・アフレックの弟ケイシー・アフレックに主役を譲ったことでも話題ですが、これはケイシーで本当によかったと思います!

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
(C) 2016 K Films Manchester LLC. All Rights Reserved.

スゴイのはココ!
泣ける!ケイシー・アフレックの超絶繊細な演技→ケイシーが演じたのは、突然の兄の死により16歳の甥の後見人となり、故郷へ舞い戻ったリー。物語が進むにつれて、リーはとても乗り越えられないようなつらい過去を抱えていることが明らかになるのですが、ケイシーの繊細な演技によりボロボロに傷ついたリーの心が手に取るようにわかり、痛みすら感じるほど。兄の死、甥との生活を経て変われたこと、そしてそれでも変われないこともあるという複雑さをセリフに頼らず、全身から発散させるように静かに熱く表現したケイシーの演技は間違いなくオスカー級です。

ケイシー以外も演技派ぞろい!→リーの元妻役は『ブルーバレンタイン』のミシェル・ウィリアムズで、16歳の甥パトリック役は『ゼロの未来』のルーカス・ヘッジズ。本作含め4度のアカデミー賞ノミネートを誇るミシェルが安定感抜群なのはもちろんのこと、若手のルーカスも大人びているけど繊細なところもあるパトリックを好演。いつでも弟リーの味方だったカイル・チャンドラーのお兄ちゃんぶりも素晴らしく、演技派たちのアンサンブルが心地よい!

会話も行動も本当に自然!→こんなにリアルな作品って今まであった? と思ってしまうほど、会話も行動も本当に自然。病室でのジョークで家族がもめたり、どこに車をとめたかわからなくなったり、何てことのない日常のやり取りをユーモラスに描きつつ、それを話の本筋から外すことなく一つ一つベースとして積み重ねていく脚本の鮮やかさには感服するばかりです。ラストは深い余韻に包まれ、エンドロールが流れ切るまで席を立てないはず。

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』監督・脚本: ケネス・ロナーガン プロデューサー:マット・デイモン 出演:ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、ルーカス・ヘッジズ 配給:ビターズ・エンド / パルコ 上映時間:2時間16分 日本公開:2017年5月 第89回アカデミー賞6部門ノミネート:作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞

宇宙人との対話の鍵は言語学…?圧倒的な美しさのSFドラマ『メッセージ』

 ある日、何の前触れもなく巨大な宇宙船12隻が世界各地に降り立つところから本作は始まりますが、謎の知的生命体との戦いが始まるわけでもないのが独特で面白いところ。軍に雇われた言語学者(エイミー・アダムス)は宇宙人に英語を教えると同時に彼らの言語を学び、彼らがなぜ地球に来たのかを読み解こうとします。

『メッセージ』

スゴイのはココ!
『ブレードランナー』続編監督の独特の美意識に満ちた世界観→メガホンを取ったのは、『ボーダーライン』『プリズナーズ』などで独特の美意識を発揮し、『ブレードランナー2049』の監督にも抜てきされたカナダの秀英ドゥニ・ヴィルヌーヴです。細かなところにまでこだわり、確信に至るまで何テイクでも重ねるというヴィルヌーヴ監督だけに、一つ一つのショットにうっとり。静謐な美しさの中に緊張感がある、近年のSF物と一線を画す作品に仕上げています。

映像化不可能とされてきた原作を映像化→原作は、その驚くべき構成から映像化不可能とされてきたテッド・チャンの「あなたの人生の物語」。宇宙人との共通言語を探る過程に、主人公の言語学者の人生の一場面が差し込まれ、終盤では「そういうことか!」と思わず膝を打ちたくなるはず! 脚本が見事なのはもちろんのこと、そんな複雑なプロット、そして一人の女性の壮大なる心の旅を演じ切れたのは、それが名女優エイミー・アダムスだったからでしょう。

宇宙人の言語が面白い!→静かな感動が押し寄せるドラマなのですが、宇宙人との共通言語を探る過程もものすごく面白い! 「あなたたちは何の目的で地球に来たのですか?」という単純にも思える質問をするために、「あなた」と「あなたたち」の違いや質問文の意味を教え、回答を読み解くのに必要な語彙を収集するなど、地に足の着いたSFに知的好奇心をくすぐられまくりです。

『メッセージ』監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 脚本:エリック・ハイセラー 出演:エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 上映時間:1時間56分 日本公開:5月19日 第89回アカデミー賞8部門ノミネート:作品賞、監督賞、脚色賞、撮影賞、美術賞、音響編集賞、録音賞、編集賞

名監督メル・ギブソン復活!地獄絵図を駆ける真のヒーローを描いた『ハクソー・リッジ』

 俳優・監督として成功を収めながら、アルコール依存症に人種差別発言、元恋人へのDV問題など相次ぐスキャンダルで落ちぶれていたメル・ギブソン10年ぶりの監督作。第2次世界大戦において自らの信仰に従い、武器を持たない衛生兵として数多くの負傷兵を救った実在の兵士デズモンド・ドスの起こした奇跡を、彼の心象に寄り添う丹念な演出と徹底した戦場描写と共に映し出します。(編集部・入倉功一)

『ハクソー・リッジ』
(C) Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

スゴイのはココ!
ハマり役!スパイダーマン俳優の熱演→ドスを演じるのは『アメイジング・スパイダーマン』『沈黙−サイレンス−』のアンドリュー・ガーフィールド。見た目も物腰も弱々しいのに、仲間たちに疎まれながらも「人を殺めてはいけない」という意志を貫き通すドス役は、ナイーブなイメージと裏腹に確かな演技力で観客を魅了するアンドリューにピッタリ。戦場でたった一人、丸腰のまま日米の負傷兵を救い出していく姿は、真のヒーロー像を体現しているようで、感涙必至の演技です。

『プライベート・ライアン』超えの戦場描写!→舞台は、沖縄に上陸したアメリカ軍と日本軍が激しい戦闘を繰り広げた“ハクソー・リッジ”こと前田高地の戦い。メルが描いた戦場はまさに地獄絵図で、ある者は銃弾に顔面を砕かれ、またある者は全身を焼かれ死んでいき、焦土となった戦地に負傷者のうめき声が響きます。その衝撃は『プライベート・ライアン』に匹敵すると言っても過言ではないでしょう。気が狂いそうな戦場を克明に映し出すことで、戦争の恐怖とドスの勇気ある行動のすさまじさが克明に伝わってきます。

まるでメル・ギブソン?個性豊かな脇役たち→ドスの戦友たちをはじめ、個性豊かな脇役たちも見どころの一つ。俳優の魅力をしっかりと引き立てるメルの演出力が光ります。中でも『マトリックス』のヒューゴ・ウィーヴィング演じるドスの父親が印象的。かつては軍人として勇敢に戦いながら、今は酒に溺れ夜ごと妻に暴力をふるう姿は、アル中でさまざまなスキャンダルを巻き起こしたメルの姿を投影しているかのよう。劇中で描かれる親子の絆の物語は、辛酸をなめたメルの贖罪のようにも見えます。

『ハクソー・リッジ(原題)』監督:メル・ギブソン 脚本:ロバート・シェンカン、アンドリュー・ナイト 出演:アンドリュー・ガーフィールド、サム・ワーシントン、ヒューゴ・ウィーヴィング 配給:キノフィルムズ 上映時間:2時間19分 日本公開:2017年夏 第89回アカデミー賞6部門ノミネート:作品賞、監督賞、主演男優賞、音響編集賞、録音賞、編集賞

NASAの発展を陰で支えた黒人女性たち!後味良すぎな大ヒット作『ヒデン・フィギュアーズ』

 全米ではすでに1億ドル(約115億円)を超える興行収入を稼ぎ出した大ヒット作。1961年、幼い頃から数学の才能に秀でた黒人女性のキャサリンは、宇宙事業で先を越されているソ連に追いつこうと必死のNASAのエリートチームに、黒人女性として初めて配属されますが、人種差別が当たり前だった環境で多くの困難に遭遇します。しかし、キャサリンは天才的頭脳で、アメリカ初の有人地球周回飛行となったマーキュリー6号の軌道を計算し、NASAで誰もが認める存在となります。(細谷佳史)

『ヒデン・フィギュアーズ』
Twentieth Century Fox Film Corporation / Photofest / ゲッティ イメージズ

スゴイのはココ!
今最も旬な黒人俳優が勢ぞろい!→『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたタラジ・P・ヘンソンが主人公キャサリンを演じているほか、『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』で助演女優賞を受賞し、本作で再び同賞にノミネートされたオクタヴィア・スペンサー、『ムーンライト』にも出演している新星ジャネル・モナエ、『ムーンライト』で助演男優賞にノミネートされているマハーシャラ・アリら、今最も注目されている黒人俳優たちが勢ぞろい。大ベテランのケヴィン・コスナーが人種差別に左右されないリーダーを、ジム・パーソンズやキルステン・ダンストが今までと一味違うちょっと意地悪な上司を演じているのも見どころです。

ハリウッド映画の王道を行く演出が逆に新鮮→20世紀フォックスの作品ですが、ディズニー映画を観ているようなとても家族向きの作品です。セオドア・メルフィ監督(『ヴィンセントが教えてくれたこと』)の演出は、時代物らしいクラシックな語り口ですが、インディペンデント映画が多い今年のノミネート作品の中ではそれがかえって新鮮に感じられます。

トランプ大統領誕生…今の時代にピッタリのテーマ→アメリカ社会の人種差別をテーマにしたドラマは決して珍しくありません。しかし、そういった重いテーマを扱いながらこれほど後味の良い作品は、『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』以来ではないでしょうか。数々の人種差別発言を繰り返してきたドナルド・トランプ氏が大統領に就任して以来、多くの不安を抱えているマイノリティーの人たちに勇気を与える本作。そういった意味で、リベラルが多いアカデミー会員が本作を支持する可能性は十分ありそうな気がします。

『ヒデン・フィギュアーズ(原題)』監督:セオドア・メルフィ 脚本:セオドア・メルフィ、アリソン・シュローダー 上映時間:2時間7分 日本公開:未定 第89回アカデミー賞3部門ノミネート:作品賞、助演女優賞、脚色賞

デンゼル・ワシントン大活躍!普遍的な家族ドラマに感動『フェンシズ』

 アメリカを代表する黒人劇作家オーガスト・ウィルソンによる、ピューリッツァー賞とトニー賞をW受賞した同名戯曲を映画化。舞台は1950年代のピッツバーグですが、野球の才能に恵まれながらも黒人であることからプロの道を閉ざされ、地道に清掃員を続けながら家族を養う父親と、フットボール選手になる夢を抱く息子の対立という世代間の普遍的な家族ドラマが、ボディブローのように徐々に効いてきて、最後に大きな感動を届けてくれます。(細谷佳史)

『フェンシズ』
Paramount Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

すごいのはココ!
迫真の夫婦ゲンカ!ハリウッドを代表する二大名優の共演→これまでに『トレーニング デイ』と『グローリー』で二度アカデミー賞を受賞しているデンゼル・ワシントンと、『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』と『ダウト ~あるカトリック学校で~』で二度アカデミー賞にノミネートされているヴィオラ・デイヴィスという、黒人俳優として今最も実力のある二人の夫婦役を見るだけでも、この作品は鑑賞に値します。中でも後半、デンゼル演じる夫の浮気をめぐって激しく口論する場面でのヴィオラの演技は、映画史に残る名演になるでしょう。鼻水を垂らしながら夫に抗議するヴィオラの迫真の芝居を見れば、彼女こそ主演女優賞の最有力候補と思わずにはいられません。

主演・監督兼任のデンゼルの演出が光る→デンゼルほどの名優でも、主役を演じながら、映画全体を監督するのは大変な仕事だったに違いありません。しかし、彼は他のどんな巨匠監督がやってもこれ以上は望めないほど、映画として完成度の高い作品に仕上げています。原作が舞台のために書かれていることもあり、物語の大部分は“主人公の家”と“裏庭”という限られた世界で起こりますが、時折、1950年代のピッツバーグを再現したさりげない風景を盛り込むなど、映像的にも心に残る演出が光ります。

アメリカ社会が抱える問題がにじみ出る!リアルな人物描写→デンゼルふんする主人公は、家族のために一生懸命働きますが、欠点だらけで容易に感情移入できる人物ではありません。しかし、社会的に虐げられた当時の黒人男性の葛藤や苦悩をこれほどリアルに描いたアメリカ映画は、かつてなかったのではないでしょうか。読み書きができず、貧困から犯罪に走った過去を持つ主人公の姿には、アメリカ社会が抱える多くの問題がにじみ出ています。劇中デンゼルは、中年太りで思いっきり腹が出た姿を披露します。大スターにも関わらず、自分の醜い姿をも惜しげもなく見せるその姿勢から、本作にかける彼の思いがひしひしと伝わってきます。

『フェンシズ(原題)』監督:デンゼル・ワシントン 脚本:オーガスト・ウィルソン 上映時間:2時間19分 日本公開:未定 第89回アカデミー賞4部門ノミネート:作品賞、主演男優賞、助演女優賞、脚色賞

第89回アカデミー賞作品賞候補の9作品スゴイのはココ!<前編>

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