新世紀ロマンティクス (2024):映画短評
新世紀ロマンティクス (2024)
ライター4人の平均評価: 4
激動の中国社会を生き抜いた名もなき庶民の記録
驚異的な経済成長を遂げてきた現代の中国。その恩恵がまだ大都市圏に限られていた’01年から、地方都市でも豊かさを享受するようになった’22年までを舞台に、激動の時代に翻弄された男女カップルの軌跡を描く。経済発展に取り残された中国庶民、急激な変化によって生まれた中国社会の歪みに一貫して目を向けてきたジャ・ジャンクー監督の、まさにキャリアの集大成的な作品。過去の時代を再現するのではなく、監督自身が撮り溜めてきた市民生活の記録映像や、若い頃の主演コンビも出ている『青の稲妻』『長江哀歌』など旧作のアウトテイク映像などを使用。激動の時代を逞しく生き抜いてきた名もなき庶民の姿に強く心を動かされる。
ブレない視座が生んだ壮大な中国現代史
中国の地方都市にカメラを据え、急激な経済成長で変容する町と、人の心の有り様を撮り続けたジャ監督らしい中国現代史だ。1組の男女のミレニアムからコロナ禍までの半生を、撮り溜めていたドキュメンタリーとフィクションで構成した驚愕の手法。過去映像は単なる記録ではない。監督にとっての変わって欲しくないもの、記憶に留めたいものに他ならず。その映像を見るだけで、豊かさと共に失ったものの大きさがじわりと胸に迫ってくる。よくも悪くも変わってしまったものの一つに、監督のミューズ、チャオ・タオの存在も。もはや地方の庶民を演じるには違和感すら感じるが、壮大な物語を引っ張る貫禄に、女優としての成長を実感するのだ。
ジャ・ジャンクー監督の“異色集大成”的な傑作
『山河ノスタルジア』から『帰れない二人』を経て、今回も同様の三幕構成で21世紀の中国の変遷を描く。前作の怒涛のメロドラマから一転、カラックスの『IT'S NOT ME』とも重なる自作REMIXを含むメタシネマ。『青の稲妻』『長江哀歌』他、過去の映像素材がふんだんに使われ「時間」そのものが主題となる。
ブレインフェイラーで始まりツイ・ジェンで終わる「歌」をバックに綴られる、コロナ禍やAI社会にまで突入する高度資本主義化の道を激走する中国の様相。その波の中で個人はいかに生き、翻弄され、態度決定していくのか。あくまで“時代と共に進む”ことを選ぶチャオ・タオ(リリアン・ギッシュ感有)の顔が清々しい。
時間と地理、双方を旅していく
ヒロインが"時間"と"地理"の双方を移動していくさまが映し出される。2001年から2022年へ。北部の町・大同から、南部の都市・珠海、そしてまた大同へ。並行して、本作の監督ジャ・ジャンクーのその時代の映画のシーンや、未使用映像も流れるので、ヒロインの旅には、監督自身の旅も重ねられているように見える。加えて、当時の生活の記録映像が挿入され、すると、その人々が作中の登場人物とは別の生々しさで迫ってきて、映画が物語をはみ出していく。
時代が変わり、土地が変わると、風景はどんどん変貌していき、そこで流れる音楽も変化していくが、そこにいる人々の顔は、そんなに変わらないようにも見える。