キス・ザ・フューチャー (2023):映画短評
ライター2人の平均評価: 4.5
武器を持たずに戦う術は?
戦時下や震災など”芸術の力”の重要性が叫ばれるが、本作ほどその効力を実証している作品はないだろう。U2がボスニア紛争後のサラエボで行った伝説のライブの軌跡を描いた本作。現地の立役者たちが、不条理な戦争に中指を立てるがごとく毎夜ディスコに集っていたり、戦時下アートを発表したりと、武器を持たずに抵抗していたことが当時の映像と共に語られる。なんと痛快で、今、同様の苦しみを味わっている人たちに勇気を与えることか。一方、当時の政治を知る人物としてクリントン元米大統領も登場。政治家の空虚な言葉より、魂が込められたロックの方がいかに人の心を動かすか。それもまた芸術の力を証明する絶妙なアクセントとなっている。
「いま必要なもの」を考える
2023年の第73回ベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映された時から話題になっていた一本。1990年代、ユーゴ解体の流れから独裁者ミロシェヴィチによる軍事侵攻によりボスニア紛争に突入。そして分断された人々をひとつ(One)に結びつけるべく、97年に行われたU2のサラエボライヴまでの過程を、現在の視座から振り返るものだ(ビル・クリントンの証言も含めて!)。
サイン監督は当時会場にはいなかったというだけに再検証の意味合いは余計強い。音楽並びにアートは政治/社会の現実に対して本当に“無力”なのか? その可能性を問うのが本懐だろう。M・デイモン&B・アフレックがプロデュースを務めているのも納得。




















