ボディビルダー (2023):映画短評
ライター3人の平均評価: 4.3
狂気は心だけでなく、肉体をも蝕む
肉体を限界まで鍛え上げるボディビルという競技に、人間の狂気をプラス。競技にのめりこむあまり周囲が見えなくなり、疎外されていく青年の内面を見据える。
『タクシー・ドライバー』や『ジョーカー』の主人公にも通じる負け犬物語だが、その孤独は心だけでなく肉体をも蝕む。フィジカル描写の凄みに要アンガーマネージメントという精神設定が絡み、緊張を醸す装置として機能。物語が進むほど、主人公のピリピリした痛みが伝わってくる。
撮影直後にDV裁判で有罪判決を受けた主演のメジャースのプライベートにもリンクするのは後付けでいえることだが、彼の壮絶な演技に圧倒されるのは間違いない。
皮肉にもジョナサン・メジャース最高作
お話は完全に『タクシードライバー』&『キング・オブ・コメディ』→『ジョーカー』の流れを受け継ぐものだが、J・メジャースの余りに純度の高い演技に圧倒される。過剰に増強した肉体に覆われた脆く繊細な精神。自他を破壊に導く制御できない怒り。この“リアルな芝居”が演者当人のスキャンダルと重なって見えるのなら、一筋縄ではいかない表現の難しい問いを孕んだ作品とも言える。
ボディビルという題材がインセルの主題と接続され、暴力が優位性を持たず、自らの評価を貶める負の力にしかならないという視座は鋭い。社会に疎外された黒人青年の闇に幻想味を絡めた監督の設計も見事。パティ・スミスの「ビコーズ・ザ・ナイト」にも戦慄。
主演俳優のその後の運命を重ねれば、衝撃度はさらに大きく…
観たのは3年近く前も、今なお鮮烈に脳裏に残る力作。
理想の肉体に取り憑かれるあまり、過剰な薬物摂取、トレーニングに傾倒するうボディビルの日常がショッキングだが、主人公キリアンの強烈すぎるキャラが作品全般を支配している印象。
デートのシーンでは、ボディビルのことしか頭にない彼が、相手にまったく耳を傾けず、自分の話をまくし立てる。そのヤバさに震撼。後半のバイオレントかつ衝撃の運命はトラウマも誘う。
その展開から『タクシードライバー』を、そして狂気スレスレの名演からロバート・デ・ニーロと重ねたくなる、キリアン役のジョナサン・メジャース。トラブルを起こしてなければオスカー候補になった可能性もあり残念。























