トロフィー:映画短評
ライター2人の平均評価: 4
“デビュー作の理想形”を示すような秀逸さ
新鋭監督・孫明雅の“血の通い方”がまず気持ちいい。朝鮮舞踊の太鼓のリズムがいきなり鳴り、作品の主題が肉体性を伴って響いてくる。在日コリアン4世の女子中学生ソヒの日常が、安定した語りの技術と瑞々しさの両方で立ち上がる。『キューポラのある街』から続く系譜を爽やかに更新する最新形だ。
何より物語が面白い。K-POPに夢中なソヒが“ある物”を売り飛ばす。それ一発で彼女自身のルーツとの距離やアイデンティティの位相が露わになる。南北の価値観を抱える家族の軋みも、彼女の冒険と共に少しずつ形を変えていく。ソヒを演じる恒那のまなざしが示すのは、文化の断層を抱えながら世界の解像度を上げていく新しい世代の姿だ。
攻めに行けるテーマを誠実に優しく。終盤に向けた構成力も鮮やか
物語のテーマを代弁し、心に深く刻まれる複数のセリフが「ここぞ」の瞬間で発せられる、計算された脚本。重要な瞬間をあえて省略する節度の妙。その結果、主人公と家族の置かれている状況や環境が、押し付けがましくなく真摯に伝わってくる。初長編とは思えぬ手堅さ。
シリアスで悲痛になりそうな予感も、ギリギリ地点で覆されるのは、青春映画としての誠実さが貫かれたから。時折、映像から爽やかな風が漂ってくるかのよう。10代ならではの短絡的な行動も「らしい」と共感。
極め付けは舞踊の見せ方。演目への丁寧なオーソドックスさが有無を言わさぬ感動につながった。
★満点でも良かったが、今後の監督としての個性発揮に期待を込めて。





















