ドラマではなく“状況”を描く体感戦争映画

C・ノーランはしばしスタンリー・キューブリックと比較されるが、本作を見て連想したのは『フルメタル・ジャケット』だった。“状況”を描く、という点において、だ。
陸の兵士、空のパイロット、海の民間船クルー、それぞれの人間を描いてはいるが、人となりや背景は伝えず、そのときどきに彼らが何を感じ、どう動いたのかを見つめる。ここでのノーランのまなざしは観察者のそれに近い。状況を伝えるキャラクター視点の風景は臨場感に富んでいる。
ドラマが見えないぶん音楽はいつになくドラマチックで、とりわけ航空シーンでは高揚感を抱かせる。つくりは実験的かつ野心的だが、ダンケルクの戦闘を体感させるに十分の力作。