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さよなら渓谷 (2013):映画短評

さよなら渓谷 (2013)

2013年6月22日公開 116分

さよなら渓谷
(C) 2013「さよなら渓谷」製作委員会

ライター4人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.3

清水 節

危うい橋の上の真木よう子

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 物語の多くは、成功する、勝つ、成長する、たどり着く、結ばれる、そして幸せになることを目的に上昇する。しかし実人生がそうとは限らない。
 
 時系列が解体された流れの中で炙り出されてくるのは、15年前の集団暴行事件の被害者と加害者の一人の複雑極まりない内面。なぜ彼らは互いに惹き付け合ったのか。観る者の興味はその一点に集約されていく。男にとっての贖罪。唯一の理解者にすがった女。最初のうちはそうだったのかもしれない。だが、癒えることのない女の心の傷が蠢き、暴走する。
 
 絶望的な道行きが始まる。またも真木よう子が、危うい橋の上にいる。『ゆれる』でもそうだった。宙づりになった彼女の身体がある言葉を吐くとき、我々はハッと気づく。
 
 作り手も宣伝もメディアもこぞって「分かりやすさ」を旨とし、リテラシーの地盤沈下を招いたこの数十年にあって、大森立嗣監督は敢えて挑む。理解しがたくあてどもない心の旅。真木よう子と大西信満の身体は見事に応え、漂流する。

この短評にはネタバレを含んでいます
今 祥枝

見応えはあるが男性の視点は不快

今 祥枝 評価: ★★★★★ ★★★★★

映像化必至の吉田修一の原作ものとしては、一連の映像化作品の成功例にもれず本作も上手く翻案されている。真木よう子、大西信満のねっとりとした粘着質の演技も真夏の熱気とあいまった事態の異常さを無言で伝えて、大森立嗣監督の世界観にきっちりハマっており見応えがある。が、原作でも男性目線の描写が気になった”15年前の秘密”の顛末と、その後の彼らの関係性は、映画では弱冠形を変えてはいるが昇華されているとは言えず、理解に苦しむ。男女の深い何かを描いているようでいて、これで「それぞれに何かを感じ取って下さい」と言われても、映画もまた男性の視点から語られており戸惑いと苛立ちを禁じ得ないというのが正直な感想だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

男の願望が先走ったヌルいメルヘン

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

孤独な男女の物語ということで、どうしても同じ吉田修一原作の『悪人』と比較してしまいがちだが、ネタバレとされている“15年前の秘密”が分かれば、やはり別物として捉えてしまうだろう。特に女性心理には響きにくい。だからこそ、いかに女性映画として成立させるかが、本作の課題であった。そのため、真木よう子や大森南朋の起用は正解だったが、再び脱ぐことを拒否した真木の女優魂はまだまだだし、『ゆれる』の呪縛みたいなものが付きまとう結果に。また、「ヘルタースケルター」の役柄と被ってしまった大森も、キャリア的にもマイナスとしかいえない。なにより、最大の欠点は彼の兄である大森立嗣監督が、完全に男主人公の目線で描いてしまったこと。それによって、男の願望が先走ったヌルいだけのメルヘンになってしまった。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

しっとり濡れた大人の「色気」がたぎる男女の道行き

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

『悪人』(李相日)、『パレード』(行定勲)、『横道世之介』(沖田修一)など、吉田修一の小説を原作とした映画の成果が続いている。どの監督の資質にも親密に寄り添いつつ、同時に化学反応を起こしてワンレベル押し上げる“吉田修一力”は凄まじく、それは『さよなら渓谷』の大森立嗣も然り。これまで彼の持ち味だった「殺気」が漲るアウトロー男子世界に、しっとり濡れた大人の「色気」が加わった。秋葉原事件を題材にした大森監督の前作『ぼっちゃん』が彼のコアを剥き出しにした怪作だとしたら、今作は複合的なカラーがバランスよく溶け合っており、口当たりは一般向けと言えるかも(脚本は『婚前特急』の高田亮と大森の共同)。男と女の情念たぎる道行きに、筆者は野村芳太郎監督の往年のミステリー映画などを連想した。役者陣は皆素晴らしく、冒頭にヤンママ役で登場する新人女優・薬袋いづみにも注目!

この短評にはネタバレを含んでいます
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