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マイク・ミルズのうつの話 (2007) 映画短評

2013年10月19日公開 84分

マイク・ミルズのうつの話

ライター2人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

今 祥枝

日本の”UTSU”を見つめるマイク・ミルズの優しい視線

今 祥枝 評価: ★★★★★ ★★★★★

本作を観ながら、2009年に放送され、今年書籍化もされたNHKの「うつ病治療 常識がかわる」という大きな反響を呼んだ番組を思い出した。従来の薬物療法や心理療法への重大な問題提議がなされている一方で、それらを否定するかのような印象も与えかねない内容に、現実に治療中の患者や関係者の抗議の声も大きかった。適切な投薬によって救われる命があることを忘れてはいけないのと同時に、薬だけでは解決し得ないのがうつの難しさである。

この問題はいまだ尾を引くもので議論が不十分に思えるが、2007年に完成した本作では問題の核心がさらりと、だが鋭く浮き彫りされていることに驚かされる。もっとも、本作は製薬業界の闇を糾弾したり治療法の是非を論じるものでもない。

何よりも、うつを患う5人の日本人男女に寄り添うミルズの視線の親密さが愛おしい映画だ。そのもの言わぬ優しいまなざしが伝える、他者への思いやりと理解の重要性は、さまざまな社会問題に通じるものがあるだろう。『サムサッカー』や『人生はビギナーズ』でも、ミルズの映画はいつもそんな当たり前だけど大切な気持ちを、じんわりと胸に広がる温もりと共に思い出させてくれる。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

都市生活者たちのスケッチブック

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

優れた「都市映画」だと思う。マイク・ミルズ監督が『サムサッカー』と『人生はビギナーズ』の間に、東京で撮りあげたドキュメンタリー(完成は2007年)。抗うつ剤を服用しながら暮らす五人の男女にカメラを向けているが、良い意味で肌触りはフィクションと同じ。日常の風景に目線を溶け込ませ、生き難さを抱えた人々にそっと寄り添う“群像劇”。シンプルに見えて、丹念に描き込まれたスケッチブックだ。

また本作には“社会派”の顔もある。「心の風邪をひいていませんか?」との広告と共に、うつのカジュアル化を大々的に展開した製薬会社グラクソ・スミスクラインのビジネス戦略を撃つ視点だ。資本の流れに向けた風刺は、ソダーバーグの『サイド・エフェクト』とほぼ共通。生活者の足元を見つめ、掘っていったら、そこに巨大な政治性が横たわっていたという認識の回路は、グローバリズムの本質を探り当てたものだろう。

海外の映画作家が最もフラットに日本の現実を捉えた一本としても記憶しておきたい。個人的には市川準監督の諸作を連想した。『東京兄妹』や『ざわざわ下北沢』、『buy a suit スーツを買う』をまた観たくなったなあ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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