聖なるイチジクの種 (2024):映画短評
ライター3人の平均評価: 5
顔面の傷のリアリティが、この作品の“本気度”を表す
イマン家の長女の友人が巻き込まれ、街で散弾銃の被害に遭う。反政府デモへの警察の横暴だ。彼女の顔面の傷のリアリティが、この作品の“本気度”を表している。それは「イランの理不尽な国家体制を弾劾する」使命感だけでなく、「映画を作っている」という矜持。監督自らも不条理に、再逮捕されそうな状況下にもかかわらず、エンタメ的に精度の高い見せ場を次々用意した姿勢が天晴れ!
長女と次女を抑圧しがちだった母親が、友人の傷の手当てをし、ピンセットで弾を取り除いていく。家族の(そして国家の)問題の元凶たる夫との間に立ち、ダブルバインド状態に苛まれる母親の心情がポイント。パワーバランスのサスペンスの持続が巧みだ。
反体制映画としても女性映画としてもサスペンス映画としても秀逸
若者たちの反体制デモに対して政府の弾圧が激しさを増すイランの首都テヘラン。裁判所に勤める父親は体制側の大義を信じて疑わず、自由と正義を求める娘たちは抵抗する同世代に共鳴し、家庭を守りたい母親は親子の絆を繋ぎとめようとするも、ある事件がもとで家族間に疑心暗鬼が生まれ、恵まれたエリート一家の平和な日常は脆くも崩れ去る。権力側に属する家族の複雑な親子関係に、変わりゆく現代イラン社会のリアルな実像を投影しつつ、民衆を恐怖で支配しようとする権力を痛烈に批判し、声をあげて抵抗する女性や若者に未来への希望を見出す。圧倒的な力作。これを命の危険も顧みず撮った監督・スタッフ・キャストに敬意を表したい。
「女性、命、自由」運動のパワフルでシネマティックな派生物
2022年9月の「マフサ・アミニの死」事件がモチーフとなる。『TATAMI』も同件の影響と反映があるが、本作はジーナ運動の直截的な支援が目的だ。主人公一家の娘である姉妹、大学生レズワンと高校生サナは過熱する抗議運動に共鳴する。だが父親は役人。予審判事に昇進した彼は、テヘランの良い家や立派な地位と引き換えに人々を死刑台に送り込む。かくして家族内が苛烈な政治的分断の場となる。
キーパーソンは母親ナジメ。彼女の意思決定次第では『関心領域』に近づいたはず。監督は筋金入りの反骨派モハマド・ラスロフ。167分の長尺はユニークな展開力を湛え、後半部はアクションスリラーの映画的ダイナミズムを豪快に獲得した!





















