ザ・ザ・コルダのフェニキア計画 (2025):映画短評
ライター5人の平均評価: 3.6
人間戯画、ここに極まる
鳥獣戯画ならぬ人間戯画。そんなアンダーソン監督の持ち味を、ますます深めたことは特筆に値する。
いつもながらの配色と、いびつであることを恐れない映像の構図。役者の演技さえも無機質に近づけており、ここまで徹底すると戯画感も強まる。ケイト・ウィンスレットの娘ミア・スレアプレトンの無表情演技が、この世界観にピッタリとハマった。
必然的に感情描写はわかりにくくなるのでキャラクターへの愛着を抱けず、好き・嫌いは分かれるところだが、試み自体は評価すべき。キャラに共感するのではなく、時折見られる天井ショットのように俯瞰して観ることをお勧めしたい。
W・アンダーソンの様式美、さらに極まった感
映画を観るというより、美術館を歩きながらアートに触れている感覚。ウェス・アンダーソン映画のこのパターンを、今回は特に強く感じた。まずオープニングのクレジットが美しすぎる。文字の大きさからレイアウトまで、デザインの端正さに感動。おしゃれを装ってのブラックな表現も絶味。
キャストでは新進のミア・スレアプレトンがサラブレッドの娘として存在感発揮。明らかに監督が好むミューズの“タイプ”なのも微笑ましい。
ただストーリーとしては前作『アステロイド・シティ』など近年のものに比べると、より様式美が優先されたせいか、裏読みへの興味、深い部分の共振はおぼえず。あえての棒読みセリフの効果も好き/嫌いが分かれそう。
細かな章立てで、リズムがさらに軽やか
オープニングタイトルが流れる、ただ主人公ザ・ザ・コルダが浴槽に入っていて、その周囲を看護人たちが歩き回るのを、垂直方向からの俯瞰で定点撮影した長回しのシーンが、すでに圧巻。色調、デザイン、配置、動きが計算され抜かれているうえに、速度も加工され、精緻な細工物のような構築ぶりに、この監督の魅力を再認識。今回はさらにこの技法が極められ、俳優のセリフの抑揚や速度まで、きっちり調律されている感がある。
デザインは1950年代ヨーロッパと西アジアの融合風。ロードムービーの経由地ごとの章立てで構成され、リズムがさらに軽やか。父と娘の暖かな物語は監督の初期作『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』にも通じている。
ついていきやすいが奥がたっぷりあるのはさすが
色、構図、セットや衣装のデザインなど、アンダーソンの映画は毎回ビジュアルで圧倒。せりふや間の取り方もファニーで、表面的刺激だけで満たされてしまいがちだが、実はかなり奥が深い。前作「アステロイド・シティ」はとくに2度見てこそ良さがわかる映画だった。ひとりの男(デル・トロ)のジャーニーを追う今作も、ついていきやすい話ながら、見直すと細かいところに微妙な心理が描かれていることに気づく。夢のシーンもそうだし、娘ミアとのやりとり、彼女の表情にも。存在感と演技力ばっちりのスレアプルトンは、ケイト・ウィンスレットの娘と聞いて納得。「アステロイド・シティ」とはまた違った形で死に向き合うのも興味深い。
拘った画、シンプルなストーリー
実は最近の作品が個人的にうまく乗れなかったウェス・アンダーソン。しかし、本作は良かった。思うに徹底的に画に拘るウェス・アンダーソン映画にはあまり込み入った物語は要らないのかもしれません。画が凄すぎるだけにそこに入り組んだ物語が乗っかると見ていて集中力を持っていかれてしまい、結果として散漫な印象が残ってしまいます。今回もまたびっくりするほどの豪華キャストですが、物語はシンプルでキャストの個性も邪魔にならず一本の物語になっています。当て書きだったと言われる主演のベニチオ・デル・トロが大黒柱として居てくれるのも頼もしい限りです。
























