秒速5センチメートル (2025):映画短評
ライター4人の平均評価: 4
2025年に合わせた巧みなアップデート
ベタベタのラブストーリーに改変されていたらヤだなあと思っていたが、そんな心配は無用だった。
オリジナルの詩情を踏まえていることに、まずホッとする。物語自体は、オリジナル3話を交錯させつつ、主人公ふたりのすれ違いの時間を4、5年ほど拡張。ドラマそのものにも膨らみを持たせている。
この“膨らみ”がオリジナルのファンの間では論議を呼びそうだが、切なさは失われていない、と筆者は考える。電車や雪、桜といった場面の繊細な実写化に、2025年の今味わうべきノスタルジーが加味された。計算された演出がどうかはわからないが、巧い。
オリジナルが持つ行間は埋められ、補完されていく
スケール的にも日本映画界では実写化不可能な新海誠作品において、いちばんリアルかつミニマムなオリジナル原作。だからこそ、60分から122分にブローアップされることは、思い入れの強い人間としては、かなり複雑な心境だ。主人公2人の人生の先輩となるオリジナルキャラの登場などから、短編小説の行間は埋められ、補完されていくことから、鑑賞後の感覚は大きく異なる。あくまでもオリジナル未見の人向けで、良くも悪くも、近年の分かりやすさ重視の日本映画に仕上がったことは否めない。そんななか、「いま映画の神に愛されている俳優」といっても過言ではない松村北斗の存在は大きな救いといえる。
不思議な感触の映画
ヒットした長編アニメは多いですが実写化できるものというと、実は意外と限られているのだと教えてくれる一本。見終わった後、非常に不思議な気持ちが残りました。劇中の登場人物はもちろん初めてのことを体験するのですが、見ている側は『秒速5センチメートル』という物語を知っているので、何が起きるか分かっていてお話を見るという立ち位置に居ます。メタ的とも違うのですがオリジナルのエッセンスを実写映画内に取り込んで物語が展開されていきます。見ている間ずっと既視感のような不思議な感触を辿っていくような感覚でした。画に関しては実写で良くここまでやったなと思うくらいオリジナルに近いショットが印象的です。
この物語を心から愛し信じる人には、パーフェクトな実写化
小学生時代に知り合った「最愛の人」への想いを大人になっても引きずる…という設定は実写で“生々しく”なるリスクも孕んだが、オリジナルの情緒を、監督らしい抒情的映像を全開にそのまま移植することに成功。高層ビルを捉えたアングルなど、アニメ版と完全一致の「絵」がいくつも出てきて、それがあざとくないのも奇跡的。
大人のパートがメインになったことで「すれ違い」の切なさ、もどかしさが倍々増。もし会えなくても、あなたを信じ、その人生を見守る誰かがいる…という作品テーマの純度に浸る。
松村北斗は通常運転も「ここぞ」のシーンでの魂の込め具合は凄まじい。高校時代の貴樹を演じた青木袖とのハイレベルな共振性にも感激。






















