キムズビデオ (2023):映画短評
ライター4人の平均評価: 3.8
アクティビストな監督たちのタガが外れた行動に気圧される
世代的にバッチリとビデオ世代であり、いまだにVHS数本とビデオデッキを保有する筆者。しかも(覚えているだろうか……)2013年5月に閉店した東京・高円寺のカルトなレンタルショップ、マイナーな廃盤ビデオや海賊盤の宝庫ゆえ「日本のキムズビデオのひとつ」と呼びたい「Auviss」の最後を取材した身としてはタマらない作品だった。
が、しかし。2008年の閉店後、舞台がNYからイタリアへと移り、この店と経営者を追いかけるうちに何やらマフィアまで絡んでくる。そしてアクティビストな監督たちの並外れた、いや、タガが外れた行動、行き過ぎた映画愛に気圧され、ノスタルジーには終わらない面白さを堪能した。
伝説的な「シネフィルの聖地」を巡る数奇な運命
かつてニューヨークに実在したビデオ・レンタル店「キムズ・ビデオ」を取材したドキュメンタリーである。世界中から集めたレアなカルト映画やアート映画のソフトを5万本以上も取り揃え、シネフィルの聖地として国内外に知られたキムズ・ビデオ。その貴重なコレクションはどうなったのか?を追跡したところ、まさかのポリティカル・サスペンス的な様相を呈していく。まさに「事実は小説よりも奇なり」。ただし、後半の展開は「意図的な創作」が含まれている。いずれにせよ、映画とは誰もが知る名作やヒット作だけではない。むしろそれは氷山の一角。人類の文化遺産と呼ぶべき膨大な映画群を、次世代へ残すことの困難と意義を痛感する。
ノスタルジアにアピール。展開は意外だが最後は満足
配信の時代になって便利になった一方で、失われてしまったものがある。大型チェーンではない、オーナーのこだわりのレンタルビデオ屋に通っていた人は、とくにそう感じているはず。マイナーすぎる映画の一部は配信に移行できず、そのまま消えてしまったりもした。このドキュメンタリーはまず、そんなノスタルジアでシネフィルの心をつかむ。だが、そこから話は意外な方向に。イタリアの小さな街の政治やマフィア、監督兼ナレーター、レッドモンの個人的な映画愛の話などが混じってやや散漫とするも、結末には満足がいく。韓国での兵役を終えて渡米し、このビデオ屋を創業した男性が現地の文化にここまで貢献したというのも興味深い。
斜め上を行くVHS狂騒曲
『ロボット・ドリームズ』にも登場した「2008年に惜しまれつつ閉店したレンタルビデオ屋をめぐるドキュメンタリー」。ということで、タイの映像作家に影響を与えた海賊ビデオ店を描いた『あの店長』のNY版を期待するも、古今東西のアーカイブ&顛末は速攻で終了。郷愁なんて糞くらえな斜め上を行く展開に突入する! そして、イタリアンマフィアも介在する状況下で決行される“VHS版『アルゴ』”というべき救出作戦。決してスリリングではないが、VHSリバイバルブームの中、『僕らのミライへ逆回転』どころじゃない映画愛が爆発し、日本でも「その後のTSUTAYA渋谷店」をネタに作ってほしいと願うばかり!






















