THE END(ジ・エンド) (2024):映画短評
ライター4人の平均評価: 3.3
W・アンダーソン作品にも似たユーモアとペーソスが味
ドキュメンタリーの鬼才がどんな劇映画を撮るのか? そんな興味を持って向き合ったが、独創性に心を持っていかれた。
文明崩壊から25年後、地下シェルターで生き続けていた富裕層一家に訪れる変化……という設定にミュージカルを加味。薄暗い屋内や洞窟に歌が弾け、終末世界であるにも関わらずどこか能天気な空気も宿る。随所に配置された鏡の演出も巧い。
ウェス・アンダーソン作品の常連T・スウィントンが出演していたこともあり、それに通じるものを連想。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』的な家族ドラマのユーモアやペーソスが味となった。SF設定は甘いが、寓話として受け入れたい。
ユニークなアプローチと心意気を評価
プロジェクトの始まりは、ジョシュア・オッペンハイマー監督が、最初、世の終焉に備えて石油王がチェコに作ったシェルターについてのドキュメンタリーを製作しようと思ったことだったとか。それをこのようなミュージカルにしてみた心意気は、実にあっぱれ。モラル、ヒューマニティなど、語られるテーマはなかなか深いのだが、世の中が破壊されて20年以上が経つという設定にしては、ファンタジーとは言え色々ツッコミどころがあり、説得力を持たないのがやや残念かも。ただ、キャストの顔ぶれは抜群。とくにジョージ・マッケイとモーゼス・イングラムの組み合わせは新鮮だし、マイケル・シャノンもいつもと違う側面を見せる。
ティルダ・スウィントンが想いを歌い上げる
ティルダ・スウィントンやマイケル・シャノンが、歌声というよりも存在感で歌い上げるミュージカル。なぜミュージカルという形式なのか。その理由の一つは、リアリズムとは無縁の寓話的な物語だからだろう。もう一つは、人間のさまざまな感情の動きを増幅させて描くためなのではないか。
地上に人間が住めなくなって25年後。地下シェルターの豪華な部屋で暮らしてきた親子と使用人たちが、地上から来た一人の女性を発見する。世界は終末なのだが、浮かび上がるのは終末についての何かではなく、人間の集団生活によって生じる問題や、各自の感情とその対処法。終末でも変わらない人間というものが剥き出しになっていく。
地下での満ち足りた生活をミュージカルで…と「攻めた」作り
25年間、隔離された地下シェルターで生活を送る「一家」の設定で、自給自足で野菜を育てる様子も映し出されるも、基本的に何不自由ない“おしゃれな日常”が展開…ということで、ツッコミ無視で観るべき作品。スタイルがミュージカルなのも、あえてリアリティを回避した策か。突然の歌へのシフトも、その違和感をむしろ楽しむべき。斬新な体験を求める人には最適な一作かも。
驚嘆するのは、撮影を行った岩塩坑のビジュアルだ。つまり本物の地下世界が目の前に出現する。地上から空気を届けるエアチューブなど実際の設備も物語に「意味」を与える。
どんな作品でも異彩を放つT・スウィントンが、この異空間にはフィットしてるのが逆に新鮮!
























