ぐるっと!世界の映画祭

パルムドールへの道はここから始まる!カンヌの新人監督育成プロジェクト(フランス)

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第70回カンヌ国際映画祭で行われたプレゼンテーションの様子。世界中からのバイヤーや製作会社たちの前で、端的に、企画のポイントとなぜこの映画を作りたいのか? を説明する度胸と能力が試される。

【第60回】
 フランスのカンヌ国際映画祭で2000年からスタートした新人監督育成プロジェクト「シネフォンダシオン・レジデンス」。アメリカ・ニューヨーク在住の福永壮志監督が第33回の研修員に選ばれて4か月半に渡ってパリに滞在し、サポートを受けながら脚本執筆など次回作の制作を行いました。スターが闊歩(かっぽ)する華やかなレッドカーペットだけではない、カンヌの別の一面を福永監督がリポートします。(取材・文:中山治美、写真:福永壮志、(C) Festival de Cannes - All rights reserved)

カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門ザ・レジデンス

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新たな才能を続々輩出

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シネフォンダシオンのスタッフとディナー。ここから濃密な人間関係が生まれていく。

 レジデンスはカンヌ国際映画祭名誉会長のジル・ジャコブ氏の肝いりで2000年にスタート。応募対象者は長編1本または短編数本を製作した実績があることで、長編劇映画の企画と共に申請。アニメーターは不可。年に2回の募集があり、定員は各6名という少数精鋭制だ。これまで200人以上が参加しており、その中には『無言歌』ワン・ビン監督(中国)、『サウルの息子』ネメシュ・ラースロー監督(ハンガリー)、『キャラメル』ナディーン・ラバキー監督(レバノン)、『父の秘密』ミシェル・フランコ監督(メキシコ)らの名前もある。さすがは世界三大映画祭のカンヌ。偉才を見抜く目は確かだ。

 「著名なレジデンスやラボは、新しいプロジェクトを探している映画関係者から常に注目されていて、選ばれると、自分とプロジェクトの両方を知ってもらうきっかけになり、また、さまざまな支援を得ることにも繋がるので応募しました。その中でも、過去に素晴らしい監督たちが参加しているカンヌのレジデンスは自分にとって憧れでした」(福永監督)。

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福永壮志監督の長編初監督作『リベリアの白い血』。リベリア共和国からニューヨークに出稼ぎに出たものの、ニューヨークでも変わらぬ経済格差社会、そして内戦を経験したリベリア人同士の軋轢という、どこへ行っても変わらぬ移民たちが置かれた現実を生々しく描いている。撮影の村上涼さんがリベリアでのロケ中にマラリアにかかり、33歳の若さで亡くなった遺作でもある。8月5日(土)よりアップリンク渋谷ほか全国順次公開。

 福永監督の初長編監督作『リベリアの白い血』は、リベリア共和国からニューヨークに出稼ぎにきた主人公を通して、アフリカ系移民の実情を映し出した野心作。新たな企画は故郷・北海道が舞台の『イオマンテ(原題) / IOMANTE』。アイヌ民族の血を引く青年が、イオマンテというアイヌの伝統儀式の復活に取り組むことを通して自身のルーツと向き合うことになる人間ドラマだ。レジデンスへの申請には、この長編映画の企画書とシノプシス、過去作の映像資料などを提出した。

 「今回に限ったことではないですが、プレゼンテーションでは、なぜこの主題で、なぜ今、なぜ自分が撮るのか? という点を明確に記すようにしています」(福永監督)。

 当然、全ての書類が英語となるので、過去に選ばれた日本の研修生は福永監督も含め、海外留学経験者だった。そこが日本人にとっては大きなハードルとなるだろう。また過去の実績も大きなポイントとなるようだ。「実は2015年春に一度申請したものの、通らなかった経緯がありました。それから2016年春に再申請するまでの1年間で、自分の初長編映画『リベリアの白い血』が映画祭などで評価を得たことが、(選ばれた)理由の一つになったのではないかと思います」(福永監督)。

生活費に仏語レッスンも

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研修生と共にパリ郊外にあるフォンテーヌブロー宮殿の見学へ。フランスの美と文化に触れるのも研修プログラムの一環。

 研修期間は4か月半。パリ9区にあるアパートの一室が用意され、月800ユーロ(約9万6,000円、1ユーロ120円換算)の生活費の支給や、市内映画館へのフリーアクセスパス、他の映画祭へのアテンドも用意されている。

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福永監督の部屋のドアには、歴代の同室使用者の名前がズラリ。『キス・オブ・ライフ』(2003)のエミリー・ヤング監督にはじまり、『サウルの息子』(2015)のネメシュ・ラースロー監督の名前も。研修生の誇りと士気を高めるニクい演出。

 「住居は用意されているので、普通に生活している分には月800ユーロでまかなえます。アパートは研修員6人での共同生活ですが、階全体を占めるとても広いものだったので窮屈には感じませんでした」(福永監督)。

 日々、決まったスケジュールはなかったそうで、環境は整えるが、あとは自己責任・自己管理というのが個人を尊重するフランスらしいところかもしれない。

 「講師はいませんでしたし、数回のミーティングで研修生それぞれの脚本について意見を交わした以外は、脚本執筆を教わるといったような支援はありませんでした。そのことは始まってから知り、少し拍子抜けしました(笑)。支給された映画観賞のフリーパスを活用するなど息抜きもしましたが、大抵の日は朝起きてから昼過ぎか夕方頃まで、食事をとる以外は脚本に取り組んでいました。あとはは不定期で、フランスの助成金を扱うCNC(フランス国立映画センター)や、カンヌ国際映画祭のプログラマー等とのミーティングやディナー、美術館見学等がありました」(福永監督)。

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研修期間中に、オランダで開催されたロッテルダム国際映画祭の企画マーケット「シネマート」にも参加し、配給会社とのミーティングを重ねた。

 福永監督はオプションも利用し、週2回のフランス語のレッスンや、ノルマンディー地方にある文化複合施設ムーラン・ダンテに5日間滞在しての脚本執筆。また研修中の1月末~2月上旬にオランダで開催されるロッテルダム国際映画祭の企画マーケット「シネマート」に参加し、ヨーロッパの多数のセールス会社や制作会社などとミーティングも行ったという。

 「整った環境で自由奔放に脚本に取り組むというのはとても充実した体験でしたし、たくさんの出会いと、さまざまな芸術から刺激を受けながら思う存分脚本に取り組むという、素晴らしい4か月半だったと思います」(福永監督)。

研修生は国際色豊か

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レジデンスの研修生たちとディナー。研修中の4か月半、研修や食事の場で、互いの企画のことなどを語り合った。

 福永監督の同期は、ルーカス・ドンド(ベルギー)、ジェンク・ユートリック(トルコ)、ジーノ・グラトン(ベルギー)、カロリーヌ・モネ(カナダ)、メス・パイネンビュルフ(オランダ)。いずれも、すでに短編や長編が国際映画祭で評価されるなど注目の新鋭たちだ。

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福永監督のパリの部屋。シンプルだけどおしゃれ。

 「この5名の監督と共同生活をする中で、お互いの作品や脚本、それぞれの国のことなどを語り合ったことはとても刺激的で、特別な体験でした。彼らや、この期間に出会ったプロデューサー等から受けた意見は、今、拠点にしているニューヨークで受けるものとまた違っていて、僕がどういう作り手で、何を表現しようとしているのかというところに重点が置かれていて、自分の作品との向き合い方についても考えさせられました」(福永監督)。

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アパートメントの共同ラウンジで脚本を読む研修仲間のジーノ・グラトン。

 中でも福永監督が関心を寄せた企画は、ユートリック監督の『ノア・ツリー(英題) / Noah Tree』。小さな村を舞台に、ノアの大洪水後に最初に植えられたと信じられている“予言の木”だと主張する村人と、昔に自分が植えたと主張する父親を持つ主人公との争いを通して、現在の中東問題をあぶり出していくという。「どの企画も魅力的だと思いましたが、中でも『ノア・ツリー』はシンプルで分かりやすいストーリーの根底に複雑なテーマがあり、出てくる登場人物も人間らしく描かれていて、とても感心しました」(福永監督)。

 福永監督を含めた6人の企画はカンヌ国際映画祭のHPからも確認できる。特にこれから海外を目指す監督たちはディレクターズ・ステートメントの書き方を参考にしたい。

研修最後はカンヌで!

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第70回カンヌ国際映画祭のプレゼンテーションでの記念撮影。アルノー・デプレシャン監督(写真前列中央)、女優・プロデューサーのジュリー・ガイエ(デプレシャン監督右側)、トルコのカウテール・ベン・ハニア監督(同左側)の審査で最優秀企画賞が選ばれ、福永監督の第33回の研修生の中からはカロリーヌ・モネ監督に贈られた。副賞は5,000ユーロ(約60万円)。

 研修の最後は、第70回カンヌ国際映画祭でのプレゼンテーションで、5月25日にグレイダルビオン・ビーチで行われた。カンヌは作品を売買するマーケットの場でもあるだけに、世界中から多数の映画会社が“先物買い”に訪れたようだ。「プレゼンテーション後に、声をかけてくれた制作会社が数社あり、現在も共同製作の可能性を話し合っています。また、研修中にミーティングをした数社ともカンヌで再会することができました」(福永監督)。

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フォンテーヌブロー宮殿で研修生と記念撮影。右端が福永監督。きっと今後、カンヌ国際映画祭をはじめ国際映画祭で再会するに違いない。

 今後は、8月に東京で行われるサンダンス・インスティテュート/NHK賞の脚本ワークショップに参加して脚本をブラッシュアップ。さらにフランスでの共同製作パートナーを決め、フランスのCNCが世界の映画に対して行っている助成制度(Aide aux cinemas du monde)と、文化庁が実施している国際共同製作映画支援事業への申請と、助成制度を活用しながら、2018年夏の撮影を目指しているという。

 ちなみにシネフォンダシオン部門(学生映画部門)のグランプリ受賞者は、カンヌ国際映画祭で次回作が上映される特典があるが、レジデンスの場合は、企画が完成したからといって必ずしもカンヌ出品が保証されている訳ではないという。ただし過去の研修生の作品の多くが、カンヌ国際映画祭で世界初披露されており、また同映画祭でカメラドール(新人監督賞)を受賞した河瀬直美監督がずっとカンヌに愛され続けているように、自分たちが注目した監督たちを最後まで見守り続けようという映画祭側の方針が見て取れる。

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福永監督が研修期間に遠出をし、脚本執筆のために5日間こもったムーラン・ダンテ。その名の通り、ムーラン(風車)がある。宿泊施設のある文化複合施設で、音楽祭が有名。

 次のような特典もあるという。「パリのアパートにはゲストルームがあり、そこに時々、過去の研修生が滞在しに来て、彼らとの良い出会いもありました。それもレジデンスの特典の一つで、今後、僕もパリに行った時はそのゲストルームに泊まることができます」(福永監督)。この憎いまでのサポートが、カンヌ国際映画祭が世界中の多くの監督たちを惹きつけている所以だろう。

次回の研修生を募集中

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2015年の第65回ベルリン国際映画祭パノラマ部門に長編初監督作『リベリアの白い血』が選ばれた。左はベルリン用のポスター。この年は、ベルリナーレ・タレンツにも参加。

 レジデンスでは次回(2018年3月1日~7月15日)の研修生を募集中だ。申請締め切りは8月15日まで。詳細はカンヌ国際映画祭のHPで。

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『リベリアの白い血』で第65回ベルリン国際映画祭に参加したときの一コマ。メイン会場のレッドカーペットをバックに。

 また福永監督は、ベルリン国際映画祭が行っている人材育成プロジェクト「ベルリナーレ・タレンツ」にも参加経験がある。こちらは経歴10年以内の映画とTVの映像制作スタッフ全てが対象で、定員250人とカンヌ国際映画祭より間口が広い。

 「こうした人材育成プロジェクトに参加するメリットは、やはり新しいフィルムメイカーと出会い、共に成長できることにあると思います。誰もが参加できるネットワークイベント等で会うより、厳正な審査を経て参加することができるプロジェクトの中で会う方が、皆目的意識があるので、繋がりが深くなるように思います」(福永監督)。

 ベルリナーレ・タレンツも現在受付中。詳細はHPで

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