コレクティブ　国家の嘘 (2019)：映画短評

　‘15年にルーマニアで起きたライブハウスの火災事故。その死亡者の半数以上が搬送先の病院で亡くなったことから、やがて官民の癒着による深刻な医療汚職の実態が明かされる。これは、権力者の脅迫にも屈せず真実の追及に奔走する現地ジャーナリストたちを追った渾身のドキュメンタリー。医療費を食い物にする製薬業界や病院関係者、政治家や官僚の欲深さに唖然とするたび、新聞編集長の「報道が目を光らせなければ、国家は国民を虐げる」という言葉の重みを実感する。この目を覆うような腐敗を招いた原因のひとつが、国民の政治に対する関心の薄さ。投票率の低さがそれを象徴する。「無関心は人を殺す」。我々日本人にも他人事ではない。

国家を揺るがす医療汚職事件の闇を、大衆紙のスポーツ記者が追いかける意外性から始まる前半に続き、後半では新たな保健省大臣を味方につけて医療改革を目指すという、別の角度から迫っていく面白さ。女性たちの活躍もみどころで、オスカー2部門候補も納得の硬派なドキュメンタリーといえるが、インタビューやナレーションのほか、煽るような音楽もテロップもなし。そんな監督こだわりの演出に関しては、賛否あるかもしれない。本作製作後、EU諸国のなかでもコロナのワクチン接種が進んでいないルーマニアの現状を踏まえて観ると、「我が国は、まだマシなのかも？」と思ってしまう衝撃と切なさが襲い掛かるはず。

ライブハウス火災を発端に国家の汚職に切り込むジャーナリストと新任の保健省大臣の奮闘が韓流ドラマ並みにスリリング。薄めた消毒液を病院に卸していた男性が不審死を遂げ、異常な法律に縛られた大臣は与党から邪悪な攻撃を受ける。政治家が権力とリベートに酔いしれる一方、国民の命は風前の灯！　民主化されても汚職が止まないルーマニアにチャウシェスクの影がのぞく。ああ、怖い。しかし、　コロナ禍で医療体制が逼迫するなか、新総裁選びに夢中になっていた自民党が治める我が国も似たようなものか。国家の過ちを正そうと努力する人々の活動はもちろん、民主主義の未来をさまざまに想像させるエンディングまで痺れる快作。

病院の内部で起きていた大がかりな汚職を暴いていったのがスポーツ紙だったというのに、まず驚き。ジャーナリズムのあり方、重要性をあらためて考えさせられた。途中からは、これらの腐敗を撤廃しようと本気で努力する人に焦点が当たるも、なかなか思うようにいかないところに現実の厳しさを見る。これはたまたまルーマニアの話だが、美味しい汁を吸ってきた権力者らが現状を守ろうとする構図は、どこに住む人にも見覚えがあるはず。ナレーションもなく、冷静に事実を追う形で話を語るが、火傷を追った女性や、助かるはずだった息子を思う父の姿に、大きな不条理を感じ、涙が出そうになった。ぜひ見るべき一作。

ルーマニアの火災大惨事で重症患者がしっかり治療されない「闇」を追いかけるのだが、感染の不安、医療と政治の関係など、現在、新型コロナウイルスの対策に疑問を感じる人がこれを観たら「もしかして、こんな事態になってるのでは…」と思わずシンクロし、背筋を凍らせるかも。同時に、もし日本で似たようなことが起こったら、ちゃんと伝えられるか考えさせられ、その意味でタイムリーな一作。衝撃的な映像もいくつか収められている。

事態を改善するべく、新たに就任した大臣の誠実さの虚しさ、選挙の投票率を抑えたい政権など、どんどん深くなる闇はスリリング。グローバルに共感させるドキュメンタリーの意義が最後まで貫かれている。