中山 治美

中山 治美

略歴: 茨城県出身。スポーツ紙記者を経てフリーの映画ジャーナリストに。全国商工新聞、月刊スカパー!(ぴあ)、時事通信などに執筆中。

近況: 映画祭で国内外を飛び回っているうちに”乗り鉄”であることに気づき、全国商工新聞で「乗りテツおはるの全国漫遊記」を連載。旅ブログ(ちょこっと映画)もぼちぼち書いてます。

サイト: https://tabisutekaisyu.amebaownd.com

中山 治美 さんの映画短評

« Prev 全469件中6~10件を表示しています。 Next »
  • メンゲレと私
    思考とアイデンティティを奪う戦争の真の怖さ
    ★★★★★

    証言者は、ホロコースト証言シリーズ3部作の中で最も若い9歳~13歳にゲットーや強制収容所で過ごしたダニエル。メンゲレ医師の非人道的極まりない人体実験やカニバリズムなどを目撃し、その証言を裏付けるかのようにアイヒマン裁判の映像や米軍通信部隊が撮影した記録映像が差し込まれる。情報として知ってはいたとしても、その目が、その顔に刻まれた深い皺が、忌まわしい記憶を生涯抱えながら生きざるを得なかった者の苦悩を生々しく伝える。だが最も印象深いのは解放直後のこと。紙に絵や文字を思う存分書き、そこで自由を感じたという。自由であるはずの私たちに、深くその意味を問いかける言葉である。

  • ほかげ
    戦争孤児の目で描く愚かな大人の罪
    ★★★★

    子どもに暴力シーンを見せてはいけない、と大人は言う。成長に影響を与えるから、が理由だ。そう分かっていながら、なぜ今も昔も、暴力の最たるものである戦争に子どもたちを巻き込むのか? 本作の実質的な主人公である塚尾桜雅演じる戦争孤児を通して、我々に問いかける。彼の目の前で、戦争で心身壊れた大人たちは痴態も晒せば、残虐な行為も見せる。それどころか彼から親を奪ったのは大人であるはずなのに、孤児となった彼を蔑む。この少年がどんなトラウマを抱えて生きることになるのか? ゲットーを生き延びた少年のドキュメンタリー『メンゲレと私』と合わせて鑑賞することをオススメする。

  • Maelstrom マエルストロム
    セルフドキュメンタリーをアートの領域に高めた秀作
    ★★★★

    渡航先で脊髄損傷となる事故に遭い、人生が一変する。間違いなくタイトル通り”大混乱”だったであろうが、映画は極めて冷静かつ分かりやすく、当時の状況や車椅子生活になった21年の日々と心情を綴る。制作に約5年半かけたという本作。ナレーションも監督自身が手掛けており、自身の心と対峙し、混沌とした胸の内を表現するに相応しい言葉を探して推敲を重ねたであろう端的な語りに圧倒される。昨今、日常を赤裸々に晒すセルフドキュメンタリーが多いが、それとは一線を画す本作。当時の映像素材がない中、写真、絵、文章など多彩な資材で構成された本作はまさにアートである

  • さよなら ほやマン
    フィクションだから描ける震災後の本音と真実
    ★★★★★

     戦略なのか? タイトルからは分かりづらく、宣伝的にも東日本大震災にはあまり触れていない。それがなんとも勿体無い。だから、あえて言いたい。震災ドラマの傑作だと。
     いまだ両親が行方不明で、震災から時が止まってしまったかのような兄弟の暮らしに、他者が強引に住み着いたことで開かれる彼らの心の扉。あの日以降、海産物が食べられなくなったことも、離島での閉塞的な人間関係も、ドキュメンタリーだったら角が立ちそうな当事者たちの鬱屈した感情を、脚本に見事に落とし込んでいる。これぞフィクションの力。それをリアルな物語として響かせたキャスティングがまた素晴らしい。

  • 映画の朝ごはん
    おにぎりの中に映画界の課題もぎっしり
    ★★★★

    おにぎり2個とおかず一品+沢庵。一般的には取り立てて珍しくない朝食だ。だがこの弁当が撮影現場で愛され続けている理由を深掘りした結果、低予算・短期間撮影が常識の日本映画界の歴史と現状、さらに課題までをも浮き彫りにする重要なドキュメンタリーとなった。現在、映画界は日本映画制作適正化機構(通称”映適)を設立し、働き方改革に着手中。いかにそれが必須か。本作に登場する弁当店ポパイのような撮影を支える業者にも影響を及ぼしていることも映し出す。翌朝の弁当を深夜に発注するスタッフの無茶振りにも対応。これを美談と取るか?仕方ないと取るか?ここに映画界の未来がかかっているように思える。

« Prev 全469件中6~10件を表示しています。 Next »
[PR]
おすすめ特集
映画アクセスランキング
  • Loading...
»もっとランキングを見る«
スポンサード リンク