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見はらし世代 (2025):映画短評

2025年10月10日公開 115分

見はらし世代
(C) 2025 シグロ/レプロエンタテインメント

ライター5人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

森 直人

都市論と政治的な含意を持つ令和・家族の風景

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

都市空間の鼓動と家族の肖像が交差する場所に、新鋭・団塚唯我(98年生)の初長編は立ち上がる。渋谷・宮下公園の再開発の光と影を背景に、父と子が出逢い直す。ランドスケープデザイナーの父は都市を設計する一方で、人間的な繋がりを見失っている。幻想的な“儀式”を経て、分断された家族は各々の個として立ち現れる。

幕引きに置かれるのは2023年の法改正を機に始まったLUUPの電動キックボードで舗道を滑る若者達の姿。撮影は『遠くへいきたいわ』に続き古屋幸一(最近は黒沢清の『Chime』等を手掛けた)が担当。変化する都市を軽やかに受け止める視座は、小津の遠い継承者として『東京物語』を静かに更新するものだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
轟 夕起夫

見はらすしかない視線、見はらすしかない世代

轟 夕起夫 評価: ★★★★★ ★★★★★

題名に引きつければ、新世代(1998年生まれ)である団塚監督の若さが迸っている。都市の再開発と、一度壊れた家族の再編が重ねられ、そこにある種の怒りと達観を含んだ“見はらすしかない視線”が投じられているのだ。

これまでの短篇、自ら出演もした映画美学校フィクションコース修了制作『愛をたむけるよ』(20)や、『遠くへいきたいわ』(22)には「亡くした母」という本作に繋がるオブセッションが。さらにここに来て、父性との対峙も前景化してきた。さて次は?

誰もが指摘するよう全体的に黒沢清監督の影響が濃厚で、ラストの若者たちの描写、唐突な転調は『アカルイミライ』(03)の派生バージョンを想起させるだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

風景はいつも流れている

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 英語タイトルの「Brand New Landscape」=まったく新しい風景、が映画をシンプルに表現している。映画は、街の風景が変わっていくこと、家族というものの在り方が変わっていくことを、静かに描き出す。その物語に相応しく、風景が映し出される時はいつも止まらず流れていて、車窓から見る時も、オートバイに乗りながら見る時も、風景が流れていくことが感じさせる軽さ、浮遊感が気持ちいい。その感覚をさまたげないように、色彩はいつも淡い。

 どこか漂っているような感覚は、脚本にも通底。ある反復される出来事が、いわゆる日常的な出来事からほんの少しだけ離れていて、それが醸し出す空気がいい。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

世界的に評価されるアジア映画の時流に乗っている

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

いい意味で、是枝裕和監督的で、濱口竜介監督的で、ポン・ジュノ監督的。そういう意味では近年、世界的に評価されているアジア映画の時流に乗っている一作であり、今年のカンヌ映画祭で話題を呼んだのも大きく頷ける。家族の変化と街(渋谷)の再開発を時に実験的に捉える団塚唯我監督の自由さは、『PARKS パークス』『ジオラマボーイ・パノラマガール』あたりの瀬田なつき監督作に通じるものもある。ときどき観客を置いてきぼりにする描写もあるが、そこも独自のセンスで巧く逃げ切っており、『さよなら ほやマン』で、ただならぬ存在感を放っていた黒崎煌代の俳優としての成長ぷりも堪能できる。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

独創的スタイルへのチャレンジが、かなり美しく成功している

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

音の使い方、人物の撮り方など、明らかに気を衒った方向にチャレンジ。しかし、その“崩し方”に品(ひん)があり、スタイリッシュな印象を与えることに。結果、その人がどんな気分なのかを背中のカットだけで感じさせるなど、映画的マジックがたびたび起こる。そして「リアルだけではない」描写を、優しく溶け込ませた演出に監督のセンスを感じた。
東京・渋谷の再開発、家族の崩壊と絆のドラマの他、細かいエピソードも意味ありげだったりして、物語の軸はやや掴みにくいものの、その“拡散感”が心地よい。
黒崎煌代は、あるシーン(これは絶対どこかわかる)で積年の秘めた思いを絶品の表情演技でみせ、ここだけでも本作を観る価値はある。

この短評にはネタバレを含んでいます
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