箱の中の羊 (2026):映画短評
ライター5人の平均評価: 3.6
是枝監督が(無意識に)“自爆”を試みた作品
功成り名を遂げた作り手がある種、(無意識に)“自爆”を試みた作品に思えた。何のために? これまで積み上げてゆく中、凝固してしまったセルフイメージに穴を開け、組成し直すために。だから、寛容の目で眺められる者は、以降にその進展を期待するだろう(筆者はそうだが、怒る人の気持ちも分かる)。
にしても、建築の発想で創られたにもかかわらず本作は、夫婦と亡き子供、家族、AIを巡って、接木されたエピソードが空転を起こしている。新たなコミュニティの未来を示す終盤の理想郷は特に、一足飛びの誹りを免れない。また、ヒューマノイドたちに混ざった人間の扱いが乱暴過ぎないか。音楽が説明的になっていくのも気になった。
優しさと慈愛に満ちた是枝流近未来SFファンタジー
ハイテク技術によって故人を蘇らせることが可能になった近未来。幼い息子を亡くした夫婦が、その息子と瓜二つのヒューマノイドを家族として迎え入れる。愛する人を失った喪失感とどう向き合うべきなのか?という普遍的な課題に取り組んだ映画。しかし、本作のテーマはそれだけに留まらない。子供が親の分身でも所有物でもないのと同じように、人工知能を備えたヒューマノイドにもやがて自我が芽生え、成長して「親離れ」をする時がやって来る。その最悪の結果が恐らく『ターミネーター』なのだろうが、本作では少々意表を突く展開によってAIと人類の適度な距離感や付き合い方を考察する。是枝監督の描く未来像はとにかく優しい。
昔も、AI時代の今も、大事なのものは変わらない
是枝監督が近未来SFを撮るのは意外な気もするが、観れば納得の世界観。AIという合理に、人間という不合理がどう向き合うべきか? そんな物語を市井に落とし込む。
大切な誰かを失ったときの、喪失感を埋めるためのAI。一方には、主人公夫婦の生業である、家を建てるという行為があり、目の見えない部分こそ大事という哲学がある。“箱の中”に入れられた羊も目には見えないものだ。
これらがパズルのピースのようにハマれば深い感動を得られるはず。これまでの是枝作品に比べるとピースの数が多い分わかりづらさもあるが、取り組み甲斐もある。リピートして観たくなる意欲作。
大悟キャスティングの妙
是枝監督が丁寧に取材を重ねただけあり、亡くなった人をヒューマノイドで甦らせるビジネスが、細部まで“リアルな近未来”風景として迫ってくる。
本人か、その複製か。微妙な間(あわい)が時間とともに変わっていく。そこを父親の感情として見事に表現したのは、監督の視点もさることながら、大悟を配役したことで機微が繊細に表現されたと思う。天才的キャスティングかと。
わかりやすい展開ではないことは冒頭から予感され、中盤から別ストーリーが頭をもたげていく。ただ、その流れによって、作品の核心が揺らいでいくのは否めない。AIと人間の関係を見つめる、ありふれた作品にしないという、監督のチャレンジ精神と受け止めることに。
是枝監督、新境地!
ここまでSFに話を振り切った是枝裕和監督品はなかったような気がします(敢えて言えば空気人形がそうですが)。かなり突飛な設定のお話ではありますが、地に足が付いた演出と、まさに絶妙と言った感のあるメインキャスト、そして都心のど真ん中から少しだけ離れた土地と言うロケーションが三位一体となって高いレベルで融合していると感じました。映画を見る時いつもちょっとだけ敷居の高さを感じていた是枝作品ですが、本作は自分でも驚くほどすんなりの心に入ってきました。ここへきて”新境地”を感じさせる一本で、嬉しい発見でした。相変わらず子役への慧眼が光りますね。


























