自主映画界の現状…東日本大震災の影響、制作費の減少 海外の映画祭で訴え

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篠崎誠監督、市山尚三氏、塚本晋也監督

 スペインで開催中の第63回サンセバスチャン国際映画祭でこのほど、特集上映「ニュージャパニーズ・インディペンデント・シネマ2000ー2015」の会見が行われ、作品選定を行った東京フィルメックス・プログラムディレクターであり映画プロデューサーの市山尚三氏と、上映作品『六月の蛇』の塚本晋也監督、『SHARING』の篠崎誠監督が登壇した。

【写真】塚本晋也監督映画『野火』

■自主制作映画の今

 日本特集は1998年の成瀬巳喜男監督、2008年のフィルム・ノワール、2013年の大島渚監督に続いて4回目。今回は黒沢清監督、河瀬直美監督ら国際舞台で活躍している監督たちがいずれも自主映画出身であり、かつデジタル時代となって新鋭たちが続々と誕生していることに着目し、日本映画史における一つのムーブメントとして考察しようと、2000年以降製作の35作品が上映されている。

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 その中には、2012年に死去した若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』も。若松監督は2008年の特集で『新宿マッド』が上映された際に現地入りし、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』の上映も熱望したが、当時は上映枠がいっぱいでかなわなかった。若松監督は天国から見守ることになったが、実に8年越しでの実現となった。

 市山氏は冒頭で、「この特集を企画していただき、日本の映画人が皆、感謝していたことをお伝えしたいと思います。この15年でDVDの売り上げが減少し、日本の自主映画界はかなりの打撃を受け、いかに製作費を抑えて作るか? に集中してきました。そうした中、海外の歴史ある映画祭で紹介されて勇気付けられ、また多くの日本人に関心を持たせることができると思います」と謝辞を述べた。

 続けて「自主映画」の定義について、「映画作家たちが自分で責任を持って映画を作ること」と説明する。ただし今回は「プロデューサーが資金を集めたものや、製作費が1億円近いものもありますが、作家が自分のやりたい企画を実現したもの、テーマ性を持った作品を基準に選びました」として、製作委員会方式で製作された吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』なども選ばれている。

■東日本大震災が与えた影響

 バブル崩壊後となる2000年以降の作品は経済危機に家庭崩壊と閉塞(へいそく)感のある社会を如実に反映した作品が多いが、中でも重要視したのが2011年3月11日に発生した東日本大震災以降に製作された作品だという。市山氏は「震災は日本社会だけでなく自主映画監督たちにとっても大きな事件で、それによって優れた作品が生まれたのも事実です」と解説した。

 そのうちの一本が、震災で死去した恋人の夢を見続ける女性が主人公の篠崎監督の『SHARING』だ。篠崎監督は、東日本大震災による避難者がいまだに19万8,513人(8月末時点・復興庁発表)もいる現実を説明しつつ、「日本の首相は東京五輪誘致のために福島原発事故は『アンダーコントロールだ』とアピールしたが、とんでもないことです。むしろ3.11でパンドラの箱が開き、その不安の中でわたしたちは暮らしています」と力説。

 さらに「本来、映画というのは政治的メッセージを伝えるために作るものではないと思っていますが、現在は社会で暮らしていることと無関係ではなくなってきたと思います」と語り、作り手の苦しい胸の内を明かした。

■自主製作の自由と抱える問題

 塚本監督については、自主映画『鉄男 TETSUO』を劇場公開し、ロングランさせたパイオニアとして紹介された。最新作『野火』も自主製作&配給しているが、その魅力について問われると「ひとえに自由」と即答した。ただし『野火』は本来なら潤沢な製作資金を得て製作したかったことを告白し、「日本兵がボロボロになる映画は好ましくないという風潮が大きくなっている。お金以外の理由で作りづらい状況になった」と嘆いた。

 そこで海外の記者から「製作も公開状況も厳しいとのことですが、きちんと観客に届いているのでしょうか?」という質問が出た。市山氏は「血のにじむような努力でなんとか劇場上映できているという実態です。東京にはいくつかのミニシアターがあり、自主映画を上映してくれる映画館が存在していますが、残念ながら閉館に追い込まれる事態が起こっています。1週間だけ上映され、消えていく作品も多いです」と答えていた。

 ただし、厳しい状況の中で『野火』が観客動員5万人を突破したニュースに触れ、篠崎監督も「それがわれわれの勇気となりました」と言及。また市山氏は「若手監督の作品が大きな映画祭に出るのは難しい。これを機会に発見してほしい」とアピール。その言葉が届いたのか、内田けんじ監督『運命じゃない人』、石井裕也監督『川の底からこんにちは』、蔦哲一朗監督『祖谷物語 -おくのひと-』といった新鋭たちの作品はチケット完売になっている。

 第63回サンセバスチャン国際映画祭での上映は現地時間9月26日まで。この後、スペイン・バレンシアにあるシネマテーク「カルチャー・アートIVAC」での上映も決まっている。会見の翌日の地元紙「ダイアリコ・バスコ」などでは、市山氏が使った「JISYU EIGA」という言葉がそのまま見出しに掲載されており、今回の特集をきっかけにピンク映画やATG(日本アート・シアター・ギルド)などと並んで日本独自の“ジャンル”として注目を浴びそうだ。(取材・文:中山治美)

■「ニュージャパニーズ・インディペンデント・シネマ2000ー2015」上映作品

諏訪敦彦監督『H story』(2001)
熊切和嘉監督『空の穴』(2001)
李相日監督『BORDER LINE』(2002)
塚本晋也監督『六月の蛇』(2002)
黒沢清監督『アカルイミライ 』(2002)
山下敦弘監督『ばかのハコ船』(2002)
廣木隆一監督『ヴァイブレータ』(2003)
塩田明彦監督『カナリア』(2004)
柴田剛監督『おそいひと』(2004)
高橋泉監督『ある朝スウプは』(2005)
小林政広監督『バッシング』(2005)
内田けんじ監督『運命じゃない人』(2004)
河瀬直美監督『垂乳女 Tarachime』(2006)
井口奈己監督『人のセックスを笑うな』(2007)
若松孝二監督『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』(2007)
廣末哲万監督『14歳』(2006)
青山真治監督『サッド ヴァケイション』(2007)
園子温監督『愛のむきだし』(2008)
濱口竜介監督『PASSION』(2008)
想田和弘監督『精神』(2008)
行定勲監督『パレード』(2010)
真利子哲也監督『イエローキッド』(2009)
内田伸輝監督『ふゆの獣』(2010)
瀬々敬久監督『ヘヴンズ ストーリー』(2010)
石井裕也監督『川の底からこんにちは』(2009)
富田克也監督『サウダーヂ』(2011)
タナダユキ監督『ふがいない僕は空を見た』(2012)
吉田大八監督『桐島、部活やめるってよ』(2012)
藤原敏史監督『無人地帯』(2012)
舩橋淳監督『桜並木の満開の下に』(2012)
深田晃司監督『ほとりの朔子』(2013)
蔦哲一朗監督『祖谷物語 -おくのひと-』(2013)
SABU監督『Miss ZOMBIE』(2013)
呉美保監督『そこのみにて光輝く』(2013)
篠崎誠監督『SHARING』(2014)

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