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コンパートメントNo.6 (2021):映画短評

コンパートメントNo.6 (2021)

2023年2月10日公開 107分

コンパートメントNo.6
(C) 2021 - Sami_Kuokkanen, AAMU FILM COMPANY

ライター4人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

森 直人

ささやかで、大きな革新

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

寝台列車の客室という定番の映画的装置が新しい価値観を呼び寄せる。ロキシー・ミュージックの「恋はドラッグ」から始まる女性同士カップルの恋愛の確執から、一見水と油なロシア人青年との出会いへ。他者を通した自己発見の旅は、ボーイ・ミーツ・ガールという図式が備える保守性をまだ見ぬ中間色へと塗り替えていく。

フィンランドの俊英監督、ユホ・クオスマネンは16mmで撮られた2016年の『オリ・マキの人生で最も幸せな日』にしろ、「個の幸福」を問い直す広義のラブストーリーの類い稀な名手だ。時代設定は90年代で、『タイタニック』(97年)のオマージュあり。それもあの「恋愛ロマンス神話」を別の形に上書きする感じ。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

凍てつく極寒のロシアで見つけた人間の温もり

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ‘90年代後半のロシア。太古の壁画を見るため極北の田舎町へ向かうフィンランド人の女子留学生が、たまたま同じ寝台列車に乗り合わせた粗野で下品なロシア人の若者と旅をする。大都会モスクワのインテリ層としか付き合いのなかった異邦人が、戸惑いながら体験していくディープなロシア。ヒロイン自身も相当ふてくされた感じなのだけど、出会う人々はさらに輪をかけて不愛想だったり乱暴だったり。でも、ひとたび相手の懐に飛び込むと意外にも温かい。そんなちょっと風変わりな旅路をドライなユーモアで描いた作品。随所に流れるデザイアレスの名曲『ヴォヤージュ、ヴォヤージュ』がなんとも胸に染みる。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

居心地の悪さが親密さへと変わっていく空間

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

ロキシーミュージック「Love is The Drug」から始まる“世界の車窓からの、ひとり旅映画”。朝方のモスクワを出発する寝台車の「個室6号室(原題)」を軸に展開するフィンランド人学生とロシア人炭鉱夫の心の交流自体、目新しいものでなく、カンヌ映画祭グランプリ受賞作にしては地味な印象が強いかもしれない。ただ、『オリ・マキの人生で最も幸せな日』のユホ・クオスマネン監督らしい優しさとユーモアが散りばめられ、モンゴルのロックバンドの楽曲を使うセンスも抜群。『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』ばりの会話劇としての面白さに加え、個室の狭さによる居心地の悪さが親密さに変わっていく空間の変化にも注目。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

ひとときの体験が忘れられないものになる

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 冬。モスクワから世界最北端の駅ムルマンスクへ向かう寝台列車。主人公が、偶然同室になった相手は、無作法な態度で苛立たせる。窓から見える光景は、次第に雪と寒さを増していく。そんな凍える世界を舞台に『オリ・マキの人生で最も幸せな日』のユホ・クオスマネン監督が描く物語は、最後にとても幸福な気持ちを味わわせてくれる。

 旅先で見知らぬ人と接し、そこで生じるのは恋愛でもなく、友情でもなく、その後に再び会うかどうかも分からないが、しかしその体験が何かを変える。それを見ていて、そういうことはあるのではないかと思えてくる。そして、日々の暮らしにもそういう瞬間がいくつも見つかりそうな気がしてくる。

この短評にはネタバレを含んでいます
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