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国宝 (2025):映画短評

2025年6月6日公開 175分

国宝
(C) 吉田修一/朝日新聞出版 (C) 2025映画「国宝」製作委員会

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 5

轟 夕起夫

人ならざる結界へと手を伸ばす“人非人”ゆえの流離譚

轟 夕起夫 評価: ★★★★★ ★★★★★

ここ数年、「李相日映画」というのは噎せ返るほど濃厚で、どこか敷居を高く感じさせもしたが、今作はもう、かつて市井の誰もが気軽に大河ロマン『鬼龍院花子の生涯』(82)を楽しんだ時ぐらい間口が広く、劇画チックで通俗的な味わい。芸道モノにしてヤバい人たちの物語を紡ぎ、気になる描写は散見されるものの約3時間没頭、浮き/憂き世を忘れさせてくれる。

「才能か血筋か」の命題よりも田中泯扮する、妖気漂う“人間国宝”に選ばれ手招きをされて(まるで「清順映画」のように!)、十字路(クロスロード)の契約へと導かれてゆく役者(吉沢亮)の性(さが)の探求に心奪われる。人ならざる結界へと手を伸ばす“人非人”ゆえの流離譚。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

2025年の日本映画を代表する大本命!

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

歌舞伎の女形をめぐる大河ドラマを175分という長尺で魅せ切るという意味では、まさに“日本版『さらば、わが愛/覇王別姫』”。そんな李相日監督の意気込みだけでも高く評価したい。『さらば、わが愛』における文化大革命のような時代のうねりに代わり、主人公を待ち受けるのは「ザ・ノンフィクション」で密着されるような血をめぐる波乱な役者人生。それが、ややステレオタイプに見えるが、それゆえの心地良さあるのも事実。なにより、ヤクザの親分として冒頭に登場する永瀬正敏から、役者たちの熱量感じる芝居に引き込まれる。2025年の日本映画を代表する一本であり、ここに俳優・吉沢亮の代表作が誕生した!

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

ただただ圧倒的な“血”の物語

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 芸と女形、友情と葛藤などの要素は『さらば、わが愛/覇王別姫』を連想させるが、物語の重厚さもそれに引けをとらない。

 もっとも大きなテーマとなっているは血のつながり。世襲という歌舞伎の世界の常識の中では、どんなに芸に秀でていてもギリギリのところでは拒絶される。そして、そんな不遇の役者にも“血”の物語がある。時に冷酷な、その現実に最後の最後まで圧倒される。

 舞台でのたおやかな所作を体現した吉沢亮と横浜流星の熱演は、それだけで目を奪われるが、それぞれが抱える葛藤の表現も重く響く。そういう意味でも、この映画は圧倒的だ。

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森 直人

「良い芝居」と「良い画」しか撮らないという李相日の本領

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

スクリーンで鑑賞してこその豪奢な愉楽を堪能した。現代的というより古風な造りだが(あるいは意図的な反時代性か)、お話は『さらば、わが愛/覇王別姫』×『ガラスの仮面』といった趣。女形の約50年。因縁の二人を演じる吉沢亮&横浜流星は圧巻。彼らをはじめ“役者を観る”映画には違いないが、熱演のショーケースを超える世界観の美とうねりで3時間全く緩まない。

歌舞伎という芸能が本来的に持つ社会の周縁性にしっかり着目しているのも李相日監督らしい。ジャポニズムという一種の戦略もここまで徹底すれば清々しい。83年のカンヌに出た今村『楢山節考』や大島『戦メリ』、あるいは北野『Dolls』等と並べても遜色ないと思う。

この短評にはネタバレを含んでいます
村松 健太郎

見事な超大作ドラマ

村松 健太郎 評価: ★★★★★ ★★★★★

数奇な人生を送り、やがて女形の役者として大成していく一人の男の物語。吉沢亮、横浜流星、渡辺謙という新旧大河ドラマ主演俳優を筆頭に隅々まで豪華キャストが揃いました。3時間近い上映時間ですが、各俳優の熱演と李相日監督の力強い演出もあって最後まで飽きさせません。吉沢亮と横浜流星は歌舞伎役者という本当に難しい役どころを見事に演じ切りました。歌舞伎のシーンでは変に逃げたり、省いたりすることなく正面から描くというもの並大抵のことではないとも思いますが、見事にやり切りました。100年に1本という原作者の言葉も納得の壮大なドラマでした。

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斉藤 博昭

小説の視覚化と、役者の魂が至芸と化すプロセスが重なる奇跡

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

壮大で深遠な原作を3時間弱に収めるうえで時代を一気に飛ばし、急展開あり、重要なキャラをほぼ削除。中盤からは種々エピソードの組み替えや改変に苦心が見てとれる。人物の秘めたる心情、特に主人公・喜久雄が歌舞伎に憑かれた根源は、やはり原作に比べると表面的で淡く感じてしまう(なので「読む」楽しみも!)。
それでも吉沢亮、横浜流星の全編の演技と歌舞伎の芸の習得は、今を生きる俳優として最高レベルに達しており、ドラマと演目のシンクロの妙、映像としての歌舞伎の見せ方など、映画的カタルシスは尋常ではない。原作者が忍ばせたテーマもポイントの場面で濃密に掬いとられており、間違いなく2025年の日本映画を代表する一本。

この短評にはネタバレを含んでいます
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