ワン・バトル・アフター・アナザー (2025):映画短評
ライター7人の平均評価: 4.6
賞レースを賑わせること必至の「2025年のハリウッド映画」
『インヒアレント・ヴァイス』より、さらにトマス・ピンチョンの原作を再構築し、オスカー脚色賞候補確実といえるほか、年末からの賞レースを大きく賑わせること間違いなしのポール・トーマス・アンダーソン監督作。前半はテヤナ・テイラー、後半はショーン・ペンの独壇場と、またもディカプリオは食われてしまった感はあるが、それでもPTA作品のダメ男アイコンとして輝いている。世相をぶった切ったブラックユーモア全開。「2025年のハリウッド映画」という意味では高評価できるが、出オチ感の強いベニチオ・デル・トロ演じる“センセイ”など、さらに面白くなったと思われるだけに、ちょっと惜しい。
今のアメリカを映し出した痛烈な風刺ブラック・コメディ
一部の保守系白人富裕層によって支配され、貧しき庶民が虐げられ、名もなき移民が迫害される全体主義国家アメリカ。当局に指名手配され身を隠していた武装革命グループの元メンバーが、宿敵によって誘拐された我が娘を取り戻さんと奔走するも、しかし長い潜伏期間の自堕落な生活から感覚が鈍って右往左往していく。まさしく今のアメリカ社会を映し出した痛烈な風刺ブラック・コメディ。権力の暴力に対して暴力で立ち向かう革命家たちの物語だが、そこへ一筋縄ではいかない家族の物語が絡むことで、世代を超えて受け継がれていく自由と革命と反骨の精神を高らかに謳いあげる。ただ、デル・トロ演じる格闘家の不完全燃焼な扱いはちょっと惜しい。
スケール、濃いテーマ、娯楽性を兼ね備えた傑作
シネフィルに愛される巨匠ポール・トーマス・アンダーソンのフィルモグラフィーにおいて最も完成度が高い傑作。ビッグなスケールを持つ大作で、テーマ的に非常に濃く、ユーモア、アクションが絶妙に混じり、俳優たちから最大のものを引き出している。とりわけショーン・ペンはすばらしく、スクリーンに出てくるたびにときめき、目が離せない。ディカプリオも、コメディの才能もあらためて証明。今アメリカで起きていることがまさに反映されていると感じるストーリーながら、原作小説は1990年に書かれており、アンダーソンは何年も前から映画化の構想を持っていたとのこと。そこにもまた、人間についての不都合な事実を見る。
闘争また闘争の果てに、未来への希望が見える!
たとえば『ブギーナイツ』のマーク・ウォールバーグ、『パンチドランク・ラブ』のアダム・サンドラー。PTA作品のダメ男像が本作ではディカプリオに憑依した、そんな感覚だ。
共通するのは彼らの演じたキャラのカリスマ性の欠如。本作の主人公の場合は、革命戦士を自称しながらも過去の栄光にしがみついて楽な人生に流れていく。裏切者の烙印を押されながらも革命に殉じようとする妻の覚悟とは好対象。この構図が面白い。
注目すべきは、そんなダメ男でも父親としての役割を果たそうと奮闘すること。父である男と、革命家の女の間に生まれた愛娘の成長に未来が見えた。傑作!
今を撃ち抜く痛快作
ポール・トーマス・アンダーソン待望の新作。2時間42分という長尺ですが、巧みな演出でしっかりと見せます。これまでの作品の中で最も予算が潤沢になったということで、その分だけエンタメ色が強くなった印象があります。原作を脚色して現代を舞台にしたことで、思っている以上に”今を撃ち抜く”一本となりました。また中盤以降思わぬ展開になり、物語が大きくスイングして嬉しい驚きがあります。オスカー俳優3人を揃えましたが、やはり今回はショーン・ペンに一票です。何時も危うい狂暴性を感じさせる人ですが、今回のは特に凄まじい。もちろんディカプリオもデル・トロも巧いので常に画に贅沢感があります。
ポール・トーマス・アンダーソン無双!
最高。『インヒアレント・ヴァイス』に続くPTAのピンチョン原作物だが、まさかの全開バリバリの超絶エンタメ! 70s映画のボディを拡張的にチューンナップし、ごっつい排気量のアメ車がEV車をぐんぐん抜いていく感覚。ディカプリオ扮する元革命家のヨレヨレ親父(『ビッグ・リボウスキ』のブリッジスと重なる)が厄介事に巻き込まれ、カリフォルニアのあらゆる場所・地形へと移動する。
スピルバーグが本作を絶賛してPTAを「往年の名監督のよう」と評したが、まさしく。これを観るとハリウッドの現状の停滞が嘘みたいだ。“父子”モチーフは彼おなじみだが、実は“母と娘”の主題が大枠にあり、革命の魂は未来形で継承されていく。
極端な人間たちの過激な運命を、映画の歓びへ導く天才の力技
PTA作品なので品質保証済み。時として観客を絞ることもある彼だが、本作は有無を言わさず“勢い”で飲み込んでいく。不条理さも映画のダイナミズムと化す冒頭からの「武力革命」で、善悪の混沌に陶酔し、中盤もどう転がっていくかのドキドキがずっと持続。
各キャストの顔がここまで脳裏にやきつく映画も珍しく、“変態”極めるショーン・ペンが止めを刺すはず。
いくつか現代社会を痛烈に皮肉るネタも出てくるが、そのブラックさが実に美味。
異例のビスタビジョンによる撮影がスーパーレベルの没入感を誘い、映画を観慣れた人の心を激しくざわめかせる、奇跡のアクション場面も用意されている。映画的興奮に満ち溢れた体験を確約したい!


























